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お客さんが値段を決めるお店のはなし#10

丁度1年。
2023年の成人の日にカオパスはオープンいたしました。
奇しくも1年後のこの日たこ焼き屋さんを休止する最後の営業日となりました。

常連さんもつき、毎回の営業が楽しみになったこのタイミングで休止の理由は本業が新たなステージに進むことになったためです。
最終日ともあり、めちゃくちゃ張り切って二日前から仕込みに没頭。
生地も通常は4リットル用意するところを8リットルといつもの倍用意しました。
これなら十分長時間営業できる(この試算が甘すぎたことに気づくのは午後3時)。


チャリティバッグがあると目立つね(もっと早く販売すればよかった)

前日に重い物の搬入を済ませ、足取り軽く(とはいえチャリンコ積載量一杯で)9時頃お店に向かう。
10回もオープン作業をしていると本当に段取り良くことが進んでいく。
とはいえ11時オープンギリギリになる10時半頃生地を焼き始めると異変が。
なんと「生地が固まらない問題」が発生。
生地の分量配分などデータ化することで問題が起きるわけがないシステムを作ったのにこの有様。
原因は前日卵を買いに行った時に店舗に卵の在庫がなく、諦めて帰宅。
その後、生地生産の際に通常26個必要な卵を20個しか入れなかったことが原因とわかる。
そう、僕はA型に憧れているB型だったのだという事実を突きつけられる。

こうなると誰かの助けを借りるしか打開策はない。
すかさず奥さんに電話して中力粉や計量カップなどなどを持ってきてもらう。
皆様お分かりだと思いますが、すでにこの時点でテンパってる僕は思考回路がロックされていて誰かの脳を借りるしか突破口は見つからない状態。
奥さんとの対話を繰り返しギリギリのラインを攻める調合を導き出してなんとか改善に成功。
最終日、出鼻を挫かれテンパりながらも突破するハラハラ感を奥さんと共同作業できていることが楽しくて仕方がない自分がそこにいた。

オープンと同時にテンパるしかない状況

11時オープンと同時にお客さんが入ってこられる。
京都からわざわざカオパスのために来てくださった方(クレイジーですね)や、常連さんに初めてご来店の方々。
座る席はすぐに埋まり最高のスタート。
お持ち帰りのお客さんもちょいちょい訪れていただいて焼き台はエンドレスバーニング状態。


チャリティバッグも好評でした

この日はドリンクも用意してたし、何よりも僕のブランドiLbreoのトートバッグを能登半島震災の義援金チャリティバッグ販売も併設していたのでオペレーションタスクがいつもより多い状態。
それに加えて焼き続けなければいけないという、将棋で言えば飛車角どころか金銀すらない状態で盤上を攻め続けなければいけないセルフドMプレイ。
「ワンオペ問題」が数年前話題になりましたが心身ともに実感する時間が延々と続く。
これだけは言える「ワンオペダメ!!絶対!!」
洗い物も溜まるわ、トイレなんか西遊記の天竺かよってくらい遠い世界(目の前にあるのにね)に感じる時間。
でも、お客さんとの対話が本当に楽しかった。
差し入れもたくさん頂きましたが食べる余裕ゼロ。
エンドレスでドリカムの「あの夏の花火」を掛けていたらTAROさんにドリカムのコンサートパンフもらうという奇跡。

ドリカムのパンフをいただくって笑

脳内のCPUフル回転で思考2割、感覚8割で焼き続けて4時間。
この日16時頃にカオパスで出会ったお客さんが(もはや友達)
「美味しい鰹節持っていきますね!」と言っていたことを思い出す。
「生地をセーブしないと持たないな」と一回店舗を閉めて調整することを考え、残り2リットルあるはずの冷蔵庫を開けると「え?ない?」
あるはずの生地在庫がないのよね。
そう、フル回転の僕の脳はとっくに生地を全て使ったことすら意識が飛んでいたのだった(OSがWindows95だし)

無い袖は振れねぇ(江戸っ子)ということで諦め最後に焼いたたこ焼きも綺麗さっぱり完売となる(まだ15時)
後片付けを粛々と進めながらもチャリティバッグの販売に切り替える。
別日に出店されてるTAROさんが窓際でバックを試着してると飛ぶように買ってくれるという謎方程式が作動し売れるは売れるは驚きでしかない。
「え、もしかして鞄屋さんやった方が儲かったんじゃね?」と邪な考えも浮かびつつもチャリティということを忘れようとする自分を押さえつけるのに必死でした(冗談です)


18時頃、全ての販売が終了したのに集まってくださった「たこ焼き難民」の方々と近所で打ち上げ。
「卓球部研究会(仮称)」というカオパスで出会った仲間の飲み会へと変貌を遂げる(忘年会もやった)

さて、営業日誌はこの辺にしてデータから見たカオパスのご報告。


1月支出明細

本当は卵を3ケース買わないといけなかったのに2ケース。
これは本当に悔やまれる失態でしたが後の祭り。
おかげで夫婦のチームプレイができたことが収穫でした。
先月はガス切れ問題で閉店を余儀なくされたので満タン準備でコスト上がってます。
あと干し椎茸高いなぁ。

24年1月の実績
23年1月の実績

こうやってみると全体のお客さんの人数は大差がない。
でも客単価が倍くらいになってるのと売上個数も100個ほど多い。
そりゃ焼き続けにゃならんわけだわ。
たこ焼き一個単価も上がっていて、売り上げも過去最大。
一個当たり103円ということは「銀だこ」さんより高い値段で売れたということ。
行動経済学的には「値段を決めないと市場価値に囚われない最適化された価格がなされる」という感じかな。
このたこ焼き屋さんを始めた動機の一つが「資本主義への問いかけ」だったのですが、市場競争に参加せず、コミュニケーションコストをかけることで価値の最適化が起こるかも?という結果につながった気がします。
競争戦略に乗って値下げ、ブランディングで価値を作って値上げなど値段決定にどんな影響があるのか興味深いところ。

収支結果

過去最高売上を出しつつ利益も出ました。
在庫を入れると赤字だけど有終の美を飾れたと思うのと同時にお客さんのおかげでこの結果が出たことを感謝したいです。

チャリティバッグの結果

チャリティバッグは1つ1000円で販売。
あとはお気持ちでここにプラスしてくださいというアナウンスでいただきました。
皆様1000円以上の金額で購入いただいて義援金が集まりました。

アドバイスいただきYahooがいいということで翌日寄付いたしました

責任を持って基金として振り込みをさせていただきました。
今もなお被災されている方々が1日も早く日常を取り戻せますように心よりお祈り申し上げます。

1年前のオープンを迎える前に、いまだに鮮明に覚えているのは
このアキナイガーデンさんに申し込みのメールを送信する時のこと。
「やる意味あるのか」
「絶対赤字じゃん」
「そんな余裕あるのか」
「もっと考えた方がいいんじゃないか」
と自問自答を繰り返しながらも、自分の中にどうしてもあった
「やったら絶対おもろいじゃん」
という根拠も理屈もない、ただの衝動。
その衝動に従ってメール送信のクリックをした瞬間のことです。
コンセプトは「つながりを育むたこ焼き屋」というのも
考えに考えたわけじゃなくて、なんとなく浮かんできた言葉。

1年間決して楽なことばかりではなくて、2ヶ月ほど休んだこともあったし
赤字つづきの状態で「やる意味ある?」の問いを7万回(誇張しています)くらい自分の中でしていました。
「やっぱり値段決めた方がいいかも」とか
「もっと準備が簡単なものにすりゃよかった」とか
そんなしんどいこともありながら続けてこられたのは
月に1度しかやらないのに毎回来てくれるお年寄りの方々や
ちょいちょい顔を出してくれる方々
そして、なぜかサプライズで登場する友人達のおかげです。
「しんどいな」と思っていたことが、いつの間にかワクワクしている自分に変わり、「飲み物を出した方がいい」とか「のぼりを出した方がいい」とかたくさんのアドバイスをいただいて、自分のお店のように関わってくれる人達のおかげで僕の中の変なこだわりが溶解し色々なことを試すことができました。
それは次にお客さんが来られた時に「アドバイスの通りやってみましたよ」と話がしたかったから。
そんな中でも変えることがなかった「値段をお客さんが決める」というモデル。
これはこだわりでもありましたが「企業ができないことをやるから、オモシロい」というよく分からない衝動でした。
みんなそんなモデルに戸惑いながらも、慣れてきたらお客さんを連れてきてくれたり面白がってくれてありがとうございます。

このよく分からない「衝動」を現実化する場所を提供して下さったアキナイガーデンの梅村夫妻に心より感謝いたします。
そして、最終日の翌日体はヘトヘトでバキバキになっている中で感じた
「なんて幸せな時間だったんだろう」という言葉にできない多幸感。
これはカオパスに携わってくださった全ての方のおかげです。
本当にありがとうございました。

仕事とはコミュニケーションであり、商売とはお店とお客さんとたくさんの人で創るもの。
今一度、商人の原点を体感させて頂かせてもらい本当にありがとうございました。
値段が決まっていないカオスとみんなで作るバランス、そしてオクトパスを通じて繋がる関係の輪。
誰もが顔パスで寄りたくなる場所。
お金があってもなくても繋がれる場所。
そして、なぜか経済的合理性が結果的に維持される場所。
またカオパスでお会いしましょう。


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