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「Banshee」はおもしろい

日本ではあまり知られていないようだが、エログロが気にならない人にとっては、Bansheeはなかなかのごちそうだと思う。Amazonプライムビデオなどで配信されている。

アメリカのドラマはまず第1話に相当するパイロットが作られ、それをテレビ局や出資者に見せて続きを発注してもらうという仕組みのようだ。だからパイロットがつまらないとお話にならないわけで(実際パイロットだけで終わってしまった企画は多くある)、一番力が入っている。結果的に長く続いたシリーズでも、往々にしてパイロットが最も面白いということはよくある。

Bansheeも、第1話だけでストーリーの骨格を見事に提示していて感心する。長く服役した刑務所を出たばかりの男(最後まで本名は明かされない)が、ペンシルベニアの架空の田舎町バンシー(泣き叫んで人の死を予告する妖精の名でもある)へやってくるのだが、途中立ち寄った酒場で銃撃戦に巻き込まれる。死んだのは地元のチンピラとその日に着任予定だった(ということは町の人間はまだ誰も顔を見たことがない)新保安官のルーカス・フッドで、男はこのフッドのIDを乗っ取り、町へ保安官として乗り込むことになる。犯罪者が保安官、というひねりが、若干ありがちとはいえ気が利いている。

アーミッシュのコミュニティもある平和な田舎に見えたバンシーだが、実は実業家兼ギャング(先のチンピラも彼の手下)のカイ・プロクターが町を牛耳っており、カジノを握るネイティヴ・アメリカンの部族やヒルビリー、ネオナチなどとの抗争もあって、一枚めくれば犯罪と暴力が渦巻いている。これが二つめのひねりだ。そもそも男がバンシーくんだりまで来た理由は、昔の恋人で強盗仲間だったアナとよりを戻すためだったのだが、すでにアナはキャリーという偽名で家庭を持ち子供もいた。そんなこんなで偽フッドはしばらく町に留まることにしたのだが、偽保安官のくせになぜか真面目に(といっても法と秩序というよりは奸計と暴力だが)職務に取り組み、治安維持で着々と実績を挙げるのだった。これが三つめのひねり。ひねりにひねった設定がオフビートな味を出していてなかなかよい。

割と多くの登場人物が入り乱れるのだが、ストーリーが(少なくとも途中までは)推進力を失わないのは、登場人物のオブジェクティヴ、ドラマ内で達成したい目標が、ほとんど図式的といって良いほど明確だからだと思う。たぶんそういうことを意識して脚本を書いているのでしょう。偽フッドはアナの愛と盗んだダイアモンドを取り戻したい。アナは家庭を維持し、かつて裏切りダイアモンドを盗んだ残忍な父親ミスター・ラビットの追及を免れたい。実はアーミッシュ出身のプロクターは、自分を排除する両親とコミュニティに自分を認めさせたい。目標が明確なので、ストーリーラインも自然とこれらに沿ったものとなり、感情移入がしやすい。こうした初期に仕込まれた設定は大体シーズン2の終わりごろには解決してしまうので、その後はストーリーの立て付けがやや悪くなるのだが、それでもそれなりに最後まで楽しめる。ちなみにエンドロールが終わったあとにほぼ毎回おまけがあるので、最後まで見たほうがよい。

主役の偽フッドを演じるアンソニー・スターはニュージーランド出身の俳優のようだが、法を犯すことも辞さない根っからの犯罪者役でありながら、生来の生真面目さも醸し出していてなかなかうまい。ニュージーランドやオーストラリア出身でアメリカで活躍する俳優というのは結構いるが、いくら英語圏だといっても訛りの問題などあるはずで、相当努力したんでしょうね。アナ/キャリー役のイワナ・ミルセヴィッチやプロクター役のウルリヒ・トムセンは、最近では東欧系の悪女や悪人といえばこの人たちという感じのいわゆるタイプキャストになってしまっているような気もするが、体を張ったアクションもうまくはまり役ではある。他の脇役陣も芸達者が多く、特に偽フッドの協力者ジョブ役のフーン・リーはThe BlacklistやBoschなどでも見かけるアジア系俳優だが、女装ハッカーを演じていて呆れるほどうまい。あとはやっぱり、プロクターの姪レベッカ役のリリ・シモンズがいつもながらエロくていいねえ!

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