見出し画像

アジャイルとデザイン思考の融合〜ジョイ・インク(Joy, Inc.)を読んだ

電子書籍の利点は保存場所を取らないことですが、だからこそ積ん読に陥りやすいという一面もあります。と、いうことで積ん読ライブラリから「ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント」を読了しました。

先日(9/2)に大阪で開催された Developers Summit 2023 KANSAI に参加して(KANSAIは初参加だし、Tokyoもオフラインでの参加はどんだけ振り)、久しぶりに本書の訳者でもある原田騎郎さんにもお会いできたし、読むなら今でしょうといった感じで、一気に読み進めました。

最初の感想は「もっと早く読んどきゃ良かった」でした。ジョイ・インクを私なりの言葉で一言でまとめると「アジャイル+デザイン思考を単にソフトウェア開発だけでなく、社内の仕事の仕方、お客様との関係性など「会社」に適用した実例」といった感じ。

私自身のキャリアが、パッケージソフトウェアの開発者(日系企業から、シリコンバレーのDejima)から、 開発者のマネジメント(DejimaがSybaseにより買収)、デザイン思考を適用したイノベーション創出(SybaseがSAPにより買収、SAP Design Thinking Blackbelt、のちにMicrosoftのコンサル部門に転職)といった流れを辿ってきたからこそ思うところがありました。

開発者や開発者のマネージメントをしていたときは「なぜ弊社製品/技術」を使ってくれないのだろうというのが課題意識としてありました。時代的には2000年ごろなので、プログラミング的にはExtreme Programmingであったり、データの持ち方はXMLであったり、さらに、技術に溺れることなく、提供価値をどう伝えるかを悩み抜き、友人のマンガ家にストーリーをマンガに仕立ててもらい、展示会で配ってみたりもしたのでした。

SAPに入社してからは、当時のSAPは「デザイン思考でDXを推進する会社」というブランディングをしていたこともあり、その中で日本を中心に少なくないトップレベルの企業とデザイン思考ワークショップを主導してきました。とはいえ、やりたいこと、提供したいものをプロトタイピングするところまではできても、なかなかその次の「動くモノを実装する」「実装したものを実プロダクト/実サービスにする」というところに辿り着かず、ワークショップ開催回数だけが積み重なっていったのでした。

その後、Microsoftでも同様の取り組みを続けてきて、その中でさまざまなお客様と会話を重ねて、課題感など得るものもたくさんあったのですが、次のフェーズになかなか移行できないというジレンマは変わらないのでした(デザイン思考に限らず、 例えば AI のPoC が PoC で終わってしまうというのは常態化していました)。

そんな時に CircleCI で Developer Advocate として働くという話をいただき、「これだっ」と思ったのでした。私にとって、CI/CDで自動化、仕組み化したかったのは、

  1. 想定する未来の顧客を定義し(ペルソナ)、ペルソナの行動が変わるきっかけ、しくみを、多様な立場、目線、考え方をぶつける中で拡大〜集約していく。

  2. 動くクイックプロトタイプをアプリケーションとして実装する。CI/CDを適用して「誰でも最新のバージョンの動くモノが手に入る(ビルド〜リリースバージョンの作成くらいが自動化されていれば、自動テストはいったん後回しにする)」「コードの心得があれば誰でもイジれる、かつイジっても壊れっぱなしにならない(この辺りで自動テストも取り掛かり始める)」ようにする。できるだけ早く、体験が検証できる程度の解像度で。

  3. プロトタイプを評価する。このままビジネス化に向け、続けるのか続けないのか決める。

  4. 結論が「続ける」だろうと「続けない」だろうと、コードレポジトリとCI/CDがそこにあれば、「ちょっと手が空いた」「やらなきゃいけなくなった」「自分が主体的に取り組みたい」人がいれば、いつでも続きに取り掛かれる。そんな状況で再開されたプロジェクトこそ継続力がある。

  5. 常に動くモノがあることが保証されている状態で、製品化/サービス化/ビジネス化をアジャイルに進める。

と、これは今でも考えていて、「なんで今のお仕事やってるんですか?」みたいなことを聞かれた時には、そう答えてきたのですが、今となっては、「ジョイ・インク」みたいな世界を作りたかったからといえば、ひとことで説明が済んだと感じています。まぁ、この本を読んでいない人も当然いるわけで、自分の体験や思いを自分の言葉で語ることには意味があるとは思いますが。

デザイン思考に関わるところ(「ハイテク人類学者」)は、今であればもうちょっと普通の言い方ができるだろうな、あるいはデザイン思考と実装をどう繋ぐのかに関する説明がもう少し、詳細かつ具体的にあればと思う反面、本書の原著が2013年に書かれたことを考えれば(その当時、デザイン思考を説明するのは確かに難しかった)、今の読者は現時点での自分の経験と合わせて読み進めていけば良いのかと思います。★★★★★


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?