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TOKYO MXからの回答への声明(8月13日)

 8月10日(木)に届いたTOKYO MXからの回答に対する「有志の会」の声明を掲載します。7月13日(木)に提出した公開質問状については、こちらをご覧ください。


2023年8月13日

「TOKYO MX 『堀潤モーニングフラッグ』朝鮮学校報道を問う公開質問状」に対するTOKYO MXからの回答への声明

TOKYO MX 『堀潤モーニングフラッグ』朝鮮学校報道を問う有志の会
代表 早尾貴紀(東京経済大学教員)
山本かほり(愛知県立大学教員)
板垣竜太(同志社大学教員)

 TOKYO MX 『堀潤モーニングフラッグ』朝鮮学校を問う有志の会が2023年7月13日に提出した公開質問状(賛同者1,096名)に対する回答が、8月10日になってようやく届きました。この間に、早尾貴紀と山本かほりが7月26日にTOKYO MXまで出向き、編成製作本部編成局長の城田信義氏と約1時間の面談も行っています。その上で、こちらが当初提示した2週間という期限から大幅に遅れ4週間後に届いた回答ではありますが、私たちが到底納得できる内容ではありませんでした。

 公開した質問の各項目と照会しながら回答を読むと、私たちの質問に対する誠実な回答ということはできず、むしろ私たちが批判していた問題点をさらに明確にするようなものでしかありませんでした。

(1)公開質問状1、2、3、8に対するTOKYO MX回答について

 まずTOKYO MX側の回答は、東京都が出した『朝鮮学校報告書』(2013年11月)と2021年7月などの朝鮮高校無償化裁判の最高裁判決を無批判に前提としています。回答では「当社は、自治体や国の決定した施策・判断についての正誤を判断することは致しません」とあたかも「公平」であるかのように言っていますが、回答を読めば、東京都や国の判断を追認し、排除を正当化していることは明らかです。

①質問1について
 回答では「『朝鮮学校に対する補助金』とコメントした大空氏の発言自体は、制度の内容及び自治体や国の決定した施策・判断の内容と相違はありません」とあります。しかし、私たちの質問は、大空幸星氏が東京都の「私立外国人学校教育運営費補助金」が「子どもへの直接補助金ではない」(6/19放送発言)から政治的にカットされても「〔東京都〕こども基本条例」にも反していないかのように発言したことを批判し、そのことを問うたわけです。
 回答には、「『国際的な子どもの基本条約に反している』という正誤判断の問題でもなく、またご質問1でお書き頂いているような『政治的にカットされても子供の学ぶ権利に無関係である』という発言ではない」とありますが、その前提が、都の報告書や無償化裁判の最高裁判決(回答「制度の内容及び自治体や国の決定した施策・判断の内容と相違はありません」)であり、先に述べたように、私たちは、そのTOKYO MXの姿勢自体を問題視しているわけです。面談でも城田編成局長から「公平」「平等な意見」という言葉が繰り返され、放送局としてあたかも「中立」であるかのように言うのみです。しかしながら、TOKYO MXが政府や東京都の判断を批判しないことによって、結果的に是認していることに、私たちは再度批判せざるを得ません。

②質問2について
 私たちは質問状では、大空氏が「朝鮮学校の経営が下手くそだ」と、補助金停止をめぐる議論に、論点をすり替えた主観的な評価をしたことを批判しました。また、7月26日の面談では朝鮮学校や在日朝鮮人の歴史をあらためて説明し、朝鮮学校が財政的に苦しくても、70年以上にわたり民族教育を在日朝鮮人の子どもたちに実施してきている意議を説明しました。
 しかしながら、回答では、大空氏の発言を「補助金停止の状況にある学校に対して、経営面の努力や工夫において運営を成り立たせることにより、そこに通う子供達の学びへのサポートが実現できる側面もあるのではないかという1つの意見であると受け止めております」と擁護しています。
 面談でも述べましたが、朝鮮学校は在日朝鮮人による在日朝鮮人のための教育機関であり、マジョリティである日本人が外部から生半可な知識で朝鮮学校の経営に意見するのは越権行為でしかありません。補助金のあり方こそ日本国民に責任があることであるにもかかわらず、東京都の補助金停止を事実上是認したうえで、マイノリティの努力不足に責任を転嫁したことがそもそもの問題でした。ましてや、なぜ、朝鮮学校がなぜ財政的に苦しくても、大空氏が番組で紹介したような授業料で学校を運営しているのかについて、少しでも現実を調べ想像力を働かせれば、大空氏の発言がいかに暴力的なものであるかはわかるはずです。それなのに、朝鮮学校の授業料を上げて、それが払えなければ「公立の学校に入ってもらう」というような暴言を公共の電波で流したこと、これが差別であることを再三説明したにもかかわらず、回答には全く反映されませんでした。

③質問3について
 これについては、全く回答がされていません。大空氏の「子どもたちを盾にするっていうのがいちばん卑怯」という発言を、私たちは問題視し批判しました。朝鮮学校やそこに関わる人たちが、日々在日朝鮮人の子どもたちの民族教育のために奔走していることを誹謗中傷するものであると批判しています。しかし、質問2の回答と抱き合わせるという姑息な方法で、この質問への回答を避けるのみでした。結局、マイノリティの切実な要求を「卑怯」としか理解しえない、マジョリティの特権的な卑怯さを、TOKYO MX自らが露呈することになったのです。

(2)公開質問状4、5、6、7に対するMX回答について

①質問4、5について
 私たちの質問は、コメンテーターの河崎環氏が「政治的論争の対象になっている」朝鮮学校に子どもを通わせることを否定的にのべ、「民族意識を教えて育つ環境」を「過剰」と批判したこと、さらに、もう一人のコメンテーター茂木健一郎氏が「教育支援は子どもとか家庭に直接やるべき」と発言したことについて、高校無償化制度に鑑み、朝鮮高校の生徒のみが排除されてきた現実を結果として是認するものであることを批判しました。 
 これらについて、MXがどう考えるのかについて、7月26日の面談で話されたことはありません。当日の録音を再度聞き直しましたが、回答にあたるものはありませんでした。主観的に一括して答えたことにされても、理解できるものではなく、極めて不誠実な態度だと言えます。

②質問6について
 私たちは、番組出演者に対して、朝鮮学校の歴史やまた番組で扱った補助金に関すること、そしてそれらが停止されていることに対する国際人権機関から是正勧告が出ていることなどを事前レクチャーしたのかという質問をしました。
 7月26日の面談では「事前のブリーフィングはしている」と回答されましたが、その内容については明らかにされませんでした。また、「誰が事前レクチャーをしているのか? そして、その人は、朝鮮学校やそれを取り巻く様々な課題について、どの程度知っているのか?」という質問に対しては「番組スタッフがブリーフィングを行い、取材を通じて知識は得ている」という回答でした。
 さらに、そのブリーフィングの「深度」が不足していたかもしれないとは話していましたが、では、その不足していたことによって、今回引き起こされた問題に対して、どう向き合うのかという回答は得ることができませんでした。回答書においても、答えはありません。
 中途半端な知識で、朝鮮学校に関する課題を番組で扱うこと、また朝鮮学校についてコメントすることが差別を生み出すということを全く理解していないとしか思えない回答です。

③質問7について
 質問状では、メインキャスターである堀潤氏の問題を指摘しました。堀潤氏が番組で朝鮮学校を扱ったことの意図が何であれ、大空氏・河崎氏・茂木氏のコメントは堀潤氏の取材や問題提起を台無しにしてしまった、そして、それについて、堀潤氏が何もコメントしなかったことについて、それは差別であり、さらには差別扇動であることを伝えました。
 しかしながら、7月26日の面談においては、3人のコメンテーターに対する「アンサー」がコメントの後に放映された東京朝鮮第五初級学校における堀潤氏の取材VTRであると説明がなされました。私たちは、それは視聴者に対してあまりに無責任であり、コメントのアンサーとはとても考えられない、そもそも、自分の名前を冠した番組において、堀潤氏自身はどう考えているのかと尋ねました。しかしながら、城田氏は「責任は(編成局長である)自分にある。堀潤さんのことは横において」と答え、やはり質問には答えていません。差別である、差別扇動であると認識しているか、という質問に対して、認識が「ある」とも「ない」とも答えていないのです。
 なお、堀潤氏は6月19日の放送直後の本人のYouTube番組「8bit News」や公開質問状を公開した日の夜にnoteで「反論」を公開しましたが、やはり、自身とコメンテーターたちを擁護することに終始し、番組が引き起こした差別には全く向き合っていませんでした。また、堀潤氏が何度も強調したのは、東京朝鮮第五初級学校の先生や子どもたち、さらにはその関係者たちからの「応援」を受けているということでした。しかしながら、たとえ、当事者たちが「応援」を続けているにしても、それは、自身の番組が引き起こした差別や差別扇動の免罪符にはならないことも強調しておかなければならないと思います。

④質問8について
 質問状では質問7と関連し、6月19日放映の当該番組は、朝鮮学校がさまざまな支援策から排除されていること、または、政治的な理由で排除を正当化する差別に加担していることについて尋ねています。また、7月26日の面談においても、そのことの差別性について指摘しました。
 しかしながら、城田氏は「TOKYO MXは国や自治体の政策についての是非を言う立場ではない」と答え、しかし、前述した通り、結局は、国や自治体の政策を根拠に、大空氏はまちがっていないと答えています。番組の差別性、差別扇動性について、全く無自覚であることを露呈しています。

(3)質問9に対するTOKYO MX回答について

 この質問はTOKYO MXの今後の姿勢を問うものでした。それについての回答の前提となるものが、当該番組の理念(ステートメント)でした。
 このステートメントで述べられていることは、7月26日の面談でも城田氏からくり返し説明されました。「国家間や、異なる思想・信条の微妙な狭間に落ちているボールを、丁寧に取り上げるのが番組の役目だと考えています。落ちているボールにすら気付かず生活する事の方が、無意識な差別や情報格差を生んでしまい、気付かぬうちに人を傷つける事さえあります」という部分です。
 そして、城田氏は、今回のさまざまな抗議や公開質問状の提出を受けて、朝鮮学校について取り上げることをやめるのは、かえって良くない、今後とも取材を続けて、「公平」な議論を続けたいと話していました。
 その場で私たちが指摘したことは以下の点です。

  1. そもそも「公平」な議論とは何か。今のような番組構成では、結局のところ「差別をしていいのか/悪いのか」という議論を展開することになる。そんな番組を作っても、それは差別の拡大再生産である。

  2. 取材を続ける、番組を作り続けるというが、取材や番組作成において、制作者の柱は何か、ということが問題ではないか? 面談では、城田氏はそれは答える立場にないという回答したが、「あれもこれもある」というものでは、差別的な発言も「多様な意見」として、公共の電波でまき散らすことになる。

  3. 十分な勉強、知識もなく、インターネットで調べたこと(6/19の放送で大空氏がスマートフォンかタブレットを触っているのが写っていた。)程度のことをベースに、センシティブで難しい状況におかれている朝鮮学校について語ることの問題を認識すべきである。そもそも、城田氏も、7月26日の面談において、朝鮮学校のことを「北朝鮮の学校」と呼んでいた。2回目に発せられた時に、こちらは異議を唱えたが、ごまかすようにして、「朝鮮学校と呼べばいいのでしょうか」と訂正した。その程度の認識しかない人が番組編成の責任者であることが問題である。そのようなスタッフで番組を作ったところで、今回の二の舞である。それならば、もう朝鮮学校に関わらないでほしい。

 しかし、回答で出されたものは、私たちの指摘に対して何も省みることなく、同じ内容が繰り返されただけでした。

 以上のように、TOKYO MXからの回答は、到底、納得できるものではなく、公開質問状に賛同してくださった1、096人への責任を果たすものでありませんでした。私たちは、ひきつづきさまざまな手段を通じて、この問題を提起していきたいと思います。