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【おねショタ】女エージェント(笑)京夏ととある少年【後編】

承前

 誰が申請したのか道端にポツンと在るお地蔵様に設定されたポータルを発見した京夏は、少し離れた位置に車を停めて実際にプレイを見せてみることにした。

「で、これを長押しして……」
 日光に比べて圧倒的に薄暗い画面の表示を補うため、京夏はスマホに覆いかぶさるようにして操作し、そのすぐ側に冬樹を引き寄せる。
 するとどうなるか。
「表示された図形を覚えて……冬樹くん?」
「ぇあ……ハイ」
 少年の顔と、目と鼻の先。と言うにも近すぎる距離に、京夏の顔が有ったのだ。

 少し眇めて落とされた長い睫毛、薄い色のリップの引かれた唇、かすかに匂う化粧の香り。
(近い近い近い)
 画面に次々表示される謎の図形など、冬樹の目に入るはずもなかった。

「二個正解かあ……で次はこれをデプロイ……って冬樹くん!?」
「は、はい!?」
「顔真っ赤だよ!? 熱中症!?」
「ちゅう!?」
 一通り説明に熱中していた京夏がようやく顔を上げてみると、そこには顔をポッポと赤くした冬樹の顔が有った。

「うわー、ごめんね気付かなくて。大丈夫? 水かなんか買ってくるね……その前に車に入ろっか」
「ち、違うんです。大丈夫です。気分も悪くないし」
「でも顔真っ赤だよ?」
「それは、その……」
 いきなり、貴女に見とれていた。などとは言えないことは少年でも分かる。

「そうじゃなくても暑いよね。とりあえず車に乗ろ」
 と言うなり、京夏は冬樹の腕を引っ張って車の方へと向かう。
(柔らかっ、これ、む、胸?)
 すると、意図せずして京夏の豊かな胸が少年の腕に強烈に押し付けられることになった。心のなかで、声にならない声で、少年は叫ぶ。

「歩けますから! 大丈夫ですから!」
 そして半分ほど歩いたところでようやく絞り出したのはそんな言葉。振り払うようにして彼は車へと急ぎ、ロック解除を待たずノブに手を掛ける。
「熱っ!」
 しかし金属むき出しのそれは直射日光で鉄板焼のような温度に達していた。一瞬で離したものの、指先が灼ける感触がした。

「うわああ! 冬樹くん大丈夫!? 火傷しちゃった!?」
「大丈夫です。ちょっと指先がヒリヒリするだけで……えっ!?」
 指先が意外なほど冷たい感触に包まれ、少しの後ほの暖かく体温が伝わってくる。
 京夏が、冬樹の指を口に咥えていた。

「らいじょーぶ……?」
「な……な……」
「んくっ……本当にごめんなさい! 私趣味に関わるとつい周りが見えなくなっちゃって……」
 生暖かい感触から開放されるや、京夏がハンカチで彼の指先を拭い、ベコっ! と音がしそうなほど激しく頭を下げる。

「うー……家に帰ろっか。……なんで調子に乗ってゲームなんかしちゃったんだろ……」
 そして、京夏はドアを手ずから開けて冬樹を乗せると自分も運転席に座り、車を始動させた。猛烈にエアコンの風が吹き出し、当たったところとそうでないところで酷い温度差だ。

「……やっぱ顔赤いなあ……預かった子を熱中症にさせたなんてどう謝ればいいの……」
 京夏はちらりと顔を見るや、しまいにはハンドルに突っ伏し……熱かったので一瞬で飛び退き……涙目でおろおろし始める。ごめんねごめんねと小さくつぶやきながら。

 その様子を見た冬樹は、誤解を解かなければならないと思った。

「あの……これは……」
「ん?」
 たとえそれが、恥ずかしいことだとしても、目の前の女性のために。

「これは熱中症とかじゃなくて、その、京夏さんがすごく近くてドキドキして……」
「ド、ドキドキして?」
「ドキドキして。顔が赤くなったんです。綺麗だったから」
「~~~~~っ!!」
 今度は京夏が顔を赤くする番だった。

「い、家に送るねっ!」
 その恥ずかしさを紛らわすため、京夏はそう言うなりちょっと荒っぽく車を発進させ、今度こそまっすぐ彼を送り届ける。

 ……二人が普段、近所に住んでいることに気づくのは、また別のお話……。
【おわり】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。