文化庁の『「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関するパブリックコメントの結果について』をわかりやすくしてみた

3月3日に投稿したこちらのNoteをもとに、元々の目的だった文化庁のAIと著作権についての考えをわかりやすくした。

パブリックコメントをもとにした溶け込み版の簡易的なガイドブック的な役割が担えれば幸いだ。


文化庁の「AIと著作権についての考え」の前提

まず、文化庁のこの「AIと著作権に関する考え方」の目的は、社会における生成AIの急速な普及と相まって生成AIと著作権の関係についての関係当事者からの懸念の解消を可能な限り迅速に図るためである。未だ判例・裁判例等の司法判断の蓄積が乏しい中で、必要と考えられる範囲で、現行法の解釈に関する考えを示すものである。そのため、AIと著作権法に関する考えにおける法解釈については、これまでの判例や学説、本小委員会における有識者の審議に基づいて、著作権法の解釈をより細かなところまで明確にした考えを示すものであ李、従来の法解釈を覆すものでも、司法判断に代わるものでもない。示しているもの以上の具体的な判断は、個別の事案における司法判断が必要である。

また、著作権法の目的が「著作者等の権利の保護」 と 「著作物等の公正・円滑な利用」とのバランスを踏まえ、文化の発展に寄与することであり、それに沿って検討を行なっている。

また、「人間中心の原則」 から道具としてAIを使用しており使用に伴う行為の責任は道具を使用する人に帰属するということを前提としている。

生成AIにまつわる関係法規と著作権者がとれる法的措置に関して

前提

生成AIとの関係については、法第30条の4等の権利制限規定が適用される場合だけでなく、原則どおり著作物等の利用に権利者の許諾が必要となるのはどのような場合か、といった点についても一定の考え方を示しており、著作権者が差止請求等の権利行使ができると考えている。
その上で、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為については法第30条の4において権利制限の対象としている。

これに関連して、生成AIの学習を著作権者が反対の意思を示すことでは権利制限規定の対象から除外されると解釈することは、関連する法の立法趣旨から困難としている。しかし、AI学習のための複製等を防止する為の技術的な措置をとることは自由に可能であること、権利者が情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物を販売している場合は、これをAI 学習目的で複製する行為は同条ただし書に該当し得るとしている。
また、権利制限規定は権利者と利用者との間の契約上の定めとの優先劣後を生じるもの(強行規定)ではない

著作権侵害が生じた際に権利者がとれる法的措置

著作権侵害が生じた際、権利者による差止請求等が認められ得る範囲は、学習済モデルが、学習データである著作物と類似性のある生成物を高確率で生成する状態にある等の場合、法的には当該学習済モデルが、学習データである著作物と共通の創作的表現を有しているものとして、その複製物であると評価される場合も考えられることを前提にしている。
ただし、学習データと創作的表現が共通するもの(類似物) が1回生成されたというだけでは、開発・学習段階において享受目的を有していたと認定することは経験則に照らして難しい

また、差止請求については、行為者の故意又は過失は通常考慮されないものと考えている。これは行為者が、既存の著作物の創作的表現を出力させることを意図していたといった主観的事情も考慮されうるためだ。
例えばAI利用者が侵害生成物を誘発する目的で行う意図的なプロンプトエンジニアリングは、開発・学習段階における事業者の享受目的を推認させる要素とはならないものと考えられる。

その他にも現状におけるAI学習のための複製防止などの技術的な措置の実例、AI利用者のみならずAIの開発・サービス提供を行う事業者が著作権侵害の行為主体として責任を負う場合があること、著作物から著作者の氏名を取り除く行為は氏名表示権侵害となり損害賠償請求等が可能であることも示している。

学習済モデルは、通常データとして記録媒体に記録されていると考えられることから、当該記録媒体において有形的に再製されているものと考える。現状、特定の学習データたる著作物の影響を、学習済みモデルから取り除くことは技術的に難しいが、生成・利用段階においては、権利者が、AI開発事業者又はAIサービス提供事業者に対して、当該生成AIによる著作権侵害の予防に必要な措置を請求することができると考えられることが示されている。

AI学習に用いられる学習用データセットからの当該著作物の除去が、将来の侵害行為の予防措置の請求として認められ得ると考えられるのは、著作権侵害の対象となった当該著作物が、将来においてAI学習に用いられることに伴って、複製等の侵害行為が新たに生じる蓋然性が高いといえる場合である。一度でも侵害物を生成すればデータセットからの廃棄を請求可能というわけではない。
著作権侵害の対象となった当該著作物が、将来において AI学習に用いられることに伴って、複製等の侵害行為が新たに生じる蓋然性が高いといえる場合は、当該AI学習に用いられる学習用データセッ トからの当該著作物の除去が、将来の侵害行為の予防措置の請求として認められ得ると考えられる。

嫌がらせや誹謗中傷、ディープフェイク、性的虐待画像やCSAMについては、名誉毀損や業務妨害等による不法行為責任や刑事罰等の適用がある場合も考えられるとしている。
これらの著作権法の枠を超えた問題については、「AI時代の知的財産権検討会」(内閣府知的財産戦略推進事務局) において課題に上がっていること、ことに言及しており、関係省庁との連携を図っていく。

データベースとデータベースの著作物

まず「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベース の著作物が販売されている場合に、当該データベースを情報解析目的で複製等する行為」は、従来から法第30条の4ただし書の該当例として例示している。

複製等を防止する技術的な措置を講ずる者と、データベースの著作物を将来販売する予定がある者が同一の者でない場合であっても、情報解析に活用できる形で整理されたデータベースの著作物が将来販売される予定があることが一定の蓋然性をもって推認される場合は、 法第30条の4ただし書に該当し得ると考える。
また、データベースの著作物としての著作物性の有無は、個別のデータベースの内容・性質に応じて判断することが必要であり、脚注20に具体例としてあげた学術論文や新聞社の記事データのデータベースが著作物の要件を満たさない等の類型的な評価は適切でないものと考えている。同様に、これに当たるものが現実的にあり得ないと類型的に判断することや、これがほぼ要件を充足しないと類型的に速断することは適切でないものとも考えている。

AI学習のための著作物 の複製等を防止する技術的な措置が講じられており、かつ過去の実績 (情報解析に活用できる形で 整理したデータベースの著作物の作成実績や、そのライセンス取引に関する実績等)といった事実から、当該ウェブサイト内のデータを含み、 情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが一定の蓋然性をもって推認される場合だとしている
これらは単に販売予定があることや享受目的の販売 (ライセンス) 市場があることではなく、情報解析目的での販売がされていることが必要と考えられる。
また、単にAI学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられていれば、「当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される 予定があること」が直ちに推認されるとは考えではない。

生成AI事業者・AI利用者の責任に関して

前提

まず、開発・学習段階における利用行為の目的を認定する一般的な事実認定の方法として、その後の生成・利用段階における事情も間接事実となり得ることを前提としている
その上で、生成AI利用者の行為が、開発・学習段階における事業者の享受目的を推認させるものであるか否かは個別に判断されることである。
しかし、AI利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成AIに入力・指示を与えたことに起因して、生成・利用段階において侵害物の生成が頻発するような場合は、開発・学習段階における事業者の享受目的を推認させる要素とはならない
これに関連して、開発・学習段階における行為者の目的について事実認定を行う際には、類似物の生成が著しく頻発するようであれば、これは開発・学習 段階において享受目的を有していたことを推認する一要素となるとしている。

AI事業者による法的リスクを低減させる措置や技術に関して

AI開発事業者等が自社の開発又は提供に係るAI生成物について著作権法上の問題が発生したことを知ったとき、

  • 1.意図的な著作権侵害を目的とする可能性が高いと判断したプロンプトを入力しても創作物が生成されないようブロックすること

  • 2.(意図的でなくとも)著作権法上の問題を生ずることとなった創作物と同一の出力がされないようフィルタリングを施すこと

上記のようなの対策を随時アップデートしながら講じることは、開発・学習段階においてAI学習のための複製を行う事業者に享受目的がなかったことを推認させる事情となり得る。また、生成・利用段階において著作権侵害が生じた際に、事業者が規範的な行為主体として評価される可能性を低減する要素となり得る。

法第30条の4が 「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定していることから、この複数の目的の内にひとつでも「享受」の目的 が含まれていれば、同条の要件を欠くこととなるとの考え方である。

この目的の如何については、行為者の主観と客観の各事情を総合的に勘案して判断されることになる。 例えば、RAG等による出力に際して、生成AIへの指示・入力に用いられたデータに含まれる著作物と共通した創作的表現が出力されないようフィルタリングする技術的措置が取られている場合、享受目的を否定する要素となり得ると考えられる。同条本文とともに同条の適用時の要件を定めるもので、「既に行われた学習行為を事後的に違法と評価するもの」ではない。

法第30条のただし書への該当性を検討するに当たっては、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から、技術の進展や、著作物の利用態様の変化といった諸般の事情を総合的に考慮して検討することが必要と考えられる(No202)。

関係する事業者においては、本考え方の内容を勘案しつつ、適切な情報開示や契約上の取り決め等を通じて、事業者間において適切な責任分配が為されるよう取り組むことを期待している。

海賊版等のウェブサイトからの学習データの収集に関して

まず、AI開発事業者やAI サービス提供事業者が、ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行ったという事実が、AI開発事業者等が規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性を高めるという考えである。そのため、規範的行為主体の判断において一切考慮されないとすることは、現状の判例・裁判例に照らしても難しい。

そのため、ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、AI開発事業者又はAIサービス提供事業者が当該ウェブサイトからAI 学習データの収集を行った場合、AI利用者が侵害物を生成した行為について、AI 開発事業者又はAI サービス提供事業者が、規範的な行為主体として著作権侵害の責任を負う場合がある

権利者はこれらの事業者等の関係者に対して、海賊版を掲載している既知のウェブサイトに関する情報をあらかじめ適切な範囲で提供することで、事業者においても海賊版を掲載しているウェブサイトを認識し、これを学習データの収集対象から除外する等の取り組みを可能とするなど、海賊版による権利侵害を助長することのない状態が実現されることが望ましい。

海賊版対策については、権利者及び関係機関による海賊版に対する権利行使の促進に向けた環境整備等、引き続き実効的かつ協力に海賊版対策に取り組むことを期待する。
また特定の技術や個別の生成AIに関する法的な位置づけの説明は、個別の事案に応じて、その開発事業者やサー ビス提供事業者において行うことが望まれる。

著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例、およびアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて

本小委員会における検討で、「著作権法が保護する利益は、実際に創作された著作物の利用による利益であり、具体的な創作的表現となっていない作風については、著作権者が権利を有するものではないことから、生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しない場合には、著作権法上の『著作権者の利益を不当に害することとなる場合』には該当しない」と考える意見が多数を占めたことから、原案のように記載している(当該素案(溶け込み)の22項【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】エ 著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例について(ア)法第 30 条の4ただし書の解釈に関する考え方についての記述)。

生成AIの開発・学習段階における作風について

素案では、特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみからなる作品群は、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまらず、創作的表現が共通する作品群となって いる場合もあると考えられ意図的に当該創作的表現の全部又は一部を生成AIによって出力させることを目的とした追加的な学習を行うため、当該作品群の複製等を行うような場合は、享受目的が併存すると考えられることを示した。しかしこれは「作風」 について、一定の保護を認めると解釈し得るものではない

生成・利用段階の類似性や依拠性に関して

AI生成物に既存の著作物との類似性が認められる場合を前提にしつつ、AI学習用データに既存の著作物が含まれる場合に当該著作物に類似した生成物が生成された場合には、通常、依拠性があったと推認される
しかし、当該既存の著作物がAI学習用データに含まれている場合でも、依拠性が否定される場合があり得る。例えば、規範的な行為主体の判断に際して、事業者が当該生成AI について、既存の著作物の類似物を生成することを防止する措置を取っている場合など、侵害物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては、たとえ、AI利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成AIにプロンプト入力するなどの指示を行い、侵害物が生成されたとしても、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。

また。既存の著作物の題号などの特定の固有名詞が入力された場合はAI利用者が既存の著作物を認識していたことを推認させる間接事実となるものと考えられる。

AIによる生成又は生成物の利用に伴う著作権侵害の場合も、損害賠償額の算定については従来の考え方と同様と考えられる。イラストの要素の配置のみが共通しているような場合に関しては、損害論に先立って、類似性の有無等の観点で、著作権侵害が成立するか否かが問題となるものと考えられる。

また、生成と利用の場面それぞれで故意又は過失の有無について判断は異なり得ると考えられること、生成時の複製については権利制限規定の範囲内であったとしても生成物の譲渡や公衆送信といった利用時には、権利制限規定の範囲を超える行為として、著作権侵害となる場合があるため留意が必要である。

なおこれらは既存の判例・裁判例に照らして、規範的な行為主体の判断において考慮されると考えられる要素を示しているものである。

AI生成物が人の著作物となる場合

人の創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものとして、その考慮要素等に関する考え方を素案では示している。
AI生成物であっても、著作権法上の「著作物」の定義に該当する場合、 著作物となり得る。著作物の定義から、人の創作的寄与が必要であることを確認した上で、AI生成物の著作物性の判断の際に、創作的寄与の有無に関して考慮されると考えられる要素の例も示している。
また、AI生成物について誰が著作権を有するかという点については、著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様、共同著作物に関する既存の裁判例等に照らして判断することになると考えられる。
また、AI生成物に対する加筆・修正部分は著作物性が認められるのは、当該加筆・修正が創作的表現といえるものである場合である。創作的表現に至らない、限定的な加筆・修正を加えたにとどまる場合は、当該加筆・修正部分にも著作物性は認められない。
これは指示・入力 (プロンプト等)の分量・内容についても、単に長大な指示であれば著作物性が認められるといった考え方ではなく、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断される。

なお、AIによる生成が既存の著作物に対する著作権侵害を生じさせるかという点と、AI生成物が新たな著作物となるかという点は別個の問題である

AI生成物が新たな著作物となる場合でも、既存の著作物との類似性及び依拠性がある部分が含まれている場合には、既存の著作物の著作権者は著作権侵害に基づく権利行使が可能である。

これらの考え方や要素は、いずれかの要素があれば直ちにAI生成物が著作物となることを示すものではなく、AI生成物の著作物性を判断するに当たって総合的に考慮されると考えられる要素を示している。個別具体的な事案に応じて、これらの要素の程度から、人の創作的寄与があるといえる場合は、AI生成物に著作物性が認められ得ると考える。

文化庁から発信された『期待』

AIの適正な開発及び利用環境の実現には、生成AIに関する著作物利用についてのルール・ガイドラインの策定、技術に関する共通理解の獲得、AI学習等のための著作物ライセンス等の実施状況、海賊版を掲載したウェブサイトに関する情報の共有が図られることが重要だとし、現行の著作権法において生じるであろう生成AIに関する法的リスクや著作権等の権利の実現を図る上で、当事者間で共通理解が醸成されることを望んでいる。またAIと著作権に関する考え方がまとまった後はしっかりとわかりやすい周知を行なっていくとしている。

技術的な期待

将来的にAI学習用クローラに限って全てブロックすることができるような技術が確立することが期待される
生成AIの技術は、これまでの人間の創作活動を基に成り立っているものであり、人間による創作活動が今後も引き続き発展していくことが、生成AI技術の持続的な発展のためにも必要不可欠としている。AI生成物であると識別できる用にする仕組み、AIの透明化については、AI利用者にとっての法的リスク低減の観点から現在、総務省及び経済産業省 において策定に向けた検討が進められている 「AI事業者ガイドライン」 において取り上げられており、これらの検討とも連携を進めていく。

権利者への対価還元について

権利者からAI 学習用データがライセンスの形で提供されることは、AI学習用データの適切な供給及び権利者への対価還元の観点から望ましいと考えられる。AI学習のための複製等を防止する為の技術的な措置をとることは自由に可能であること、また、権利者が情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物を販売している場合は、これをAI学習目的で複製する行為は法第30条の4ただし書に該当し得る

法第30条の4の趣旨を踏まえると、AI開発に向けた情報解析の用に供するために著作物を利用することにより、著作権法で保護される著作権者等の利益が通常害されるものではないため、対価還元の手段として、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難である。しかし、コンテンツ創作の好循環の実現を考えた場合に、著作権法の枠内にとどまらない議論として、技術面や考え方の整理等を通じて、市場における対価還元を促進することについても検討が必要である

企業や利用者への期待

robots.txtへの記載によるAI学習用クローラのブロック措置については、少なくとも主要なAI学習用クローラが複数ブロックされているといった場合は、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることを推認させる要素となるとの考えを示している。
この点に関しては、本ただし書の適用範囲が明確となることに資するよう、robots.txtでのアクセス制限において必要となるクローラの 名称(User-agent) 等の情報が事業者から権利者等の関係者に対して適切に提供されること、また、特定のウェブサイト内のデータを含み情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が現在販売されていること及び将来販売される予定があること等の情報が、権利者から事業者等の関係者に対して適切に提供されることにより、クローラによりAI学習データの収集を行おうとするAI開発事業者及びAI サービス提供事業者においてこれらの事情を適切に認識できるような状態が実現されることが望ましいともしている。

利用者においては、学習データに当該著作物が含まれていないこと等を立証するために、AI事業者の協力が必要となることから、利用にあたって、学習データ等の情報が開示されるかどうかを確認することが望まれる
規範的行為主体の判断において、AI開発事業者から類似物の生成を防止する技術的措置を講じていることの表明保証を受けてい ることがどのように評価されるか触れていないが、しかし、AI開発事業者・AIサービス提供事業者等の関係事業者間で、契約上の表明保証条項等により適切な責任分担が行われることは望ましいと考える

そのため、法第30条の4をはじめとする 「柔軟な権利制限規定」 については、民間事業者によるその明確化に向けた取組も期待している。


その他、AIと著作権に関する考え方には直接的に影響がないと思われるもの、あるいは素案にすでに記載されている内容

開発・学習段階と、生成・利用段階を個別に検討する理由

生成AIの著作物の利用場面は開発・学習段階と生成・利用段階が想定される。これらは利用行為として別なため、個別に検討する必要がある。
現状の生成AIは、通常、生成・利用段階において学習データである著作物と創作的表現が共通したものを常に出力するものとはいえないことから、開発・学習段階における利用許諾の要否と、生成・利用段階におけ る利用許諾の要否とは別個の問題として検討する必要があると考られる。

著作権法上、保護の対象になるものとならないものについて

著作権法上、保護の対象となる「創作的表現」と対象とならない「アイデア」の区別は、ケースバイケースのため、具体的な判断は個別の事案に応じた司法判断が必要。これに関連して、RAG等による出力が、法第47条の5における 「軽微利用」に該当するか否 かは、実際の当該RAG等による出力を、サービス提供の開始に先立って あらかじめ試験する等の方法で確認することが考えられる。
「軽微」であるか否かは、利用に供される部分の占める割合、その利用 に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度などの外形的 な要素に照らして最終的には司法の場で具体的に判断される(「基本的な考え方」23頁)。
また、主観的要素を客観的な間接事実から認定するという手法は、一般的な事実認定の方法として取られているものと承知している。

著作権侵害について

類似性については、既存の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できるかといったこれまでの判例上の観点から、裁判所が個別具体的な事案に応じて判断する。依拠性と過失の有無については、それぞれ別個に判断されるものと承知している。
依拠性の判断において、開発・学習段階において学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において生 成されることはないといえる状態の程度に応じ、個別具体的な事案に応 じて裁判所により判断されるものと考えられる。
仮に学習データの開示が営業秘密に該当する場合には、通常の文書提出命令の場合と同様、裁判所において適切に判断されると考える。

依拠性の立証に際してどのような情報の開示が必要となるか、また、文書提出命令等の判断において文書提出義務が認められるか等は、個別具体的な事案に応じて裁判所において判断されるものと考えられます。
依拠性の立証においては、データの開示を求めるまでもなく、高度の類似性があることなどでも認められ得ます。仮に営業秘密に該当する場合には、通常の文書提出命令の場合と同様、裁判所において適切に判断されると考える。

AI学習に関する一般論として、大量のデータを必要とす る機械学習(深層学習) の性質を踏まえると、AI学習のために複製等を 行う著作物の量が大量であることをもって、「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではないと考えられることが示されていま す。最終的に「必要と認められる限度」の要件を満たすか否かは、個別の事案に応じた司法判断となる。

規範的な行為主体の判断については、個別具体的な事案に応じて裁判所 において判断されるものであり、本考え方では、既存の判例・裁判例に照らして、規範的な行為主体の判断において考慮されると考えられる要素を示ししている。

示ししている事例は、これに限定されるものではない。
本考え方の記述は、特定の技術的措置を推奨するものではなく、既存の 判例・裁判例において物理的な行為主体以外の者が規範的な行為主体として著作権侵害の責任を負う場合があることを踏まえ、このリスクを下げる要素となりうる事項を挙げている。

「現存するアーティストの氏名等を指定したプロンプト等による生成指示を拒否する技術」を例に挙げているのは、AI開発事業者・AIサービス提供事業者等によって、著作権侵害のリスクを低減するために取られている技術的な措置を紹介としているものとしている。

法第30条の4における 「享受」 の対象は、権利制限の対象となる「当該著作物」であり、これ以外の他の著作物について享受目的の有無が問題となるものではないことが示されている。

「私的利用」 について、私的使用目的の複製は従来から権利制限の対象とされており、本考え方はこの点について新たな考え方を示すものでない。また、「日本では、著作物のコピーをオ ンライン上で公開しても私的利用の範囲としており」 との点は、私的使用目的の複製に関する法30条は著作物の公衆送信を対象としておらず、 またオンラインで公開することは通常、私的使用の目的を超えると考えられることから、このような行為が私的使用目的の複製として権利制限の対象となることはない。

技術的なものの説明にRAG等に着目し例を示したことについて

RAG等に着目し第30条の4の適用の考え方が示されているが、これは生成AIと著作権の関係で、開発・学習段階においては、学習済みモデルの作成のためのAI学習(事前学習又は追加的な学習)の場面とは別に著作物が用いられる場面として、昨今、RAG等において生成AIに入力するためのデータベースを作成するために既存の著作物の複製等が生じる事例が見られることから、生成AIと著作権の関係を網羅的に検討するために取り上げている。

パブリックコメントや検討委員会に対する意見

パブリックコメントの実施については事前にアナウンスをしていた。今後も十分な意見が集まるよう募集期間の確保を行う。また、意見募集には多様な関係者から意見を募っている。審議は文化庁のウェブサイトで公開し透明性を確保している。

本考え方では、読み手にとって可能な限り明確な記載となるよう、できる限り両論併記を避け、本小委員会の審議において委員間で多数を占め たと考えられる意見を本文に記載し、これ以外の意見を脚注に記載することとしています。

その他

新たな著作物等のコンテンツを創作する活動を行うものをクリエイターとしている。


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