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秋の日は釣瓶落とし

急に秋めき、窓から入り込む心地よい冷たい空気が私に朝を告げてくれます。
日中、屋外にいても過ごしやすくなってきました。

考えれば当たり前のことなのですが、全ては歩調を合わせるように日も短くなってきました。

『秋の日は釣瓶つるべ落とし』を実感するこれからしばらくの時期です。

夕陽に稲穂は黄金色に輝き、優しい風はその穂を波打たせ、黒く色を変えつつある山に向かってカラスは鳴きながら帰って行きます。

家に帰る道の足元ではコオロギがコロコロ鳴き出しています。
ポツポツとどの家も明かりが灯り出し、夕飯の支度を始めた母さんの声や美味しい匂いが外まで漏れてきます。

『秋の日は釣瓶つるべ落とし』の瞬間に多くの秋を感じることでしょう。
多くの幸せを感じることでしょう。
一年を通して続く毎日の日常に感じる幸せのアクセントとなることでしょう。

でも、この『釣瓶つるべ』を今の若い方たちはご存知なのでしょうか。

NHKの『家族に乾杯』、あ、ありゃ笑福亭鶴瓶です。
大阪の下町出身の鶴瓶はいい男です。
鶴瓶ではなくて落ちるのは釣瓶です。

ほんの少し昔、自宅の庭や共同で使った井戸は丸く掘った地面の穴から紐の先にぶら下がった桶で井戸水を汲み上げたのです。
映画『リング』で貞子が這い出して来るあの井戸です。
あんな井戸の上に小屋根があって、滑車がぶら下げられ、それを利用して釣瓶を上げ下げして井戸水を汲み上げたのです。
そのシステム一体を釣瓶と言います。

そして、そこで女性たちは働きました。
野菜を洗い、食事の準備をし、洗濯をして女性たちは情報交換をしました。
井戸端会議はそのようにして行われたのです。
一年通して変わらぬ井戸水は、水仕事が切っても切れない女性たちにはいつも優しかったに違いありません。

三六五日、変わらぬ仕事を続ける女性たちは井戸端でも四季を感じていたに違いありません。
洗う食材は変わり、洗濯物も変わります。
もちろん井戸端会議の内容も。
季節の移ろいを釣瓶落としのように感じ、釣瓶のもとでも四季を感じていたのです。

女性たちの方が敏感に様々なものに季節を感じているのかも知れません。

さあ、秋がやって来ました。



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