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駆け抜け 230731

・さあ、一週間の休暇が終わって明日から仕事だ。そういう機運が自分の中に芽生えつつある。ああ、切り刻んでおきたいものですね。新芽が芽吹くことを「けむる」という動詞で表すことが可能らしい。たしかに、いま、私は煙たい……

・休みのあいだ、なにをしようかと思って、とりあえず実家に帰ったが暇だった。「実家は暇だ」という私に母親が言ったセリフがこうである。「みんなが地元に帰るのは、家族に会うだけじゃなく友達に会うためなんだよ。でもあんたは」

・ーー地元に友達がいない!

・じゃあ東京に帰ってもよかったな。いや、もうみんな私のことなんか忘れてるね。間違いない。新宿も調布も見違えてるさ。とにかく、宿代も電気代も食費も浮いたので、実家に帰るというのはお金を浮かすことと考えれば、よいか。なんで私って地元に友達がいない……?

・地元にはゾンビしかいなかったような。


・先月末に免許を取って、親からボロい車を譲り受けたので、最近はもっぱらそれで行動している。ボロいので無理ができず、実家に帰るにも車を使ったが、高速道路は奴には厳しすぎるのでバイパスを通って帰った。それでも無理をした。

・浜名バイパスというのに乗るなよ、絶対に、と母から忠告があったが、ナビ通りに行ったら乗ってしまった。ナビから外れるほうが私には怖いことなので、それもまた仕方のないことだったが。

・浜名バイパスというのに乗ると、要は飛ばす車がすごい多いので危ないとのことだった。だが実際乗ってみると私は先頭だったので、まあ60キロでたらたら走ればいいかと思って走っていたら標識が見えた。80キロ道路だ! 慌ててアクセルを踏んだ。海沿いだから潮が飛んでいて視界も悪いし夜だし大変びっくり。追い越し車線が私の車を飛び越して2秒後には豆のように小さくなっている。40~60キロの速度で調整するのは別に苦しゅうないが、80~100キロは速度感が体感をおおよそ超越しているので気がつくと100キロ出ていたりする。速度計なんか見る暇がないし、結局周りの速度に合わせるのが一番安全ということになる。

・終盤、私の車が変な音を立てて80キロ以上出せなくなった。終わりだ。ボーナスが入ったら新車にしよう。一年目でもボーナスで新車を買うことは可能らしい。偉い人が言っていた。

・運転自体は別に楽しい。小学生のころ、NFSWという車のゲームをやりまくっていた私は、実質走り屋といっても過言ではない。いつか脱輪してバーストを起こし高い塀を飛び越して崖から落下して死ぬだろう。



・辞めたやつも転属したやつも、すぐにいなかったのが当たり前かのようになる。きっと見せしめに死んでもそうなんだろうなと気づいて慄えた。私の死は、きっと誰かにひどい衝撃と永遠の影響を与えるんだろうと思っていたが、おそらくそうではない。すぐに忘れ去られるとなると、およそ磔になって一度復活してまた消えねば、私の不在なんか早朝の霧と同じで、太陽に無意味にされるのである。甲斐がないよ、甲斐が。

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