デザインで世界を前へ。
先日、マネーフォワードのデザイナーサイトがオープンしました。サイトのトップに掲げている言葉は『デザインで世界を前へ。』です。
この言葉には、マネーフォワードのミッション『お金を前へ。人生をもっと前へ。』を実現する上でデザインが果たすべき役割は大きいという想いを込めています。
実は、この言葉を使うかどうか、社内で議論がありました。その理由は、デザイン組織のビジョンとして同じように『デザインで世界を前に進める。』『DESIGN FORWARD』と掲げるユーザベースさんの存在があったためです。
選択肢として私たちの言葉を変えることも考えましたが、それよりも両者の目指すべきところはきっと同じところにあるのではないか。そう考え、『ユーザベース コーポレート執行役員 CDO』 平野 友規さんとの対談を行うことにしました。
一見すると似たようなコンセプトを持つ2つのデザイン組織。互いのコンセプトに込めた想い、デザインを経営に活かす方法、見据える未来、デザイン組織と個人の成長など。
今、2人のCDO(Chief Design Officer)が考える共通点や相違点を探ります。ぜひ最後までご覧ください。
ひとつずつのプロジェクトが世界を前へ進める
セルジオ
ユーザベースのデザイン組織ビジョンやリール動画に共感する点が多く、我々は同じ方向を目指しているのではないかと勝手ながらに思っております。本日の対談では、互いが考えていることを話し合い、共通点や相違点をお話したいです。
平野
よろしくお願いします!
セルジオ
最初にデザイン組織のビジョン『DESIGN FORWARD』が生まれた背景を教えてください。
平野
現在は『経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる』というパーパスに進化していますが、当時は『経済情報で、世界を変える』という会社のミッションがありました。当時のミッションとデザイナーの価値観を紡ぐことで、デザイン組織としての役割を明確にする目的がありました。
セルジオ
『DESIGN FORWARD』を実現するために意識した点は何ですか?
平野
デザイナーがプロジェクトを前へ進めることです。例えば、立ち止まっていたプロジェクトがデザイナーがつくったプロトタイプによって前へ進む。デザイナーが、ファシリテーションすることでプロジェクトが前へ進む。
それらのプロジェクトの集合体が事業活動や企業活動に繋がり、ユーザーが恩恵を受け、世界が前へ進む。そのための一歩目を『DESIGN FORWARD』として意識しています。
セルジオ
おっしゃる通りですね。世界を前へ進めることをブレイクダウンすると、ひとつずつのプロジェクトに繋がる。そこにおけるデザイナーの役割は大きいと思います。
ある種、デザインするということは、未来を先に持ってくる行為だと考えます。例えば、プロトタイプはまだ世の中にない未来のプロダクトを、現在に見えるようにする行為です。それがプロジェクトを前進する力になる。そして、そのひとつひとつが積み重なると大きな力になる。
マネーフォワードも40以上のサービスを提供していますが、それらが集約し、社会を後押ししている感覚があります。
目指すのは、デザインを資産計上する未来
平野
個人的な見解ですが、マネーフォワードの金井さんは経営層に対してデザインの結果を出した方だと考えています。それがマネーフォワードの強みのひとつだとも感じています。
セルジオさん
マネーフォワードは経営層のデザインに対する期待は高いです。しかし、すべての期待に応えられているかは別問題で、まだまだ、人に依存している部分が大きいのが課題です。
平野さんはデザインを経営に活用するため、どんな打ち手を考えていますか?
平野
色々ありますが、その中から組織で挑戦したいと考えていることは、デザイン資産をバランスシート(以下略:B/S)に計上することです。
ソフトウェアの資産計上は既にありますが、デザインシステムやブランドブック、ガイドラインを資産化できていません。一部でも良いので、デザインを資産計上できると1つの結果に繋がると考えています。
セルジオ
デザインをB/S資産として捉えるのはその通りですね。無形資産なので計上しにくいと思いますが、デザインシステムやガイドラインは形として残るため、デザインの中では計上しやすいかもしれませんね。
来年の今、ベストな状態を考え続ける
セルジオ
『DESIGN FORWARD』を推進するため、ロードマップや計画を立てていますか?
平野
ユーザベースは、事業や組織に対する意思決定スピードが速い会社なので、その時々の状況を見て最適な動きをしています。そのため、見通せて、1年だと考えています。「1年後の今、どうなっているのがベストか?」それをずっと考え続けています。
最近の事例をお伝えすると、ちょうど1年前、カンファレンスが必要だ!という漠然とした想いがありました。ただし、内発的な動機だけでは、会社やデザイン組織は動きません。どうやったら周囲がそれに価値を感じるのかを考え始めました。考え続けていると、社内外でSaaSに関わるデザイナーの採用に課題があることに気づき、会社と組織を動かせるイメージが湧きました。
このように、CDOに就任してから、常に1年後どうなっていたいのか?何をするべきなのか?を考え続けています。
セルジオ
自分は石橋を叩いて渡るタイプなので、CDO就任時に3年先のロードマップを制作しました。それから半期ごとに欠かさずアップデートし続けています。状況は日々変わっていく前提ですが、大きな地図を持ちたいと思っています。
平野
おっしゃる通り、ロードマップは作った方が良いのは分かっているのですが、コーチングを通して、自己認識が高まるほど、自分は計画することが苦手であると気づきました。自分の強みは、現場に適応していくこと。自分はそのやり方が成功確率が高まると考え、計画することを諦めました笑。
求めるのは自分のプロセスを持つデザイナー
セルジオ
デザインで世界を前に進める上で、デザイン組織の状態はどうありたいですか?
平野
大きな視点では、デザイン組織が拡大しても崩壊しない制度設計や施策を進めています。現在のデザイン組織は、業務委託のデザイナーを含めて約20名。50名規模になっても崩壊しないように、今やるべきことは何か考え、メンバーに伝えています。
足元の視点では、デザイナー1人ひとりが、自分のデザインプロセスを自分で理解して、説明できる人になって欲しいと願っています。その背景として、デザインで世界を前へ進めるために、デザインすることの再現性が重要になるからです。たまたま、上手くいったことに対して、会社は予算を投資しません。再現性を高めることで、会社は、デザイナーに予算を掛けることができるようになると考えています。
セルジオ
すごく共感します。時代の流れとして、デザインプロセスが教科書的に作られている時代だと感じています。それを使いこなせることも大事ですが、人それぞれのデザインのアプローチがあって良いですね。
マネーフォワードも70名以上のさまざまなスキルを持つデザイナーがいるので、それぞれが活躍できる組織を目指しています。
カオスを乗り越えることが成長に繋がる
平野
守破離という言葉が示すように、最初は型があった方が良いと思います。そして、ゆくゆくは、その型を破ってもらいたい。
自分自身、CDOになってから抽象度が高い案件を担当することが増えました。そういう状況下こそ、自分にとって成功確率が高い進め方(デザインアプローチ)を選択します。
実は、抽象度が高いカオスな案件ほど、世界が前へ進むパワーが強い。1人ひとりがそのようなカオス案件を担当できるデザイナーになって欲しいです。
セルジオ
以前、社内のデザイナーと話している時、「カオスとどう向き合うか」という個人的に抱えていた課題を共有しました。そうしたら、いろいろなデザイナーが「カオスって楽しいですね」と言ってくれました。
もしかすると、カオスはデザイナーの好物かもしれません。たくさんのサービスやプロジェクトがあるからカオスが生まれる。それを許容するために、個人個人が連携することが大事だと考えています。
平野
抽象度が高いカオス案件を乗り越えた一例として、組織デザインに挑戦している女性デザイナーを紹介します。
彼女は、グラフィックデザイン出身で、これまでブランド体験のデザインを担当していましたが、現在、組織デザインに挑戦しています。挑戦を始めた当初は、暗中模索しながら業務を進めており、かなり難しい課題に頭を悩ませていました。
デザイン組織には、3ヶ月ごとに開催しているポートフォリオ発表会という場があります。そこで彼女は、組織の「採用」と「制度」と「ブランディング」が重なる箇所が組織デザインなのではと説明していました。
その時、彼女の凄い成長を実感したことを覚えています。自分自身でカオスを乗り越え、そこで何かを学んだ時、人は成長するのではないかと感じました。
セルジオ
私自身は、人の成長は「自由を獲得すること」だと考えています。自由を獲得するために、できることを増やす。今のお話もご自身の過去の経験を活かしながら、できることが増えていった事例だと思いました。
また、『組織デザイン』というワードには、『デザイン』が含まれてます。プロダクトのデザインをする時にユーザーを理解するように、組織のデザインをする時にはメンバーを理解してデザインする。その点でデザインの知見を活用できると考えています。
デザイン組織の多様な機会を存分に味わう
セルジオ
今後、注力していきたいことはありますか?
平野
私個人の視点では、デザインの領域を拡張していきたいです。例えば、組織開発、組織デザインなどは、HRの文脈ではさまざまな知見がありますが、デザイナーとして関与した場合、どうなるのか興味がある領域です。
メンバー視点では、抽象度の高いカオス案件を乗りこなせるデザイナーを育てたいです。
デザイン組織視点では、コストセンターからプロフィットセンターへ。黒字化させる必要はないと思いますが、予算を使い続けるだけでなく、先ほどお話したように一部のデザインアセットを資産化することに挑戦したいです。
セルジオ
私は人は機会によって成長すると考えています。マネーフォワードには、toC向けサービス、toB向けサービス、クライアントワークを行う部署があります。みんなの成長速度に応じて、適切な機会を手に入れていけるような環境整備を進めていきたいです。
マネーフォワードに所属するデザイナーが「どんな環境にいるよりも成長できる」と言ってもらえる組織を目指しています。
平野
ユーザベースも、toB向けはSPEEDA、toC向けはNewsPicks、クライアントワークはAlphaDriveといった事業があります。現状は、様々な制度上の問題があり、簡単には組織異動ができないのですが、いつか行き来できるようにしたいと考えています。既にマネーフォワードのデザイン組織が実践していることに驚きました!
セルジオ
一部はできていますが、まだまだ不十分です。弊社のプロダクトデザインの難しいところは、デザインするための基礎的な知識に加え、会計や人事労務などの専門知識が必要なことです。一朝一夕では専門知識が身につかないため、オンボーディングに時間が掛かります。
とはいえ、全社的に『チャレンジシステム』という制度があり、全社員が上長の許可なく、半期ごとに社内の募集ポジションに応募できる仕組みがあります。そういう機会も活用しながら、みんなが成長できる環境づくりを進めています。簡単ではありませんが、社内に機会があることは間違いありません。
世界を前へ進めている手応え
平野
セルジオさんがデザイン組織として、世界を前へ進められたと実感したタイミングを教えてください。
セルジオ
デザインがダイレクトに貢献したというのは難しいのですが。コロナ禍になってから『マネーフォワード クラウド』のようなバックオフィスSaaSプロダクトを活用することで、リモートワーク実現の一助になっています。弊社もリモートワークで決算を行いました。
平野
それは凄い!たしかに世界を前へ進めていますね!
セルジオ
基本的にマネーフォワードで扱うサービスは課題解決型です。実は、私がCDOになった理由は、コロナ禍でマネーフォワードに求められる役割が大きくなったことが挙げられます。
CDO就任前の話ですが、コロナ禍になった直後、社内の有志メンバーが集まって、給付金などの支援情報のまとめサイトを作りました。その時、デザインだけでなく、デザインとテクノロジーを組み合わせて、社会を本当に一歩前へ進めることができると実感しました。
最後に一言
セルジオ
最後に平野さんから一言いただけますか?
平野
『DESIGN FORWARD』という組織ビジョンは、デザイン組織のメンバー全員でワークショップを行い、そこで出たアイデアを紡ぎ、生まれた言葉です。
その言葉が誕生した後で、フロッグデザインの創業者ハルトムット・エスリンガーの著書『Design Forward: Creative Strategies for Sustainable Change』のタイトルになっていることを知ったのですが、本の内容が私たちの目指すビジョンと重なるところも多かったため、リスペクトを持ってやはりこの言葉を掲げよう、となりました。
一方で、私個人としては、BtoB事業を持ち、『Forward』というワードをミッションに掲げるマネーフォワード社のことが頭に浮かばなかったわけではありません。当時はセルジオさんとの関係性もなかったので、この件について直接お話することもできず、ずっと喉に刺さった小骨のように心に引っかかる感覚はありました。本日対談の機会をいただき、やっと小骨が取れました。
一緒に前へ進んで行こうという気持ちを話せて、1人じゃないと勇気をもらえました。これから、一層力強く、前へ進んでいけます!素敵な機会をありがとうございました。
セルジオ
逆に気を使わせて申し訳なかったです。大きな意味で、我々が目指す方向は一緒だと考えています。
僕らだけではなく、デザイナーみんなが、デザインで世界を前へ進める。そう思って、日々を過ごすと、この世界は良くなると思います。これから、この輪を広げていきましょう!
あわせてご覧ください
今回の対談に合わせ、弊社VPoC(Vice President of Culture)の金井恵子と株式会社ユーザベース B2B SaaS事業 BXデザイナーの三宅佑樹さんが、企業文化の浸透とデザインの可能性について対談しております。ぜひご覧ください。