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殺景。ふたり。

 クルス・ヤンが現場である廃倉庫に到着したのは、丁度、標的である資産家ロバート・ユナーの頭部上半分がぞるりと滑り落ちているところだった。
 その向うには、脇差を手にした薄紅色の和服を着た美女が。

「俺の標的のはずだが」
「さあ。ダブルブッキングかしら」
 美女は、薄っすらと笑う。標的の血飛沫が、クルスの安全靴のつま先に、染みを作った。
 クルスが無音無造作で拳銃を跳ね上げる。すでに美女は目の前で、男は親指以外の四指を中程から切断され、拳銃が零れ落ちる。

 クルスの全身から汗が吹き出す。しかし、彼は膝蹴りから変化するミドルキックを追い縋る様に繰り出し、脇差を跳ね上げたせいで空いていた美女の脇腹を強かに打ちつける。
 メリ、という音が、接触している足の骨を伝導し男に響く。

 一瞬。

 美女が水平方向に吹き飛び、男は膝をつく。直線的なデザインになった、右手を押さえて。
「足癖が悪いわね」
「ははっ、手癖」

 風雨で落ちた屋根の隙間から、柔らかな陽の光が美女を照らす。
 しるしると気怠げに細められた瞳。長い睫毛。髪と同じまったき漆黒。
 染みひとつ無い白磁の肌は、彼と同じアジア人らしき顔つきとアンバランス。
 朱い血が、その頬に一粒付いている。

 それを見た男は……

 ぱん

 その両目の真ん中に、小指ほどの大きさの孔を空け、崩れ落ちた。

「ふたりめの標的は、あなたよ」
 美女は薄い煙を上げる筒を仕舞いながら、呟いた。

【おわり】

以上の企画の参加作品です。

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。