おひつじ座28度 サビアン

大勢のがっかりした聴衆

プレゼントの山に囲まれた男性の話に、旅人はまだ静かに耳を傾けています。

「オレさ、一生独身でも、この仕事さえできて、それを良いって言ってくれる人がいれば、それで十分幸せだって思ってた。

 でもさ、大事にしたかったんだと思う。

 大事にされたいっていうのは、大事にしたいの裏返しだったんだよ、きっと。

 自分の家族を大事にしたかったんじゃないかって。」

次の瞬間、旅人と男性がいるのは真っ白な空間ではなくて、たくさんの聴衆で埋め尽くされたホールのような会場に移っていました。

 「……だからさ、機会があったら、結婚するのも良いかなと思ってる。」

男性が言葉を言い終わった瞬間、会場から割れんばかりの悲痛は悲鳴が上がりました。

旅人は、男性が言ったのは世間や他人のイメージの中の自分よりも自分の意思を尊重して発した言葉に思われたので、それに矢のように悲鳴が突き刺さっているように感じて、咄嗟に守らなければと思いました。

男性の前にかばうように飛び出した瞬間、旅人の意識は男性の中に吸い込まれていきました。