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M-1グランプリ2023 全組ネタ感想

今回は決勝から年末まで短かったこと、「あのネタ審査員評価は低かったけど、自分は好きだったなあ」と思うことがあまりなかったことから、感想文を書くのが難しく、先延ばしにしてしまった。

今更ながら使命感と11ヶ月後の自分のために書き残す。

今回最も気になっていたのは予選ラウンドの会場の空気重くなかった?ということ。

結果的にトップバッターが初出場で最終決戦に残れる実力組だったので尻すぼみ傾向だった。というのもあるとは思うのだけど、それにしても過去数年にない重たさだったように感じた。

大吉さんがPodcastで「テレビで聴こえる笑い声と現場の笑い声は別物、真空ジェシカは爆発的にウケていた」と言ってたので、テレビ越しだと確かに別物なのかもしれない。

ただ同じテレビ越し同士の比較だと明らかに今回は重かったように思う。なぜそうだったのか、あたりを考えながら感想文を書いてみようと思う。

1.令和ロマン

令和ロマンの実力はM-1前から多くのお笑いファンの知るところにあって、3連単予想でもさや香に次ぐ2番人気に付けていた。

かくいう私も令和ロマンは大好きで、今回の出場組の中で最も応援していた。ただ2番人気は過剰期待では?と思っていた。

それがまさか現代M-1の採点基準では最終決戦進出不可能と思われていたトップバッターで3位まで残り続けるとは驚きである。

くるまさん自身がお笑いマニアであることを隠さず発信しており、その熱量や感性がインターネット各地にいるお笑い分析民のそれに近い。

遥か遠くの天才なのに、勝手に近くに感じてしまっていたんだなあと今回感じた。

年始特番でのある発言が注目されて、「さすが我らがくるまさん」くらいのノリでX上でバズってた。

まあそれを含めて彼らの人気だと思うんだけど、今後自分の思い通りのムーブをしなかった時に勝手に失望するのだけは本人たちがかわいそうなので、どうかやめてあげてほしい

圧巻と感じたのはお客さんを引き込み力。
10組中最若手とは思えぬ熟練の技に見えた。

「松井ケムリさん率いるみなさんにですね」、「今日これをマジで全員で考えたくて」などお客さんと対話するような件が多く、まるで友達との会話のよう。

M-1史上類を見ないほどお客さんを仲間に引き入れていたと思うし、その反動で以降6組目のヤーレンズまでかなり空気の重い時間が続いたように思う。

このネタのある件が、後続組の見られ方にも影響したような気がする。それは後で触れる。

個人的採点:93点
特に印象に残ったフレーズ:ちょっとだめだこれ、あんま面白くない やっぱ日体大だよな!

トップバッターに付けられる得点としては最高点のつもりで付けた。結果ここからの採点が難航を極めた。

審査員としてもこれほど予選の採点が難しかった回は過去に無かったのではないのだろうか。

2.シシガシラ

スキンヘッドの人が合コンの話。
この設定は2021年錦鯉の1本目と同じ。

敗者復活は山崎まさよしOne more time one more chance。これは2006年完全優勝を果たしたチュートリアルの2本目チリンチリンと同じ。

あと脇田さんがKOC2023王者のサルゴリラ赤羽さんに似ている。

とここだけ切り取ると優勝確定演出なんだけれど。

「それじゃただのハゲですよ」発言のあまりの容赦なさとかもっとウケていいようには思ったけど、脇田さんの最初の「ハゲは言っていいの〜!」をピークに会場の笑いはなかなか爆発しなかった。

諭すようにツッコむネタなので、笑いが落ち着いてからの巻き返しが難しかったように見えた。

後続組のさや香も出だし失速気味に見えたが、勢い全開のノリで巻き返した。この点は前後並んだこともあり対照的だった。

あと令和ロマンの「ちょっとだめだこれ、あんま面白くない やっぱ日体大だよな!」の展開が後続組にも響いたように思っている。

漫才自体へのメタ発言であり、観客の想像を越えてくる笑い。

後続組にもどこかそれを求めてしまい、シシガシラ、ダンビラムーチョやくらげなど、同じネタ一本で走り切る組が、比較で淡白に映ったのでは?と思う。

それはそうと「看護婦」も「スチュワーデス」もこのネタの中で随分と久しぶりに聞いた。

個人的採点:88点
特に印象に残ったフレーズ:これおんなじ人がジャッジしてくれてる?

3.さや香

序盤は大声を張り上げる新山さんが空回りに見えるほど、空気が重たいと感じながら見ていた。

2022年の免許返納の完璧すぎるつかみと比較してしまい、あれほどの完成度ではないのか?と思ってしまった。

ただ中盤以降しっかりと巻き返し、新山さんの力説がきちんとウケだして、爆発も起こっていた。シシガシラが捲りきれなかったところを、かなりのパワープレーで捲ったという印象が強かった。

「ほんで人間みんな弱いねん!」って急に哲学入ってくるし。

塙さんがホームステイのイメージが湧かなかったと言っていたが、確かにホストファミリーと留学生の関係性に対する解像度が高いとより面白く感じるネタなのかなとは思った。

それを言い出すと2022真空ジェシカのシルバー人材センターなんて本物見たことなさすぎるな、という話にはなってくる。

個人的採点:93点
特に印象に残ったフレーズ: 素敵なご縁があるぞでエンゾ

なんだかんだできっちり予選1位。
優勝候補の期待に十分すぎるほど応えていた。

4.カベポスター

個人的には、学校や神社の情景が想像しきれればもう一段階笑えた気がした。

そんなことを思い返してると、このネタ小学校の話か中学校の話か、おまじないの話か怪談の話かリアタイだと分からずに少し混乱をしていた。

実際の設定は前半は「小学校のおまじない」、後半は「小学校の七不思議」。

ただ最初の件で出てくる「音楽の先生」「修学旅行の行き先が沖縄」は中学生の話っぽいし、「夜写真を置きに行った」も中学生っぽいし、すでに怪談っぽい。

確かに小学校にも音楽の先生はいたけど、科目ごとの先生は中学校以上の話だと思ってしまう。あと小学生は修学旅行で飛行機は乗らない(偏見)から、中学生のネタだと思って見ていた。

一方「ずっとずっとゼリー」は完全に小学生っぽい願い事。

けどリアタイで見てた時は中学校の話と勘違いしてたので「中学生がゼリーなんてお願いごとするかね」とちょっと思った。

じっくり永見さんの話を聞くネタなので「あれ?どっかでセリフ聞きそびれた?」と余計なことを気にした。で、最後のドロロロが一番頭には残った。

松本さんが「もう2分くらいあればもっと面白いネタだったと思う」と言っていたのがしっくりきた。

個人的採点:88点
特に印象に残ったフレーズ: ずっとずっとゼリー ずっゼリ

5.マユリカ

阪本さんがどことなく往年の松本人志と見た目の雰囲気が被っている気がしている。

東大卒のフードファイター、浴槽おでん、尾木ママサインコレクターが並び立った件は絶対もっとウケてよかった。今回のM-1で数少ないもっと評価されるべきポイント。

この辺りで本格的に今日のお客さんの判定基準厳しめじゃない?と思うようになってきた。

ズッキンズッキンプッチン不倫です、ポンピーンから中谷さんが詰め寄る件で久しぶりに会場がどっと湧いた。この後のヤーレンズの大ウケの前兆のようだった。

塙さんが「もっと阪本くんが変なことを言うのを欲しがっちゃった。もっと入れて欲しいと思った」と言っていたが、まさしく同じことを思った。

阪本さんの独特なセンスのボケと、それに翻弄される中谷さんがもっと見たくなるので、冷め切った会話が主となる倦怠期の設定のネタは少し損をしている気もした。プッチン不倫以降のウケ方を思うとなおさら。

個人的採点:91点
特に印象に残ったフレーズ: ズッキンズッキンプッチン不倫ですポンピーン

合計得点645点は令和ロマンと3点差。審査員全員が令和ロマンと±2点以内の点数。

平場で往年のヨゴレ芸人を凝縮してるやら中谷さん中心にいじられまくっていたので、こんな大接戦だったことに気付いてなかった。

仮に令和ロマンとマユリカの順位がこの時点で逆だったら、どんな展開になっていたのか気にはなる。

6.ヤーレンズ

圧巻だった。

初見でも掛け合いの全部が終始面白かったけど、複数回見ると毎度違うボケに気付くことができて、一体何個ボケてたの?というネタ。

ダイナマイトボートレースのあと口ずさんでたり、ちらし寿司が実は2回登場してたり、トイレットペーパーでチュンリーをやった後に蹴っ飛ばしてたり、ねねねーねねーねねーは完全にボボボーボ・ボーボボのリズムで…

キリがないほどパワーワードが出てくるし、全部にいちいちはツッコまずに受け流しつつ、要所でしっかり決まる出井さんのツッコミもお見事。

変な人への対応としてリアル。「しゃがんで立つ!」に「あーどうしました?」とか「ゴスペラーズ誰が好き?」に「無理して話さなくていいですよ」なのとか。

2本目のネタといい出井の文字遊びがありすぎて、出井姓で生まれたことを最大限に活かしてる。

この緩くずっとふざけてて、2人とも楽しそうなノリが今回のM-1の空気感との相性も抜群に良かったと思う。

十分すぎるほどボケた後にゴミの日が年1なのめっちゃ笑っちゃった。

個人的採点:92点
特に印象に残ったフレーズ: なんだ私の右手か、サブちゃん演歌スクール

リアルタイムで見ている時は令和ロマン、さや香と比較すると笑いの大爆発がなかったかなとその2組に付けた93点より1点下にした。

ただ複数回見てると95点あたりにしても良かったと反省。

松本さんがコメントで言っていた「ずっと面白いから、後半笑いが減ってきた気がするけど、みんなが面白過ぎて疲れちゃった感じ」というのが、そのあたりを表現してたように思う。

合計得点の656点を見て、順位発表前に楢原さんは「6に挟まれているから…」とか言ってて、見せ算を一足先に習ってそうだった。

7.真空ジェシカ

こちらも大好きな組で、2021,22のM-1では2年連続で個人的採点でトップ3になってた。

過去2年のネタと比較すると、万人ウケに近付き分かりやすくなっているように感じた。

個人的には毎度あったシニカルなボケをもう少し見たかったなと思い、前回と比べると若干の物足りなさも感じてしまった。後科2犯みたいなのをもっと見たかった。

それこそ言葉遊び系のボケもいつも多いので、「サブちゃん演歌スクールでサブスクってこと!?」とかガクさんが言ってるのすごい頭に浮かぶんだけどな。今回はヤーレンズの固有名詞の使い方やフレーズセンスが一段秀逸に見えてしまったかも。

ただ三谷後期高齢者への「もうラジオネームじゃねぇか!」なんてかなりシンプルなツッコミな気がしたけど、ドッとウケてたもんなあ。

個人的採点:91点
特に印象に残ったフレーズ: ドラ泣きしてるとこすみません

審査員コメントではほんとに評価ポイントや改善ポイントがバラバラ。過去2年からはっきりとアプローチを変えていたように思うけど、お客さんや審査員の反応を見る限り同じ5位でも意味のあるチャレンジだったと思う。

ともすれば個性が消えてしまうので、バランス感が難しそうだが、2021年予選1位のオズワルドのようにこれ以上を求めるのは酷なんじゃないか?とも思わない。というか川北さんの個性消えようがない気がするな。急に明るくなったら無理ありすぎるから。

2024以降も期待したい。

8.ダンビラムーチョ

野球部あるあるのYouTubeを見ているので応援している組で、聞こえてくる下馬評も高かったので楽しみにしていた。

大原さんの自家製DAM channelに元木大介が登場して野球ファンの期待に応えてくれていた。

M-1決勝はお客さんも審査員の気持ちになりながら、「一体どんな展開を見せてくれるんだ」「どんな加点ポイントがあるんだ」と思いながら見ている部分があるように思う。

その中で加点減点が難しい今回のネタは相性が悪かったようにも思う。逆に明確な点数が公開されず、お客さんが"審査員"になってない準決勝までで同じネタが大爆笑をさらってたのも納得する。

前半組で出れると場を温める要員としても光ることができた思うが、一発長打が求められる後半組となったことも逆風だったと思う。

冒頭の天体観測は確かに長かったけど、あそこだけで多彩なカラオケ音源あるあるが詰め込まれていた。

別にフニャオさんはそれに逐一ツッコむわけではなく歌っているので、そのカラオケあるあると、ツッコまずに歌う様子に自分の中で「いや何してんの」とか「確かに急に楽器変わることあるけど」とかツッコめるかという感じ。

そのあたり敗者復活戦で言うとトムブラウンやフースーヤの系譜なのか。あれよりはだいぶ秩序立ってるけど。

キセキの「いやただの友達」とかほっこりしたし、マライアキャリーのエナーイモードなんてめちゃくちゃ感心はしちゃって好きだったけどな。

個人的採点:90点
特に印象に残ったフレーズ: エナーイ

このネタのM-1的な審査ポイントの難しさは2022のヨネダ2000と重なった。

それでいてヨネダ2000ほど志らく師匠が97点近く付けそうなぶっ飛び方をしたネタでもないので、突出した高得点が付きにくいのかなと思ってはいた。

大原さんが岡本のユニフォームを取ってくる待ち時間のフニャオさん、微妙な距離感の取締役とエレベーターホールで2人きりなってしまった若手社員の雰囲気だった。

9.くらげ

基本的に素人風情の自己満感想文なので「こうすりゃもっと面白いはずなのに」とかはこの手の感想文で極力書かないようにしたい。だから以降はほんと素人の戯言として読んでほしい。

このネタは正直な話、見方が難しかった。
どのあたりが引っ掛かってしまったのか考えてみる。

一番思ったのは杉さんのとぼけた感じも、渡辺さんの詳しすぎる感じも感情移入がしにくくて、掛け合いの不自然さに対するモヤモヤが解消されなかった。

とぼけてるでいうとミルクボーイ駒場さんも同じなのだが、ミルクボーイの場合は内海さんが究極の世間の声代表をやっているのでめちゃくちゃ笑えるのだが、固有の商品名を羅列する渡辺さんを代弁者としてみることは難しかった。

塙さんがコメントで「どういう人たちなのかが4分間で伝わってこなかった、伝わればもっと高かったと思う」と言っていたが、まさしくもう少し感情移入ができる要素があればもっと面白くなるのかとは思った。

あの一本足打法なら「いやお前詳しすぎて怖いよ!」とツッコミがあるなり、「お前"違う"だけじゃなくてもうちょっとヒント言えよ!」あたりのセリフがもっと早くあった方が、個人的にはモヤモヤが解消できたなあと。

それか例えば1つ目や2つ目で急にいきなり正解しちゃうとかの裏切りや、各商品のちょっとした雑学やあるあるが入るともう少ししっかりネタに入り込めたような。あるあるが入ると一気にミルクボーイっぽくはなるけど。

「詳しすぎる」の一本足だとそこにツッコミが入らないと、何か伏線が回収されないというか違和感が拭われなかった。

パターンが変わってこないので、結果的に羅列パートを割と聞き流してしまってしまったな…というのが正直なところ。

正解のないアキネーターってもっと早く言われてれば、序盤からそう見えて面白かったかも。

二人の魅力がもう少し伝われば、一気に面白く見れそうなのでこれからに期待したい。

個人的採点:86点
特に印象に残ったフレーズ: 正解がないアキネーターずっとやらされてる感じ

10.モグライダー

2年前の決勝初進出と異なり、もうキャラクターも知れ渡った上での登場。タイプ的に知られてるとなかなかキツそうな中で下馬評も高かったので、相当仕上がっているのかと思っていた。

それにしてもさそり座の女のネタの時にこの出番順だったら、最終決戦進出は夢じゃなかったと思うんだよな…

『空に太陽がある限り』の曲のまったり感が少しもったいなかったと思う。さそり座の女のネタと比べて待ち時間のようになってしまうパートが多かった。

本家の曲がにしきの→女性コーラス→にしきの→女性コーラスの繰り返し構成になっていることを、私はM-1後にはじめて知った。おそらく若者はあまり知らないのではないだろうか。

最後ににしきのあきらとコーラス隊が「きみーとぼくは、きみーとぼくは、ふたりでひとーりー」ってハモリ出すとこまで頭にあるとめっちゃ笑ったかも。

あとは審査員コメントでも出てきてたけど、ともしげさんがもっと地団駄を踏んで欲しかった。ただ予測不可能な幅の広がりがモグライダーのネタの良さでもある。準決勝だと同じネタでとんでもない爆発をしてたらしい。

改めてともしげさんが生み出す偶発的な笑いに賭けている芝さんはとてつもなくギャンブラーだなと思った。

個人的採点:90点
特に印象に残ったフレーズ: 何がスターなんだよこいつの

松本さんの「練習不足」コメントを聞くと厳しい評価だなあと思ったけど、実は松本さんの採点順位では3位タイ(91点)で、審査員の中では一番高くモグライダーを評価していた。

個人的採点まとめ

(出番順)
令和ロマン 93点
シシガシラ 88点
さや香 93点
カベポスター 88点
マユリカ 91点
ヤーレンズ 92点
真空ジェシカ 91点
ダンビラムーチョ 90点
くらげ 86点
モグライダー 90点

(得点順)
令和ロマン 93点
さや香 93点
ヤーレンズ 92点
マユリカ 91点
真空ジェシカ 91点
ダンビラムーチョ 90点
モグライダー 90点
シシガシラ 88点
カベポスター 88点
くらげ 86点

改めて今回は本当に難しかった。

令和ロマンを93点にしてマユリカを91点、ヤーレンズを92点にしてしまったので、結果めちゃくちゃ狭い得点帯の中で採点のやりくりをすることになった。

例年同じ得点つけることはできるだけ避けたいと思ってるんだけど今回は4つも同じ得点にしてしまった。

とはいえ流石に1組目に94点以上つける勇気ないなあ。ただあの会場の盛り上がりを思い返すと、あれ以上の点数を後続組につけることは難しかった。

今回は松本さん塙さん礼二さんが95点以上を付けなかった。各審査員の最高点は以下の通り。

邦子さん さや香 98点
大吉さん 真空ジェシカ 95点
富澤さん ヤーレンズ 97点
塙さん  令和ロマン さや香 ヤーレンズ 93点
ともこさん さや香 ヤーレンズ 96点
礼二さん 令和ロマン さや香 94点
松本さん ヤーレンズ 93点

特に中盤以降で大爆発ウケをするコンビがいる年は気持ち良さがあるんだけどね。
今回はつくづく印象を焼き付けて勝ち抜いた令和ロマンがすごい。

M-1感想文は毎年ここで終わりにしたくなるんだけど、最終決戦がある。

ここまでならさや香の優勝で令和ロマンは3位。見せ算も劇的な結果発表も存在しない。

流石に今回は最終決戦に触れないわけにいかないだろう。

最終決戦1.令和ロマン

やっぱり凄いに尽きる。
1本目でお客さんを仲間にしてた。
それが今回の優勝の要因だと思った。

つかみの時点で「待ってました」と言わんばかりの大ウケ。

冒頭の工場作業のマイムにあれだけ尺をかけても、お客さんが「この人たちは絶対に面白いことをしてくれる」という安心感の中見てるので自然と待てて、結果大爆笑。

年末に放送していた特番『令和ロマンの娯楽がたり』の中で、永野さんから「(自分たちのセンスが理解できそうな)感覚の鋭い人にだけ向けてネタをやってるの?」と質問されていた。

それに対しくるまさんは「基本的に上の年代や漫才を昔から見てた人に向けてネタをやっている(漫才という演芸自体がそういうもの)。その中でワードだけ若者向けのものをこっそり混ぜてる。」と言っていた。

このネタはその究極な気がした。

三密回避、ステイホーム、ブラック企業とか要所にトレンドワードは出てくるけどあとはすごく誰でも笑える、世代時代を問わないネタなんだよな。

「昔は恐竜がいた…」とか、「まだライバルじゃないよ」とか、「クッキーは取り消していただきたい!」とか、最後の吉本などなど。

実はハイセンス系で尖ってるっぽく映ってる要素、くるまさんの髪型なんじゃねぇかって気がしてきた。

私は彼らと同年代なので活躍は嬉しい限りなのだが、仮に同世代で芸人をやっていたら敵わないと絶望をしていたかもしれない。

最終決戦での今田さんの涙はもはや優勝確定演出か。

特に印象に残ったフレーズ: クッキーに未来はない!

そういや2年連続最終決戦でコロナ禍あるあるがネタ中に出てきた。(2022はロングコートダディがワクチンの副反応をネタにしてた。)

数年後DVDで見てもピンとこないお笑いな気がするので、リアルタイムで見れてよかった。

最終決戦2.ヤーレンズ

ラーメン屋メンジャミンバトンのネタ。

2022年敗者復活戦で披露したネタで、ヤーレンズの今回の下馬評にも繋がるほど非常に高く評価されていたネタだ。

しかもその時より圧倒的にブラッシュアップされていた。もし全く知らない状態で見たらどれだけ笑っただろうか。

大家さんには強すぎるツッコミはしないけど、ラーメン屋店員には結構しっかりめにツッコむのもリアリティ。

笑い声にかき消され気味だったけど「わしゃ赤穂浪士か」のツッコミが好きだった。

オチがあまりに美しかった。
よくよく考えりゃ冒頭もなんだよな。

本番後の反省会で千鳥ノブさんとヤーレンズが敢えてみなまで言わずこの件についてやりとりしたので、あえてみなまでは言わない。

先日やっていたヤーレンズのオールナイトニッポン0を今聴いてるんだけど、本当にずーっと2人ともふざけてるのね。そりゃ面白いネタ出来るわって関係性だと思った。

特に印象に残ったフレーズ: はい、過払金

ここまでの2組本当に甲乙がつけ難く、さらに全く毛色の違うさや香が残っている。

私は今回関西しゃべくり漫才が差し色になることで、さや香が優勝するのでは?と当初睨んでいた。

だから、これは一体どうなっちゃうんだ?見せ算前は心からそう思っていた。

最終決戦3.さや香


問題の見せ算である。

彼らはこのネタをどうしても最終決戦でやりたくて、ここにくるまで結果を残し続けたのだと思うと最高にパンクである。

さや香の2人もM-1で単純に高得点を狙うのであれば免許返納やエンゾの方が向いていることをおそらく分かってないはずはなく、それでも自分たちの大好きなネタで評価されたかったのだろう。

どこか「関西正統派しゃべくり漫才代表」的な大きすぎる看板を背負わされることを自ら拒否しているかのような。

2022でさや香が最終決戦に進んだ時、もしかしてからあげ4をやってくれるのではないかと期待した自分がいた。

マヂカルラブリーが吊り革で優勝した次の年の敗者復活戦で見たからだろうけど、あのネタは最終決戦で奇跡的なハマり方をすれば優勝しうるネタだと思ってたから。

そのからあげ4と見せ算は、同じ時期の無観客ライブでダブルヒガシとコウテイを笑わせるために作ったネタらしい。

去年もそれほどのぶっ飛び方はしなかったけど、新山さんが好きなテーマの恋愛のネタだったときに好きなネタで優勝したいんだろうなと思った。

今見返したらあのネタも石井さんのセミナー風演説から入ってるし、計算も入ってたし見せ算の伏線若干入ってて笑った。

あと一度見せ算をしっかり履修して、復習として見返すとこのネタ一気に面白く見えた。

見せ算の基礎がわかると
6みせ9=11
2みせ5=1.1
100みせ17=83(大学院レベルでは84)
なのあまりにもさじ加減すぎて笑う。

特に印象に残ったフレーズ: どう思うか?という計算方法

まとめ+α

最終決戦の結果発表の美しさは歴代M-1でNo. 1。あんな2組が交互に登場することもう起こらないのでは?翌日何回も結果発表だけ見返してしまった。

2018の霜降り明星×4→和牛×3は同じ4対3なのに、発表なんとかしてやれなかったか?と思ったのに。

同じ結果なのに競り度合いが違ったように見える。ここ数年は5票目くらいで結果が分かることが多かったから。

リアルタイムでLINEでやり取りしていた数名や、Xのタイムラインを見ていても令和ロマン派とヤーレンズ派は拮抗していた。

そんなわけで、令和ロマンがより面白いと思った人も、ヤーレンズがより面白いと思った人も今回の結果には納得しているように思う。

見せ算が一番面白いと思った人はさや香が優勝しなかったことについては納得してると思う。

そんなこともあってか、お笑い賞レース後によく巻き起こる「〜〜が優勝はあり得ない、一つも笑えなかった」「〜〜のあの採点はない」などの自爆型格付けチェックをあまり見なかった気がする。

令和ロマンは今回のM-1まで「お笑い好きなら多くは知ってるが、世間的には知られてない」といった感じだったので、M-1翌日からそれほどお笑い熱がない人が令和ロマンの名前を出していることに不思議な感覚を覚えた。

ここ数年の結果を見ると、関東系芸人の優勝が4年連続。(マヂカルラブリー、錦鯉、ウエストランド、令和ロマン)

その4組を見るとマヂラブと錦鯉と令和ロマンはボケが圧倒的個性だし動き回るんだけど、超優秀なツッコミがシンプルな言葉で落ち着いて静止しているタイプの組が王者になっている。

ウエストランドも井口さんが圧倒的個性で躍動してる点は同じだけど、河本さんは一体なんと言ったらいいのか。改めて河本さんがチャンピオンの一員なこと、優勝したとき綺麗すぎる涙を流したこと笑うしかないだろ。

ボケが動き回ってるで言うと2018の霜降りもそうだけど、特に優勝当時は粗品さんのワードセンスに注目が集まっていた。そう思うとせいやさんの5年での躍進がすごい。今や2人ともすごいコンビだと誰もが思ってるもんな。

一方で村上さん渡辺さんケムリさんはみんな凝ったたとえツッコミじゃなくて「何やってんだよ!」で笑いを取れるツッコミというか。

銀シャリ、霜降り明星、ミルクボーイあたりはツッコミの傑出性が目立ったけど、偶然か必然か2020年代に入ってから傾向が変わってきている。

塙さんが2018年までの結果を踏まえて、2019年に出したM-1分析本のタイトルが『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』、その第1章のタイトルが『 「王国」 大阪は漫才界のブラジル』だったのを思うとえらく変わったなあとしみじみ感じる。

M-1決勝の数日後にお笑い界に別のどでかい爆弾が投下されてしまった。

あの件、何より嘆かわしいと思うのは世間(とされるネット上で見える意見)の情報リテラシーの下がり方である。

どちらの肩を持つでもないフラットな目線で見ても、双方の言い分について真偽不明の情報が信じられすぎたり、都合良く利用されたりしている。

現代お笑いを建築したと言って良い松本人志ですら、数年前の真偽不明の情報であそこまで行ってしまうのだ。

その是非はともかくとして、世の中全員自分の信頼など、風説によって1日で地に堕ち得るのだと思った方が良い。

昨年オリラジの中田さんが例の提言をしていた。だけど別に松本さんのエゴで審査委員長をやってたり、権威が集中しているわけではないと思うのだ。

お笑いをさして見ない人ほど「松本人志=芸能界トップ、権威の象徴」と捉えてそうだがそうではないと思う。むしろ本人はそれほど現役に執着はあるのだろうか?

ないのかもしれない、還暦の節目も迎えたし今回の件をきっかけにスッと身を引いてしまうかもしれないと私は怖く思っている。

芸人だけでなく、視聴者も含め30年以上お笑いの中心にいる松本人志に影響された人たちはあまりに多い。

彼がもし今後復帰しなかったらどうなるだろうと考えた。そのとき日常的なバラエティだけを考えると、致命的なことにはならないのでは?と思ってしまった。

理由は松本人志に影響を受けた人たち、憧れ目指した人たちがあまりにも多すぎるため、「松本人志的なことができる人たち、やろうとしてる人たち」がたくさんいると思ったからだ。

VTRや写真を見て即興で大喜利的なコメントを言ったり、ポーカーフェイスで冷笑的な気づきを言ってみたり。松本病、ダウンタウン病と言われる人たちまで生み出した。

大人数で対応すれば、多分表面上穴が埋まったようには見える。

『伝説の一日』でネタを披露していたが、テレビでダウンタウンの漫才を見れる機会はそもそもない。

と言うよりもあの年代の芸人コンビは、他の人たちだって、ネタ番組などでネタはほとんどやってない。今でもテレビで定期的に漫才を披露している爆笑問題が特異で凄すぎる。

ただ、松本人志に評価されたいと思う芸人と、評価を見たい視聴者があまりに多いため、彼が審査員になっているコンテンツは全て異常な箔のつき方をするのだと思う。

夢、希望、大会の価値そのものを大きく担っているので、M-1を筆頭に松本人志が賞レースの審査員席にいないとき、ぽっかりと空いた穴を思い寂しくなるのだろう。

もしM-1グランプリ2024の審査員席に彼がいなかったとき、松本人志ならどう採点したのか?誰に票を投じたのか?と気にしてしまうのだ。

今回の騒動について総じて言うと、一お笑いファンとしてなんで週刊誌報道一つでこんなにも失墜しなきゃいけないのかと悔しい。

少々のやましい点はあり、つぶさに説明ができないばかりに言われ放題の状態になっていることが悔しくてならない。

と話が若干横道に逸れてしまった。

なんにせよようやく感想文が書けた。
ちょっと遅れたので、松本人志問題について思うことも書いてみました。

令和ロマン、ヤーレンズ、そしてマユリカあたりを見てると準決勝以前や敗者復活で存在感を発揮したコンビはそのままブラッシュアップして上がってくる可能性は大いにあるんだなと思った。

なんにせよ次回のM-1グランプリも楽しみである。

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