HBRメモ_デュアルキャリア・カップル働き方支援_人事制度_企業文化_働き方_モチベーション_WLB_育児

以下抜粋メモ。

育児のための支援制度。1つ目が「グランドファーザリング」という名の制度。

 女性社員が産休・育休後に復職した場合、普通は、産前と同等の仕事を期待される。特にマネジャーであれば、それまで通りの働き方を求められる。だが、小さい子どもがいる場合、生活のリズムは変わり、急な病気やけがなどでいつ呼び出されるかわからない。時間に自由が利かない中、それまでのように役職に見合った仕事に責任を持てるのか、と多くの人は不安になるものだ。

 そう言うと「時短勤務にしたり、降格したりすればよいのではないか」と思われるかもしれない。ただし、給料は生活の糧でもあるから、減らしたくはないだろうし、それまでの成果を簡単に捨てるような選択はしたくない。一方で、熱心に働いていた人こそ「育児が原因で周りに迷惑をかけて申し訳ない」という罪悪感を覚えてしまう。

 そこで、役職や給料を変えずに、一定期間、1つ下のレベルの仕事ができる、というのがこの制度。

 たとえば、マネジャーの中で3等級あったなら。真ん中のレベルの人なら、復帰後は一定期間、1つ下の等級の役割を担う。一番下であれば、非管理職の最も上の等級の仕事をする。これならば、役職や給料が変わらないまま、仕事のレベルを落とせるので、体だけでなく心にもゆとりが生じる。実際に、男女の別なく取得が可能。

ただ、私たちはより一歩踏み込んだ制度をつくった。それが、いつでもどこででも働ける制度「Work from Anywhere and Anytime」である。

WAAは、理由を問わず、会社以外の場所で勤務できる制度だ。平日の5時~22時の間で、自由に勤務時間と休憩時間を決められる。労働時間が1日換算で7時間35分に達し、2カ月単位で標準勤務時間(1日の労働時間×所定労働日数)を守っていれば、オフィスに出勤しなくても、1時間しか働かない日があってもよい。在宅勤務やフレックスよりも自由度が高く、残業は月45時間以下が目安となる。もちろん、何度利用してもよい。

 事前の書面申請は不要だ。会社には管理監督の義務があるため、災害や事故などの万一に備えて、部下は上司にどこで働いているのかを申請する必要はあるが、運用は簡単にしている。たとえば、チャットツールで部下が「今日カフェで仕事します」と打てば、「了解!」と返事をして終わりだ。

 WAA導入後、社員にアンケートを行った。回答者の結果を集約すると、社員のおよそ9割が制度を利用したことがわかった。その中で「生産性が上がった」と感じた人が75%いた。さらに、67%の社員が「毎日にポジティブな変化があった」と答えた。制度開始の前後で、「より幸せになれた」と感じる人が33%いた。

 それでは、社員はこのWAAを何のために使っているのだろうか。その用途は、大きく4つに分類することができる。

 1:通勤ラッシュの回避

 2:家族との時間

 3:学校活動の参加、子どもの看護、親の介護、通院や家の用事

 たとえば、子どもが発熱した場合、親は有給休暇(ないし半休)を取って、子どもを病院に連れていったり、看病したりしていた。だが、WAAが始まったことで、必ずしも休暇を取得する必要がなくなった。ここに、予想以上に喜びの反応が寄せられ、私自身も意外な発見があった。つまり有給休暇というものは本来、家族との旅行や趣味の楽しみなど、ワクワクするような用途に使いたいものなのだと。だが、急な看護や介護等には仕方なく休みを取る必要があった。その「仕方なさ」を取り払うことで、本来の楽しみのために休暇を使えるようになったのだ。これを評価する声が案外大きかったため、「休暇というのは前向きなことに対して使いたい」という隠れたニーズに気づくことができた。

 4:スポーツ(ジム)

「選択肢を広げた」だけ。工場のオペレーター業務は除き、原則、夜は脳を休めてもらいたいので「仕事をするなら、平日朝の5時から夜の10時まで」と幅を決めている。夜間や休日に仕事をする場合は、役員の了承が必要だ。だが、それ以外は会社から「何かをしなさい」と言ったわけではない。選択肢を与えただけで「決めるのは自分だ」と任せている。

 社員の中にはもちろん、「そう言われても、自分で決められない」という人もいる。だが、そういう人は、別にそれまで通りに働けばよいだけの話。大事なのは、限られた時間をどこでどう使うのか、自分の仕事の仕方について考える機会を提供したということである。すると、社員の意識や行動に変化が生まれた。

 それまでは決まった時間にオフィスに来て、決まった時間に帰っていた社員も、会社に「来なくてもいい」という選択肢があると、オフィスに行く意味を考え、結果オフィスでできることに集中するようになった。わざわざオフィスに来て、みんなが顔を合わせているのだから、無駄な会議を続けたり、むやみに会社に残ったりすることが少なくなった。社員は「今朝はオフィスを選んだ」と主体的な選択をしたという実感を持て、自分の働き方や時間の使い方に対してより敏感になり、生産性も上がったのだ。

 しかしながら、なかには首をかしげる方もいるだろう。おそらく社員を自由にしたら「働かなくなる」と思われているからだ。「社員のわがままに付き合うのはよくない」とか、「社員の自分勝手を許したら会社として大変だ」などという抵抗感があるのはわかる。だが、不安になるなら私たちのWAAを思い出してほしい。それが杞憂だということを。

 WAA導入時に、それ以外の制度は変えなかった。つまり、評価の仕方はそれまでと同じだ。年初に面談をして目標を設定し、年の半ばの面談で進捗を確認、年末に総合的な達成度を評価する。非常にシンプルなものだ。

 社員に出しているメッセージはたった一つ。それは「結果を出してください」ということだ。WAAというのは成果主義の上で成り立った、「あなたのことを信頼している」という制度である。生産性を上げろなどとは言わず、働き方の選択性を与えた分、自分の強みと持っている能力を余すところなく活用して、成果につなげてもらいたい。

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