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道筋のない対話から、学校の輪郭が見えてきた。 〜地域の学校Vol.14

今回は、2月に実施した会のレポートです。

日本人は心配性が多い

最近、遺伝子のことを勉強したゆっこさん。曰く「日本人は心配性が多い」のだとか。自分で意思決定することに幸せを感じるのは、日本人の約3割に過ぎないのだそうです。
一方よしみさんは、その事実には同意しつつも、どちらかと言えば「心配事の9割は起こらない」を信じているといいます。

やる前に心配するよりも「起こったときに対処を考えよう」とするタイプは世の中では少数派。自分ではなく誰かが道筋を決めてくれたり、心配なら実行しないで失敗を避けたたりしたほうが幸せ、と感じる人の方が、日本では圧倒的に多いように思います。

今回のゆっこの部屋では、「失敗」のイメージがシェアされました。
以前ゆっこさんは、医療事務のパートを受けるため、小論文を書くことがありました。テーマは「失敗と成功について」。それに対して「失敗も成功も同じ経験に過ぎない」という趣旨で回答したら、不合格になったと笑いながら教えてくれました。

きっとその試験は「失敗をしないように」するためにどうしたらいいかを考えさせようとしたのでしょう。もちろん、医療現場は失敗は許されない環境ですから当然です。しかし、日常におけるほとんどの場合の失敗は、医療現場ほど厳密ではないように思います。むしろ「失敗したほうがよく学べる」ということのほうが多いかもしれません。

失敗がなければ改善もなく、その次につながっていかない。行動しさえすれば、たとえ失敗したとしても全部前に進んでいる。ゆっこの部屋でシェアされたのは、成功のハードルは実はものすごく低く捉えてもいいよね、という考え方。「行動しただけで、成功!」といえます。

幸福は、ゴールはどこ?

よしみさんは、職場での若い世代との会話をシェアしてくれました。
若い世代に将来の方向性を聞くと「お金が欲しい」という子が多いといいます。ああなりたい、こうなりたいという希望がなく、それに向けた道筋もなく、お金さえもらえれば幸せになれると思っている。

よしみさんの感覚では、お金そのものが幸福ではありません。自分がこうなりたいという方向性をイメージして、その通り行動することが幸福を招くのであって、その先にボーナスみたいにお金がついてくる、といいます。
「明日死ぬかもしれないのに」、今を犠牲にしてまで稼ごうという価値観には、疑問があるといいます。

よしみさん自身、ご自身が好きな服飾の仕事をしつつも、子育ては最優先!という自分ルールを決めて行動されています。得られる収入よりも、家族との時間やファッションに触れる時間を楽しみながら生活されているな、という感じがあります。

道筋はないけど、最短距離

ゆっこの部屋は、学校をつくる目的で対話をしていますが、制度について話したり、お金の話をしたりは全くしていません。毎回テーマもよく決まっておらず、各人が話したい、シェアしたいと思ったことを中心に話していきます。
正直、学校を作るという目的からすると、達成のために進んでいるかどうかとても実感しにくいです。また、初めていらっしゃる方にも、とても説明がしにくかったりします。

それでも、道筋をつくっていかない話し方こそが、この会の根幹であるといえます。なぜなら、制度の先に学校があるわけではないからです。
自分たちができることを話していくことで、学校を含めた社会を作るというのが、今の私たちの考え方です。

最近、このあり方を、他の人に話す機会があったゆっこさん。
ある方に「先が見えないようにみえるけど、それが最短距離なのでは?」と言われたそうです。
その方曰く、制度に基づいた学校という形にならなくても「何かがなっている」ように見えると。

何かとは、一体なんでしょうか。

私個人としては、「変化」あるいは「成長」と言い換えることができるかもしれないと思っています。最初は、主催であるゆっこさんや山田さんの話を聞くことが多かったゆっこの部屋。最近、参加者一人一人が、自分として語ることがとても多くなりました。その結果、悩み相談に始まり、その解決をみんなで考えたり、やりたい人同士がマッチングして新しい活動を広げるといったことができるようになってきました。
参加者それぞれができることが、この場を通じて、少しずつ社会に拡がってきています。

自分たちでやる、にこだわる

またゆっこの部屋は、教育界の著名人を呼ぶ活動はしていません。
こんなすごい人が来ます!という触れ込みがあれば、もっと人は集まるはずです。しかし、そうして集まった人が行動を起こすとは限らないのが現状です。
例えば現在の日本では、たくさんの海外のメソッドが紹介されていますが、イベントによってそのうちのどれかが圧倒的に広まったという事例は聞きません。

以前ゆっこさんは、フィンランドの教育を学ぶセミナーに参加したそうです。その場の大人たちは、メソッドや著名人の考えを「学ぶ」意思はあっても、それを自分で生かしていくような空気ではなかったといいます。

ゆっこさんは、まず先に大人が変わらなきゃいけないということを強調します。
「今の教育を変える答えは、著名人やメソッドにあって、それを導入すれば学校や先生がやってくれる」。そうした大人の考えは、頭では変化が必要とわかっていながら、自分の行動は変化させようという気がないもののようにも受け取れます。

大人の言動と行動が一致していなければ、子どもはパニックを起こします。ゆっこさんは、問題を起こす子どもの多くは、親の不安が原因だといいます。
慣れ親しんだ習慣を変えるのは難しいことですが、まずは自分を変えることが子どもにとっても一番学びやすいはずです。誰かにメッセージを伝えるのには、一緒に過ごす時間が長いほど伝わりやすいからです。

自分の行動が正解かどうかは、子どもが育ってみないとわかりません。それでもまずは「行動しただけで、成功!」と思えば、子どもにもそれが伝わるはずです。

この会が成立する理由

それから、ゆっこの部屋では、いわゆる「グランドルール」がないにもかかわらず、ちゃんと対話が成立しています。それはなぜなのか、少し話してみました。

私は、自分がやられて嫌なことをやらないという個々の責任感が強いのではないかと思いました。他にも、沈黙を受け入れていることだったり、マウントをとらないことであったりが特徴として挙げられました。
すなわちそれは「お互いを尊重する」ということに集約できるかもしれません。

ゆっこさんは、誰かと話していて、「たとえ相手を心底しょうもない人だと思っても、心から尊重している感覚がある」といいます。生きているということには、良し悪しはないという前提のもと、どんなに自分と合わない人でも、それはその人の個性として受け入れる。ただそんな中で、自分が共感できる人に出会えるということは「宝のようだ」とよしみさんは言います。

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見えてきた、キノトリ学園の輪郭

前回のゆっこの部屋での対話はここまででした。

ここからは、記録係である私の個人的なまとめ。
約2年間の対話を続けたことで、なんとなく「キノトリ学園」の特徴が見えてきましたので、ここで言葉にしてみたいと思います。

自分であること
誰かに言われたからやるのではなく、自分のやりたいことをやること。
誰かのためよりも、自分がまずどうしたいかを考えること。
多様であること
一人ひとり違うことが大前提で、お互いの存在・価値観・意思決定を尊重すること。
中心がないこと
子どもだけが学ぶのではなく、大人もまた学ぶこと。誰もが先生になりうるし、誰でも生徒になりうる。
正解がないこと
用意された問題の正解を導き出すのではなく、自分で問いを立て、自分で答えを探すこと。
今ここを生きること
将来のための準備や備えよりも、今興味あることに集中すること。
見えない他人の目を気にするよりも、目の前にいる人との対話を大事にすること。
長野県であり、日本でありながら、世界であり、宇宙であること
生まれた環境、性別、貧富を超えて、どこにいてもどんなステージにあっても、人間として生きていける心を育むこと。

最後の「人間として生きていける」という文には、以前のゆっこの部屋での対話が影響しています。

以前のゆっこの部屋で、「親しい人が自分で死を選ぶことを受け入れられるか」という話題がありました。その時、自分にとっては耐え難いほど辛いけれど、その人の選択は最終的には尊重できるという考え方がシェアされました。
基本的に、私もその意見には同意です。人の選択は他人にどうこうできるものではないし、いずれにせよ、死は誰にでも等しく訪れるもの。自分が幕を引くという選択肢もあっていいのではないかと。
ただ、その話を終えてしばらく経ってから、こう思うようになりました。

それでも、生きることは素晴らしいと言い続けたい。そう言える自分でいたい、

学校はおそらく長野県内のどこかに作られますが、その場所がどこになったとしても、キノトリで学ぶ内容が「ただ生きる」ことであるのに変わりはありません。地元を離れたり、年齢を重ねたりしても変わらない、自分がどうやって生きていくかという問題は、考えるのが大変で、時間もかかる作業です。その主題にじっくり向き合うために全力をかける学校こそ、キノトリ学園ではないかと思うのです。

この考えが正解ではないかもしれませんし、変化していく可能性がありますが、それもまた、学ぶということだと思います。

いつか塩尻という場所に、そんな考えを「よかったらどうぞ」と勧める学校ができるように、私たちは今日も対話を続けています。


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