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カレリアの神々のリスト:ミカエル・アグリコラの「Dauidin psaltari(ダビデの詩編)」より

フィンランドから取り寄せていた2022年カレンダーがようやく届きました。
その名も「カレリアの神々:アグリコラのリスト(Karjalaiset jumalat: Agrikolan luvettelo)」。

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ミカエル・アグリコラ(1510頃-1557)はフィンランドのルター派牧師であり、聖書をフィンランド語訳化しました。当時、書き言葉のなかったフィンランド語を文字化した初めての人物で、「フィンランド語書き言葉の父」と呼ばれています。

アグリコラの功績は多大なものですが、その中でもよく挙げられるのは、文字や数字の読み書きに加え、祈りの言葉などをコンパクトにまとめた『ABCの本(Abc-kirja)』と、『新約聖書(Se Wsi Testamenti)』です。

晩年に近い1551年に著した『ダビデの詩編(Dauidin psaltari)』は、旧約聖書におさめられた神への賛美の詩『詩編(Psalms)』を訳したもので、3年前に著された新約聖書翻訳活動の一部でした。

この『ダビデの詩編』の前書きには、キリスト教以前のフィンランドの神々の名前が紹介されており、「アグリコラの神々のリスト(Agricolan jumalaluettelo)」として知られています。記載されているのは11のハメ地方の神々、そして12のカレリアの神々です。

短い記載ですが、キリスト教以前のフィンランドの民間信仰に関する記述はその研究が盛んになる200年後まで待たなければならず、価値ある資料として今でも利用されています。

以下はアグリコラが著したオリジナルの文章です。

Waan Carialaisten Nämet olit, Epeiumalat quin he rucolit.
Rongoteus Ruista annoi, Pellonpecko Ohran casvon soi.
Wirancannos Cauran caitzi, mutoin oltin Caurast paitzi.
Egres hernet Pawudh Naurit loi, Caalit Linat ia Hamput edhestoi.
Köndös Huchtat ia Pellot teki, quin heiden Epeuskons näki.
Ia quin Kevekylvö kylvettin, silloin ukon Malia iootijn.
Sihen haetin ukon wacka, nin ioopui Pica ette Acka.
Sijtte palio Häpie sielle techtin, quin seke cwltin ette nechtin.
Quin Rauni Ukon Naini härsky, ialosti Wkoi Pohiasti pärsky.
Se sis annoi Ilman ia Wdhen Tulon, Käkri se liseis Carian casvon.
Hijsi Metzeleist soi woiton, Wedhen Eme wei Calat wercon.
Nyrckes Oravat annoi Metzast, Hittavanin toi Ienexet Pensast.

ううむ、現在では使われていない文字が多く、解読するのは難しそうです…(そういえばフィンランド留学中に授業で解読した気がする、ノート探してみよう)。ありがたいことに、Wikipedia(フィンランド語版)に現代フィンランド語が掲載されていたので、訳してみましょう。

Vaan karjalaisten nämä olivat, epäjumalat joita he rukoilivat.
Rongoteus ruista antoi, Pellonpekko ohran kasvun soi.
Virankannos kauran kaitsi, muutoin oltiin kaurasta paitsi.
Äkräs herneet, pavut, nauriit loi, kaalit, liinat ja hamput edestoi.
Köndös huuhdat ja pellot teki, kun heidän epäuskonsa näki.
Ja kun kevätkylvö kylvettiin, silloin Ukon malja juotiin.
Siihen haettiin ukon vakka, niin juopui piika että akka.
Sitten paljon häpeällistä siellä tehtiin, kun sekä kuultiin että nähtiin.
Kun Rauni Ukon nainen härski, jalosti Ukon pohjasta pärski.
Se siis antoi ilman ja veden tulon, Kekri se lisäsi karjan kasvun.
Hiisi metsäläisistä soi voiton, veden emo vei kalat verkkoon.
Nyrckes oravat antoi metsästä, Hittavan toi jänikset pensaasta.
これらはカレリア人たちが信じている異教の神々である。
ロンゴテウスはライ麦を与え、ペッロンペッコは大麦の成長を告げた。
ヴィランカンノスはオーツ麦を守護し、そうでなければオーツ麦は育たなかった。
アクラスはエンドウ豆やインゲン豆、カブを生み出し、キャベツや亜麻や麻の繁栄をもたらした。
コンドスは、人々の不信仰を見ると、焼き地や畑を耕した。
春の種まきが終わると、ウッコの祝杯が飲まれた。
そこにはウッコの行李が用意され、下働きの女や老婆まで酔っぱらった。
そして多くの恥ずべき行為が行われるのが、聞かれ、目撃された。
ウッコの妻であるラウニが怒ると、ウッコは底から雨を吹きつけた。
それは大気と水をもたらし、さらにケクリが牛を成長させた。
ヒーシは森の民に利益をもたらし、ヴェデンエモ(水の母)は魚を網に運んだ。
ニュルケスは森からリスを与え、ヒッタヴァイネンは茂みからウサギをもたらした。

記載されている12のカレリアの神々を簡単に紹介しておきます。

ロンゴテウス(Rongoteus):
 ライ麦の恵みをもたらす神。
 別名にRunkateira、Runkoteera、Rukiteera、Rukotivoなど。
ペッロンペッコ(Pellonpekko):
 大麦やビールの神。 
 名前は「畑のペッコ」を意味し、単にペッコと呼ばれることもあります。
ヴィランカンノス(Virankannos):
 ヴィロカンナスの名で知られているオート麦の守護神。
 民族叙事詩『カレワラ』では大牛伝説のくだりで登場し、雄牛を殺そうとして失敗しています。また、最終章ではマルヤッタの息子に祝福を与えるために呼び出されています。
アクラス(Äkräs):
 さまざまな野菜などの豊穣と植生をつかさどる神。
 西フィンランドではÄyräs(アウラス)の名で表されています。
コンドス(Köndös):
 アグリコラによると畑を耕し、焼き畑の種を守る存在。
 ただし、他の民間伝承での言及は見つかっていないため、詳細は不明。
ウッコ(Ukko):
 空、天候、雷をつかさどる至高の神。詳細はWikipediaをどうぞ。
ラウニ(Rauni):
 ウッコの妻の名、あるいはウッコ自身のもう一つの名。
ケクリ(Kekri):
 アグリコラによると牛を育てる神。その後、秋に行われる収穫祭をあらわすようになる。
 別名にkeyri、köyri、köyry、kööriも。
ヒーシ(Hiisi):
 もともとは森の民に利をもたらす存在で、ヒーシが住む場所をヒートラ(Hiitola)と呼んだ。
 キリスト教以降は邪悪な存在とされ、民話の中でも人々を苦しめる存在(妖怪)として描かれることが多い。
ヴェデン エモ(Veden emo):
 「水の母」の意で、水の守り神。漁の幸運と漁猟時の晴天をもたらす。
 『カレワラ』に登場する水の女神ヴェッラモ(Vellamo)と同一とされることも多い。
ニュルッケス(Nyrkkes):
 ニュルッキ(Nyrkki)の名でよく知られる、森と狩猟者の守り神で、異名も多い(Nyrkys, Nyrkiö, Nyljys, Nylkys, Nylky, Myyrikki, Nyypetti, Tyyri)。
 アグリコラの表す「リスを与え」は、「上等の毛皮を与える」の意味。
 詩歌の中ではタピオの息子、あるいは娘として登場する。
ヒッタヴァイネン(Hittavainen):
 森の守護者の一人で、ウサギを手に入れるのを手伝う存在。

ウッコ、ラウニ、ケクリ以外の神の名は、ビザンチン起源のキリスト教に関する神の名に由来し、さらに役割も変化したものだというマルッティ・ハーヴィオ(Martti Haavio)の説が有力です。

ラウニとウッコのくだりの解釈は、上述の「底から雨を吹きつける」のほか、性交に関することとも捉えることができ、判然としていません。ウッコを雷の神として描いているか、繁殖の神として描くかによって見解が分かれています。

今回取り寄せたカレンダーはカレリア共和国のペトロザボーツクにあるNGO団体が作成したもので、このアグリコラのリストに記載されたカレリアの12の神々を各月にイラストで紹介し、まつわる詩歌や情報をロシア語、カレリア語で添えています(ロシア語が主)。

例えば3月はヴィランカンノス。

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イラストも不思議で幻想的な印象。

ちなみにアグリコラの『ダビデの詩編』は、国立図書館のアーカイブよりpdfで閲覧可能です。

カレリアの神々が掲載されているページだけ、画像で載せておきます。原文を読んでみたい/確かめてみたいという方は、ぜひご覧ください。

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