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サイネリア 私のしらぬ花のなまえ

まあまあの田舎で育ったので、世の男連中よりもたくさん植物の名前を知っているかもしれない。

しかし、花の名前は今一つだ。

今回も私が敬愛する夏井いつきが選者を務める、松山市主催の俳句投稿サイト『俳句ポスト365』に以前投稿した文章である。

兼題が『サイネリア』、初めて聞く花の名前であった。

この時もずいぶん悩んで句をつくったが、『並』であった。

俳句もなかなか難しい。


◆今週のオススメ「小随筆」
 お便りというよりは、超短い随筆の味わい。人生が見えてくる、お人柄が見えてくる~♪

今の仕事に代わって日中自分の時間が取れるようになった。
と言っても隠居しているわけでもない、まだまだ現役である。
働く時間が変わっただけである。
帰宅後、午後の早い時間から家内とマイカーで出かける。
週に一、二度はホームセンターへ出かける。
以前は無かったことだ。

始発で家を出て、毎晩終電、タクシーで帰宅なんて時代もあった。
その頃と較べるとなんとものんびりした時間を過ごしている。
愛猫の餌とトイレ用品を求め、私は少しだけ時間をもらい工具売り場などをウロウロする。
毎回、陳列棚にぶら下がっている変わり映えしないいつもの連中の顔を眺める。
それだけで楽しいのだ。
そんな男は多いと思う。

そしてその後、必ず園芸コーナーに二人で寄る。
花には無頓着だった私もさすがに随分の数の花の名が頭に入ってきた。
しかし今回の『サイネリア』はまったく閃かず、家内に導かれてその前に行き、ああ、これなんだというのが実感であった。

なにがこのサイネリアの特徴なのだろうか?
カラフルである。
しかし、あまりに私の興味を引かない花である。
仕方なくネット検索すると、原産国に北アフリカ、カナリア諸島、マデイラ諸島とある。

すべて腑に落ちた。
若い頃、地中海沿いの北アフリカに憧れた。
理由はいたって簡単で、砂漠の国の海岸はどうなってるのか?
砂漠と砂浜の境界あたりを見てみたかったのだ。

日本のホームセンターで映える花ではない。
地中海性気候の乾いた空気の中、燦々と降り注ぐ陽の光のもとで初めて本来持つ力を発揮出来るだろうに。
シネラリアという立派な名前まで日本人の都合で変えられてしまった。
そしてホームセンターの片隅に置かれるシネラリアよ、安心しろ。
この俺がお前たちを見かけた時には必ず立ち止まり、お前たちと一緒にあの目を開けているのが痛いほどまばゆい陽の降り注ぐ、太陽に近い北アフリカの白い大地を思い出してやる。
そしてお前たちのその艶やかな姿が地中海を吹き渡る心地好い風で揺れる姿を思い出してやる。


群生するというサイネリア、さみしがり屋の花なのではなかろうか。
ホームセンターのサイネリアたちに里帰りなどは叶わぬ夢なのである。

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