不毛会議 #5
不毛会議
「俺から会社取ったら廃人になっちゃうから」
会議室は変幻自在だ。
この発言を聞いたとき、ここが病室ではない事を確認しかけた。
白い壁、窓にはブラインド、大きな木の会議テーブル。目の前には漆(うるし)よりも黒く底の見えない黒い瞳をこちらに向けてどっしりと座るアズナブル。
病院も会議室も変わらないかもしれない。
"会社の未来の話"の際に出た発言だが、問診中と言っても大差ないだろう。
「どこか具合わるいところは?」
「ドタマです」(真顔)
てな具合か。病院と何が違うのかと言えば僕には医師免許がないことと、それに治す気がないこと。いや、なんならとどめを刺したいかも。
「このままいったら倒産しちまうぞ」と捨て台詞のように語りながら、一人でその問答に応えるスタイルはまさに落語。
「このままいくと倒産だ」
「倒産とは会社がつぶれること」
「会社がつぶれると仕事がなくなる」
「そしたら俺は廃人になる」
という感じだろうか。"風が吹けば桶屋が儲かる"的な連鎖反応がアズナブル脳内で繰り返されているかと思うと心底同情してしまう。うそ。
しかし、落語と違うのはこの会議には気の利いたオチは無いという事だけだ。
つづく
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