夏の終り
夏は去りいくようである。
夏はその香を我々の記憶に刻み付けようとして去っていく。
でも陽に焼けたコンクリートもアスファルトもすぐに冬の冷たさの虜となり、我らと共に過ごした夏を忘れてしまう。
我々にまとわりついたうっとおしいあの湿潤ともおさらばである。
からからの冷たい空気はその湿潤を遠い昔の記憶のように思い出させるであろうか。
夏の公園の子ども達の声は枯れた寒さの風音に変わり我々はその声を懐かしむのであろうか。
その昔太陽と風が競争して旅人のコートを脱がせたあの日のように、いつまでも穏やかに夏が終わって欲しいものである。
秋が黙ってやって来て、背中にその気配を感じさせて我々を驚かして欲しい。
樹々の赤黄で我々を驚かして欲しい。
夏が終わり秋が来て普通に冬がやって来て欲しい。
懐かしむことのできる夏でいてもらいたいのである。
昔の友であった夏、いつからその機嫌を損ねたのか、我々がしでかした何かが悪いのか、そのうち教えてもらいたい。
夏が終わり、夏が去れば我々はまた忘れてしまう。
夏が友であったあの日を我々は忘れてはならないのだ。
夏が終わり、去り行く夏に「ありがとう、」と一言かけてやったあの日を忘れてはならないのである。
そろそろ夏は去りいくようである。
次の夏を楽しみに出来る、気持ちばかりの努力を私は積み重ねたいと思う。
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