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そつぎょう

卒業してもいつまでも続く先輩、後輩の関係がある。
俳号「ねずみ男」は私の一年先輩、もう10年間も寝たきりである。
よく寝る男である。
そんな昔話があったような、、、

先輩の誘いで始めた俳句、二週間に一度の投句締め切り一時間前になっていつも慌てて俳句脳に切り替えたが、さっぱり上達しない。
昨日がそのお便りコーナーの日、私の文章も載せてもらってあった。
松山市主催の俳句ポスト365日、今回の兼題は『卒業』、
毎回私の心の記憶の引き出しを引いてくれるこの俳句投稿サイト、選者の夏井いつきには感謝する。


◆今週のオススメ「小随筆」
 お便りというよりは、超短い随筆の味わい。人生が見えてくる、お人柄が見えてくる~♪

卒業、いくつになっても耳にするだけで切なくなる言葉だ。
寒さと温かさが入り交じり、会う友人会う知人にどんな顔で挨拶をしたものかと引きつった笑顔になっていたのを思い出す。
新しい世界への期待と不安、そして何だかはっきりしないやり残したことへの未練で胸はドキドキしていた。

大学での卒業式には合気道部のOBがたくさんいらっしゃってくれた。謝恩会が終わり、合気道部の同期とともに東京練馬の江古田駅前に戻ると後輩たちと先輩方が待っていてくれた。そのまま飲み屋に流れ込み、使い切ってしまったモラトリアムの時間を惜しむように注がれるままに酒を飲み、語らい、騒ぎ、我を忘れていった。
卒業式の前日から勤務先の北京から仕事ついでで立ち寄ってくれた真下先輩は私の部屋に転がり込み、卒業式の前日に私は銭湯に行くことが出来ず酒の湯船に浸った感じで二日酔いのまま卒業式に出た。
学生最後の飲み会だとあちらこちらからの誘いをすべて受け1週間ほど風呂に入れずに必ず前日に銭湯に行こうと心に決めていたのだが、先輩には絶対服従の合気道部であった。
風呂に入らぬ体の気持ち悪さが卒業式の感慨と混ざり合う。
俳号『ねずみ男』先輩はこの合気道部の一年学年先輩である。
後輩の面倒見のよい先輩であった。私も賄い食食べ放題の高級中華料理店のアルバイトを紹介してもらい、歌舞伎町の先輩が長くアルバイトしていた飲み屋でもよく飲ませてもらった。西武線練馬駅北口にある区立練馬文化センターが出来る前の原っぱで新日本プロレスの野外興業があり、その会場設営のアルバイトを紹介してくれたのもねずみ男先輩であった。よく晴れた青空の下、合気道部員数人で行き目の前でアントニオ猪木を見て感動したのが懐かしい。
コーナーポストを一人で担いだら「うちにこないか」とスカウトされた。兎にも角にもねずみ男先輩には世話になったのである。

しかし、ひょっとしてねずみ男先輩は卒業をしていないかも知れない。
多くの後輩を見送って来て自身は見送られていないのかも知れない。
今回の兼題を私の心の窯に薪のように放り込むまで気がつかなかった。

でも、もういい。そんな細かなことを気にするような先輩じゃない。
倒れてからここまで生きてきたことに私は拍手し御礼を言いたい。
そして先輩の卒業式には来るなと言っても無理やり行って寝たきり親父に変身してから見るのも嫌になったと言っていた酒をガバガバと振り掛けて祝ってやりたい。
「卒業、おめでとうございます」と。/宮島ひでき

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