【MeWSS論文コラム】例文集と剽窃チェックソフト

英語論文例文集をお持ちでしょうか。私が研究者であった頃の指導教官は、例文を集めた自作ノートを何冊か持っていました。
出版されている「医学論文の書き方」的な著作でも、”使える例文集”のようなものが見られます。
初めての論文でどう書いたらいいか分からない場合など、例文が手元にあると便利ですよね。特にMethodにはよく使う文言があるので、書き始め、アウトラインの段階などは、例文を切り貼りして組み立てていくのもいいと思います。
ただ、コピーペーストした文章はハイライトしておいて、後で必ず表現を変える(もしくは、native writerに校正依頼するときに、部分を指定して修正してもらう)、という作業を忘れないようにしてください。
近年、医学研究に限らず、おそらく全ての英語科学系論文出版社は、剽窃チェックソフトウェアを導入しています。私の前職の母体は、世界3大科学ジャーナル出版社の一つで、会社単位でiThenticateというソフトウェアを契約していたので、論文執筆の立場としても、とても便利に使っていました。
この剽窃チェックソフトというのは、対象となる論文ドラフトを、ウェブで公開されている論文とAI比較し、全体の一致率や、完全一致したセンテンスを表示します。
何%一致したらダメなのか、何をもって剽窃というのか、というご質問をよく受けます。多くの場合目安はあるようですが、数値的な境界をどこに定めているかは、雑誌によって異なります。
全体の一致率については、厳しくする意味は本来ないはずで、著者名が入るタイトルページ、アブストラクト、参考文献などは除き、本文の一致率が40%〜45%を超過したら問題とすべき、くらいなのだろうと思います。私は、30%台を越えないことを一つの目安としています。これは過去、ある一つの雑誌から、そのように指導された経験に基づいています。この雑誌は、日本の学会の英語ジャーナルで、日本からの投稿が多いので、厳しめの目安として考えていました。
しかし、30%台という数値目標は、場合によってはかなり厳しいです。例えば、似たようなデザインの試験を以前論文にしている、あるいは今書いているものが主試験のpost hocである場合など。
また、ソフトウェアの設定にも色々あって、とある雑誌では単語単位で一致率を見るので”the”まで一致と判断されて、担当したnativeのwriterが憤慨していました。
以前の論文と同じ手法はMethodで繰り返さないなど、いくつかの基本を守ることで、改善されるところもあります。しかしどうしてもJournalが求める数値に収まらない時には、その理由をきちんと説明してEditorに理解を求めます。最終的な採否はEditorの一存で決まりますので、理解してもらえれば通ることがほとんどです。
一方、一つのセンテンス丸ごと発表済みの論文と一致しているのは、剽窃とされます。我々Medical writerは、どこかから文章ををコピーしてくることは絶対しませんが、著者が修正してきたものの中に、その先生が”お好きな”言い回しがあり、それが別の論文にそのまま載っているものだった、ということがあります。その場合はせいぜい一つの論文に一か所程度なので、Editorから「一致している文は直してね」とコメントされます。ごめんなさい、とレスポンスレターに書いて、ちょっとだけ文言を変えればいいだけです。
文例集を作っていて、いくつかそのまま使っている場合は、もう少し問題が大きくなるかもしれません。一つの論文に複数、完全一致するセンテンスが見られた場合、ベテランのEditorなら落ち着いて指摘してくれるだけで済むかもしれませんが、とある雑誌のEditorに「これはひどい剽窃だ!」と言われ、修正の機会も与えられずdesk rejectされたという事例を知っています。letterの書き方を見て、このEditorは同業専門家ではなく、(若手の)出版社員なのだろうという印象を受けました。Journalや出版社によっては、担当Editorが出版社の社員のこともあり、論文倫理に関連した不備に対して、強く反応することがあります。