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2014年4月の記事一覧
〔小説〕 猫 (二)
飼い主を拾ったのは冬の雨の夜だった。傘もささずにずぶ濡れで歩いていたから、手をひいて部屋に連れ込んだ。
ぐしょぐしょに濡れて重たくなった背広を脱がせ、鴨居に掛ける。風呂をたてて布団を敷いた。湯からあがった飼い主にバスタオルを投げる。先に布団にもぐりこんで、丸くなる。
部屋は踏切に近く、夜半過ぎまで遮断機の煩く鳴る音がする。飼い主はなかなか寝付けないようだった。何度も寝返りを打つ。それでもやがて
〔小説〕 猫 (一)
部屋に帰ると猫がシャワーを浴びていた。鍵を探しているあいだ、鼻歌が窓の向こうから聞こえていた。
小さなアパートだから脱衣室なんてない。僅か四畳足らずの板の間が、玄関兼、台所兼脱衣場だ。床に無造作に投げ出されたバスタオル。僕は磨り硝子の扉の向こうへ向けて「ただいま」と声を掛ける。
猫は扉を細く開けて、おかえり、と鳴いた。僕は濡れた猫の頭を撫でてやる。
ネクタイを外しスーツを脱いで、冷蔵庫から缶