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コインロッカー係の酒の理由

今日も単調な一日の仕事が終わる。
同じ仕事の同じ毎日を送っているといつも同じことを考え始めてしまう。

いずれ女と子どものもとへ行くことは分かっている。
二人のいるパラレルワールドと男のいる現世とは時間の軸が違うことも分かっている。
行けば会えるのだろうがいつまで一緒にいることが出来るのか分からない。
ひょっとしたら後から行った男が先に再び現世に戻ることだってある。

コインロッカーからスタートした男の人生。
男の求めるのは家族と過ごす平凡な時間であった。
決して順調満帆ばかりではない普通の家族としての共に苦労もある空間と時間が欲しかったのである。
共に生きるとは互いに考え生きること、共に試練を乗り越えてゴールへの到達を果たすものだと思っていた。

女と子どものいる苦の無い世界、それはいずれ苦に満ちた現世に飛び出るためのインターバルのようなものであった。
そこでの甘美な生活が全てと思う二人とともに、虚飾とも言える仮の生活を男はしたくなかったのである。

男は現世の辛さ厳しさを身に染みて知っている。そして、その辛さ厳しさが無ければ真の楽しさや幸せが無いことも知っているのであった。

「忘れよう、今日だけは忘れよう」久しぶりに天王寺の店に寄りいつものハイボールを飲み、肉豆腐を箸で突き、オレンジ色の玉子の黄身をチャーシューに絡めて口に運んだ。

今宵だけは、今宵だけはと願い、虚構の闇に身をうずめた。


🍙ここまでの話はマガジンでどうぞ。


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