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ある女の子の人生(そして、人の人生)

チィ子は小学三年生、去年の秋にお父さんの仕事の都合で隣町から引っ越してきた。
転校してからまだ友達はいない。前の学校でも友達らしい友達は一人もいなかったから「まあいいか」として、心配する母親にもうそぶき毎日一人で学校に通った。
チィ子の通学路に大きな白い二階建ての家があった。そして、その二階からいつもチィ子を見下ろしている同じくらいの歳の男の子がいることに気がついていた。
チィ子は気がつかない振りをして雨の日も風の日も毎日同じ時間に大きな白い家の前を通った。七月に入り初めての夏休みがやって来た。学校に行かなくてもよい、これほどチィ子の心を休めることは無かったのだが大きな白い家の男の子のことが気になっていた。
一週間たっても気になっていた。
そして、意を決してチィ子は八日目の朝、通学路を歩いてみた。
しかし、そこには男の子の姿はなかったのである。

男の子は太郎、先天性の障害で車椅子を降りることの出来ない子であった。裕福な家庭に育った太郎には両親の方針で家庭教師がつき、学業には何ら支障は無く、いずれ太郎自身に先の人生を決めさせようと考えていた。
太郎は名も知らぬ女の子の姿を見たく、休みに入った七日目の朝まで窓の前に車椅子を移動させていたのだ。

どうやら二人の間にはお互い一方通行の恋心が芽生えていたのかも知れない。


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双方が互いの心の内を知らぬままの尻切れトンボのようなこの話の続きはどうなるのでしょうか。
このまま終わるのもありでしょう。
友だちのいない二人、チィ子は天然に近い勇気で正面突破し、友情から始まりやがて恋が成就する、それもあるかも知れません。
太郎は先進医学と本人の努力で普通の青年に育ち、大学もしくは社会人となった後、偶然に二人は再会する、そしてロマンスが芽生えるのかも知れません。
はたまた、この白い大きな家は世界征服を企むの悪の科学者たちの集まる秘密結社の本部、そこの主任研究員である太郎に見染められてしまったチィ子には波乱万丈の人生が待ち受けている、のかも知れません。

こんなありきたりの人生ばかりじゃないでしょう。百人いれば百様の人生があり、それくらい人の人生の展開は分かりません。どこでつまずき怪我をするのか。それどころか転んでつかんだ手の先には金の延べ棒が転がっているやも知れません。

何があるか分からないから私たちは生きて行くことも努力することも出来るのだと思います。
チィ子や太郎のような若さの溢れるうちは人生の可能性は無限大でしょう。
それが歳とともに徐々に可能性の枠は狭くなっていく。
でも往々にしてそれは自身の決めつけである場合が多いような気がします。
せっかくこの世に授かった命、死ぬまでは生きて行かねばなりません。
ならば最後まで夢を見、努力をし、楽しく生涯を送りたいと私は思っています。


ころんでわらしべをつかまなくとも、泉で女神さまに出会ったら金の斧をもらって帰れるくらいの知恵はこれまで鍛えられて身に付きましたから。
だから、人生はこれからです。

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