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3日目最終日 RYUTist SEASON3 LAST TOUR「会いにいきます」新潟公演

忘れ物

目が覚めた。夜中の3時だった。
そのまま寝ようとしたが、気が立っているのかどうしても眠れず、スマホを取ってtwitterを開いた。
メンバーやファンから乃々子さんへの大量の感謝のメッセージが投稿されていた。そうだ昨日で最後だったんだ。

頭に浮かんでくるのは、テルサのステージで笑顔の乃々子さん。花束を持った最後の乃々子さん。
そして初めて自分の目で見たタワレコの乃々子さん。サイン中にテンパってるファンを優しく見つめる乃々子さん。ライブで目の前まで来てポーズしてくれた乃々子さん。特典会で僕の名前を呼んで微笑んでくれた乃々子さん。
もう居なくなるんだ、もう二度と会えないんだ。

壁が崩れた。1時間くらい涙が止まらなかった。

落ち着いた後に片付けを始めた。今日は一人で聖地を巡って帰るだけだ。荷物を少なくするため不要なレシートなどを整理してた時に、テルサで貰ったはずのベストCDのチラシが無い事に気づいた。いくら探しても見つからない。ハッと思い出した。

ヒヤマさんがキリヤマさんへの物販を買われてたのでチラシを多めに貰って「コレも一緒に送ってください」とお渡しした。その中に自分の分も入れてしまったのかもしれない。
ヒヤマさんにメッセージを入れてから、ホテルをチェックアウトした。

春にゆびきり

昨日と同じ自転車を借りて向かった先は「春にゆびきり」のMVで乃々子さんが歌う陸橋だ。
映像では暗くて寂しい感じだったが、晴天の中で乃々子さんの卒業をお祝いするかのように桜が咲き乱れていた。

僕がRYUTistを知ったのは つい最近で、ファンのパソコン音楽クラブが作っってくれた「春にゆびきり」という曲だった。
MVで寂し気に歌う乃々子さんの姿を見て、なんて綺麗な人なんだ! と釘付けになった。それから少しづつRYUTistを好きになった。だから僕にとってRYUTistのイメージは乃々子さんで、乃々子さんのイメージはこの場所だった。この場所からしばらく動けなかった。

桜を眺めながら思った。
いま乃々子さんは何をしてるのかな?
十数年ぶりに「RYUTistでは無い佐藤乃々子さん」としての朝を迎えて、ゆっくり朝ごはんを食べて、テレビでも見ているのかな。
天気がいいからショッピングに行こうか?そんな毎日が始まるのかな。

残ったメンバーは3人でのレッスンが始まる。ライブもある、撮影もある、ラジオもある。どんどん離れていく。そしていつか「4人のRYUTist」っていう事実が消えちゃうんだ。そう思うと涙が止まらなくなった。

四つ葉のクローバー

気が付くといつの間にか辺りは桜を見に来た人で溢れていた。涙を拭いて逃げるように同じ敷地内の「りゅーとぴあ」へ向かった。
ここは上の「春にゆびきり」のMVでも出てくるが、いつか大きなステージで歌いたいと望んでいたRYUTistが夢をかなえた大舞台だ。

感慨深く眺めているとすぐ横にクローバーの群生を見つけた。
幸運の四葉のクローバー・・・乃々子さんの幸せの為に・・・って渡す機会も無いのに?でも見つけて写真だけでも送りたいな。
30分探したが見つからない。そうだよなもう幸運の女神は帰っちゃったんだしな。ちょうどその時ヒヤマさんからメッセージが入った。

「今からバスセンターへ向かいます」

りゅうとぴあ

新潟日報

また会いましょうお元気で、と言って別れたのに数時間後に会う事になるとは。私のミスだけどちょっと嬉しい。
もう見慣れた ろうきん広告の前で見慣れた人と会ってチラシを受け取った。すぐ空港に向かうつもりだったが、なんとなく着いていった。

新潟ろうきん

「あの川辺を歩いて北書店に行きます」
そういえばヒヤマさんはテルサで北書店の店長とお話されていたんだった。
北書店とは本好きの友恵さんが懇意にしている本屋さんで、こじんまりした店内に店長の好みで集められた本が並び、そのセンスが高く評価されている名店だ。過去には店内でライブを行ったりとRYUTistとも深い繋がりがある。

歩いていると新潟日報が見えてきた。
そうだ、やらなければいけない事があったんだ。
「ちょっと寄っていきませんか?」僕は言った。

新潟日報社

以前東京に行った際に、偶然にも乃々子さんの卒業記事が載った新潟日報を2部入手できた。昨日1部をかずぽんさんに差し上げたが、乃々子さん推しのヒヤマさんにも入手してもらいたかった。
新潟日報社の1Fはカフェになっていた。新聞社は「関係者以外お断り」と書かれた先にあるようだ。どうすればいいか戸惑っていたが、インフォメーションがあるのを見つけそこでその日の新聞を入手できた。よかった、やっと胸のつかえがとれた。

新潟日報

センシティブサイン

僕は本を(漫画も)読む習慣がない。
以前は通勤で読んでいたが、今はもっぱらスマホを触り本は読まなくなった。お店に行ったら何か買わなきゃってなるしな。でもなんとなくさよならを言い出せず、北書店という最大の「聖地」に向かっていた。

川辺を歩くと風景がとても綺麗に見える。
桜、信濃川、そして奥にそびえたつ朱鷺メッセはとても絵になる。歩きながら朱鷺メッセの感じがずっと気になっていた。センシティブサインで実郁さんが歌うシーンに似ているような。

もともとは昨日行った みなとぴあだと思っていたが、現地に行くと背景に写る朱鷺メッセの形が違って見えた。
今回の聖地訪問で気づいたが、撮影は極力移動せずに行っている。方向を変えてまるで別の場所に移動したように見せ、最小限の移動で最大限の効果を出しているのだ。
MVで実郁さんが布をはためかせているのは萬代橋・・・自転車で走っているのも同じ萬代橋・・・スマホでMVを再生しながら辺りと見比べる。なんの事はない、今僕が居るここ、萬代橋のすぐ下が実郁さんが歌っている場所だった。
(注意:恐らく間違い。萬代橋の上から広角で撮影したものと思われます)

テンションが上がりパシャパシャと撮影をしていると急に声をかけられた。「いやー、前見たらめっちゃ写真撮ってる人いてウケるっすよ」
大声で前を歩くヒヤマさんに叫んだ。
「ヒヤマさーん!たっちーさんがきましたよー!」
また3人が揃った。

北書店

北書店についた。
ヒヤマさんはグイグイ入って店長に挨拶している。僕とたっちーさんは一歩遅れて店内へ入った。
「君たちもRYUTistのファンなの?何からファンになったの?」佐藤店長は気さくに話しかけてくれる。
パソコン音楽クラブからであることを告げると「じゃ春にゆびきりのMV知ってる?北書店はもともと乃々子さんの背景に写る三角屋根の建物にあったんだよー。そういえば青空シグナルもこの近くで撮ってんだよ」「そうなんですか!?」話が弾む。
そのあとも原画や写真などいろいろ持ってきて見せてくれた。なんて親切なんだ。

盛り上がっていると店の外に小さくてふわふわとした可愛らしい女性が来られて会釈してくださった。イラストレーターの佐藤ジュンコさんだった。
ジュンコさんは北書店やRYUTistのグッズなどでお付き合いがある方で、今日は北書店の窓に書いた乃々子さんのイラストを、自ら消しに来られたようだ。

店長とのトークでテンションが上がっていた私は、北書店で販売されていたジュンコさんの本を購入し、失礼ながらもサインをねだり、ご快諾いただけた。
その話を聞いていた店長は、自由のきかない足を引きずりながら展示の一角を開けてテーブルにしてくれて、佐藤ジュンコさんは横に座りサインだけでなくイラストまで描いてくださった。
たった一冊の本を買った物見遊山の客にこんなにまでしてくれるとは。
お二人に申し訳ない気持ちと、ありがたい気持ちとで胸がいっぱいになった。来てよかった。

北書店をあとにして、新潟駅へと歩きながらトークが弾む。
ふと思い出して「そういえばさー、テルサで夢羽さんの髪型が三つ編みだったでしょ?それが嬉しくてさー」と言うと「いやそれ昨日も言ってたし!!」二人同時につっこまれた。僕はそうだったっけ?と笑う。
当たり前になってきたこの感じ。中学生にでも戻った気分だ。

ここで昨日のテルサの話をすると、最近の夢羽さんは(他のメンバーさんもだが)カッコイイを目指しているようで、もうカワイイ髪型はしてくれないと思っていた。だからカワイイ三つ編みで登場した時は衝撃を受けた。
アルバム「エン」はカッコイイに全振りした曲ばかりなのだが、カワイイ夢羽さんがカッコよく踊るのだ。まるで子供が大人顔負けのダンスをするようないい意味での違和感があった。そして音はあのRoundTableの北川勝利さんとCymbalsの沖井礼二さんを筆頭にした生バンドだ。僕はおかしくなりそうだった。

新潟空港へ

そんな話をしているとあっという間に新潟駅についた。
今からヒヤマさんはどこかドライブに行くらしく、たっちーさんは予定が無いので一緒に行動されるとの事だった。
僕も一緒に行きたかったがお土産を買わないといけないので、空港に向かう事にした。

「今度こそ本当にさようなら。また会いましょうね」

リムジンバスに乗って新潟空港へ向かう。
長いような短いような旅だった。
ほんの2日前は、逆方向へ向かうバスの中で不安いっぱいだった自分に教えてあげたい気持ちになった。「すっごく楽しい旅になるよ」って。

空港に着いてラウンジのソファに疲れた体を埋めた。ふと前を見ると固い顔をしたサラリーマンが一生懸命パソコンに打ち込んでいる。そうか今日は平日なんだ。急に現実に引き戻された。
家や会社にお土産を買わないとな。一休みしたあと、おみやげを探しているとたっちーさんが現れた。
早かったですね、と言おうとすると横にヒヤマさんが居た。また3人揃った。何回さよならを言えばいいんだ!

お話を聞くと二人はRYUTistのアルバム「日本海夕陽ライン」を流しながら、新潟県の海岸線である日本海夕陽ラインを車で走っている時に、名曲「Blue」が流れて、その歌詞と乃々子さん卒業の話とが重なってこらえきれなくなったそうだ。
もし僕が居たらどうだっただろう。一緒に泣いていたのだろうか。

この件で完全に吹っ切れたのかヒヤマさんは笑顔で去っていった。今度こそ本当に絶対に最後のさよならだ。
乃々子さんやRYUTistのメンバーさん、仲良くしてくれたファンの方たちが居る新潟ともお別れだ。手を振りながら言葉にならない感情が溢れてきた。

エピローグ

いつの間にかぐっすりと眠っていた。
激しい揺れと叫び声で目が覚めた。どうやら乱気流の揺れで前の席の方にサービス中のコーヒーが掛かってしまったようだ。アテンダントさんはしきりに謝罪していて、その若い女性は大丈夫ですと繰り返していた。

「大変でしたね」被害を免れた隣の方が声を掛けて世間話が始まったようだ。そのうち偶然にもお互いサッカーのファンだった事が判明し、推しとのツーショット写真を見せあって大いに盛り上がっていた。

親と子ほど歳の離れた二人。旅はいろんな偶然が起きるんだな。

僕は旅の出来事を思い出していた。
曇りの多い新潟でこの3日間の晴天は珍しかったそうだ。ただの偶然だったのかな?それとも。

もしそんな不思議な力があるのなら、
今からは自分の為だけに使ってね。

ありがとう、乃々子さん。
元気でいてください、それだけは頼みます。
さようなら。

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