夜景を見に…
お付き合いする前、秀さんが連れていきたいと言っていた場所。
夜景の綺麗な、山の上の施設。
施設というか…公園?
展望所みたいな建物が一応あるのだけど、夜は閉まっていて、まわりが芝生の公園みたいになっている場所。
眼下に広がる街の灯り。
左手には海、右手には山。
主要道路に規則的に並ぶ街道を繋ぐように、車のライトが流れていく。
「きれーい!!何年ぶりだろう?
10年…?それ以上前な気がします!!」
結婚するよりずっと前、ここを目指してドライブして、なんとか到着したものの、帰りに道に迷ってグルグル走り回り大変だった記憶…。
あの時はすごく仲良しな後輩の女の子がいて、何するにもどこ行くにも一緒だったっけ。
昔も綺麗だったけど、前より今の方かキラキラしてる気がした。
秀さんと一緒だから何でも増し増しで綺麗に見えるー…なんてことはないだろうから(笑)
新しい建物ができたり道路ができたりで灯りが増えたせいかもしれない。
「ねー、きれいだね!」
返事がそっけない気が…。
運転してもらってるし、疲れたのかな?
…と思ってたら急にバックハグされて驚いた。
驚いて慌ててる私の反応に、嬉しそうに笑う秀さん。
「Mちゃんがいちばん綺麗だよ!」
なーーーーーんてキザな台詞まで言ってくれちゃうこの人を、「うわー…無理!無いー!」って思わない私も大概変。きっとすごく変。
「何恥ずかしいこと言ってるんですか!!
離してくださいぃぃーー!!!」
言った張本人が、恥ずかしそうにするの可愛い…!
向き合い直して腰に腕をまわし、逃げられないようにしっかりホールドされてしまった…。
近距離で見つめられ、視線をやる先にも手の置き場にも困る私。
普段からコミュ障で人見知り…こういう事態は苦手だし緊張する…!
そんなことは気にもしない秀さん。
この状態で
「好きです」
「かわいい」
「愛してます」
「ずっと一緒にいてくださいね」
…と、ずっと愛を囁き、合間にキスしたりハグしたり……とにかく甘い…!!甘すぎる!!!
…が、ずっと密着してる腰が…!!
言ってることとやってることは甘々な王子様なのに、下半身が凶器!!
このままここで襲われるのでは…と疑うレベル。
まぁ勿論、なにもしてないんだけど。
車に戻って少しお喋りして、じーっと見つめられて。
「はぁー…えっちしたい…」
ごめん、と申し訳なさそうに笑いながら秀さんが呟く。
いやもう…顔というか、目見てればそうじゃないかなーと気付きます、けど。
きっと普通のカップルなら、そういうのは付き合って早々言っちゃいけなくて、徐々に仲良く親密になるためのデートを重ねてそれから…ってとこなんだよね。
…でも私たちは欲求不満同士で出会って付き合い始めたの。
"性欲を満たしたい"っていう共通の目的があって出会った以上、身体の関係をもつことが第1優先になっても別に問題はないと思ってる。
けど…
お互い、その"最初の目的"を見失ってしまうくらい、好きになっちゃったようで。
私も、秀さんも、普通にキュンキュンドキドキする王道デートがしたい!という純愛モードの扉が開いてしまって…。
でも根本の"性欲"が消えたわけではないから、
「好き!」の感情でお互いに触れると
「ヤりたい!」が急にバーン!!と主張してきて困る(笑)
なんとか耐えて、そろそろ帰りましょうか、とまた車を運転しはじめる秀さん。
その横顔を、じーっと見ていたら私も気持ちが溢れちゃって。
「秀さん、秀さん」
「んー?何でしょう?」
「…帰りたくないですねぇ」
そう言うと、愛しくてたまらない!!と言いたげな顔して急に路肩に車を停められた。
「……帰したくない、です」
ぎゅうぅぅーと強く手を握られて、連動したように心も締め付けられる。
真っ直ぐ見つめる秀さんの目が…このまま朝まで一緒に居たい、と言っているようで…
でも帰らなきゃいけなくて……
「…んんーー…帰りましょう!笑」
そう言ってまた車を走らせる秀さん。
……私は、どんな顔してたんだろう?
秀さんは…どう感じたんだろう?
好きで好きでたまらないのに、一緒にいられないのってこんなに辛いんだなぁ…。