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闇におもう

昨夜は稽古の夜、最寄りの駅から自転車で帰ると熱い八尾の町を満月が煌々と照らし出していた。
美しい満月なのに外まで出てその姿を見てやろうとする人間は少ないのだろう。
でもこんな素敵な夜は独り占めできた方が私にはうれしい。

私が月に興味を持ちだしたのは子どもの頃である。
その頃の闇は闇だった。
闇は暗いものだった。
そんな漆黒の闇が怖かった。
そして、闇は人の本性を引き出す。
そんな闇が怖かった。

月の満ち欠けと潮の満ち引きや、人間の体調、犯罪の増加とも関係すると本で目にして怖かった。
だから子どもの頃は夜空の都合は関係なく、夜に外には出ないようにした。

たぶんその頃に観た手塚治虫原作、水谷豊主演のテレビ『バンパイア』やテレビアニメ『妖怪人間ベム』それから水木しげるの描く漫画の中の闇が影響していると思う。

その頃は町を外れれば街灯も無く、月の無い夜は本当の闇の田舎町で育った。
今の若い世代はよほど条件の良い場所に生まれ住まなければ本当の闇ってのを知らないのかも知れない。
私は個人的に本当の闇を知ることは人間にとって大切なことのように思う。
闇を知り、初めて孤独を知り、闇を知り、初めて恐怖を知る。
本当の孤独であって本当の恐怖である。

そして、これは知るのではなく、もともとDNAに組み込まれていた孤独と恐怖なのかも知れない。
人間として生きるために不可欠な二つを思い出させるのが真の闇なのかも知れない。

そんなことを考えていたら、DNAに組み込まれている思い出してはいけない、出来ることならば一生閉じ込めておかねばならない何かも、何かの拍子で表に出てしまうこともあるんじゃないかと思えてきた。


病み上がりの口だけの稽古を終えて帰る途中、満月を見ながらそんなことを考えているとなんだか怖くなり自転車のスピードを上げて自宅にむかった。

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