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有形具記憶盤(ハードディクス)
電脳の記憶媒体に最も一般的に使われている有形具記憶盤について説明する。これが入っている函の中身は以下の図の様になっている。
![](https://assets.st-note.com/img/1692322772345-IseKS38aaZ.png?width=800)
有形具記憶盤はアルミ等の金属の円盤とそれを回転させる電動機、そして円盤から情報粒を読み取る磁端部(磁気先端部)からなる。この円盤の上には磁性体と言う、磁気を帯びさせる事ができる鉱物粉末が塗ってある。その鉱物にはパーマロイ、フェライ、コバルト等がある。
磁端部が、強い磁力を放ちながら回転する磁気盤に近付くと、磁端部の磁気方向、即ちN極またはS極に従い、円盤状の磁性体の粒がN極またはS極に磁気を帯びる。また、単なる導線巻が、磁気を帯びた記憶盤に近づくと、電磁誘導により電流が流れる。この電流の+または-は以下の様に、磁性体のN極またはS極の方向により決まる。
NS|SN|NS|SN <- 記憶盤の表面にある磁性体粒の磁極
0 | 1 | 0 |1 <- 電流の-又は+を0又は1に翻訳する
磁極の方向で0または1が決まれば、その扱いは今までこの連載で説明してきた通りである。
有形具記憶盤の場合、物理的に面白いと言うか凄いのが、磁気盤と磁端部の位置である。磁端部は磁気盤の上を動くが直に接触はしない。両者の間には隙間があり、なんと 0.02μm(マイクロメートル)と言う小さなものだ。人の髪の毛の直径が80〜120μmなので、その4000〜6000分の1になる。また、ガラスのコップに付いた人の指紋(皮脂の塊)の厚ささえ3〜5μmなので、磁気盤と磁端部の隙間が如何に小さいかが分る。
この隙間を機械的に維持することは不可能なので、流体物理現象を利用して維持している。磁気盤は毎分数千〜1万数千回で、回転している。この速度になると、磁気盤の表面の空気も回転に引っ張られ、高速で移動して風圧を作り出す。磁端部は、孫悟空が觔斗雲に乗るように、空気の風圧に乗っているのだ。良く引き合いに出されるのが、この磁端部をジャンボジェットに例えると、地上から数ミリの所を高速飛行しているのに相当すると言うのだ。
実際問題として、もし磁端部が磁気盤に接触すると、磁性体膜を傷つけ情報粒を壊してしまう。従って、磁気盤の回転が止まる前に、磁端部を情報粒の無い場所に移動させる必要がある。卓上電脳が使う記憶盤は止める時に「カチッ」と音がするものがあるが、これは磁端部が退避行動をして、止具に当たった時の音だ。
磁気を帯びさせた磁性体粒子の塊は非常に小さなものである。これを一つ一つ読み書きしていては、途方もない時間が掛かってしまう。この対策としてある程度の情報量を纏めて扱う様に成っている。これは、洗濯をする時に衣類を一つずつ洗ったりはせずに、纏めて洗濯機に放り込んで時短するのと同じである。
磁気盤の磁極は小さな区画に割付される。構造は木の年輪のようにして、一つ一つの年輪を更に区割りするのである。一番外側の一つまたは二つの年輪は区画管理用に使われる。この様に磁気盤に磁極の印を付けることを磁極情報構成と言い、この行為を初期化と言う。
磁気盤からの情報粒の読み書きは、盤上のどこから読み書きするのか管理する必要がある。木の年輪の様に置かれた情報粒は、一番外側の一つ又は二つが管理区画として使われる。情報粒の読み書きは、電網通販で荷物が集められる物流集積所に似ている。集積所の管理所で荷物を何処に置くか指示すると、配送車は指定された区画に荷物を置くか、または取りに行くことになる。
電脳の場合、無形具が電 帳(電子帳面)を要求して、読み取る電帳名を有形具記憶盤に渡すと、外側の管理区画から電帳名を頼りに、どの区画の電帳情報粒を読むかを決める。書き込みの場合は、空いている区画に情報粒を置き、その区画情報と電帳名を管理区画に書き込む。
物流集積所との大きな違いは、情報粒区画には、一種類(一つの電帳名)の情報粒しか置けない。しかも、情報粒を一個置くだけで、その区画はもう使用済み満杯の符号が付けられる。大抵の記憶盤では、情報粒区画の容量は4KB(キロバイト)で、これは全角にすると約二千文字である。つまり、一文字のみ書いても残りは使えなことになる。従って、小さな電子帳面が沢山あると、磁気盤の容量がかなり無駄に消費されてしまう。
有形具記憶盤の様な物理的に情報粒を蓄える機器は段々使われなくなるだろう。代わりにフラッシュメモリやSSDの様な機械的動作が無い記憶媒体に取って代わられるだろう。
以上
「電脳(コンピュータ)って何?」連載はこれで終了する。 次は、今流行りの古くて新しい技術AIしようと思う。
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