不毛会議 #8
不毛会議
「今回の展示会の原価計算だけどさぁ、ほとんど間違っているわ、計算しなおして値段上げるしかないな」
展示会という定期的に行う新商品の受注会がある。
これが我々の商売の軸になっていた。
日本中からバイヤー達が展示会に集い、その数日間で半年くらいの発注を置いていくのだ。
この仕組みは受注生産という利益確保がまず担保される。バイヤー達も店舗の毎月の予算をやり繰りしながらもオーダーを置いて行ってくれる。言わば商売でもあり、信頼関係の場でもあるのだ。
その最終日に原価が違うというのだから穏やかではない。
理由はスタッフは現行のドルレートで換算して原価を出していた。
しかし、社内のレートは先買いしていたドルレートで、本来は先に大量にドルを押さえているので通常レートより安く作れるはずだが、時は驚異の円安時代。スワップのレートだと為替市場よりも高い原価になってしまうというカラクリが原因だ。
ちなみにスワップでいくらのドル換算かは事前に誰にも伝えられていなかった。というかスワップでドルを為替より安く買っていた事すら初耳だ。
こんな突然、理不尽極まりない環境の変化が定期的にいや日常茶飯事に起きるからたまらない。
いわば、クイズ番組で2点、3点を競い合った最終問題が100万点と言われてズッコケる、あのコントのくだりだ。
このケースだと、展示会に来場して発注してくれた全ての人に価格の訂正と発注の修正をしてもらわなくてはいけない中々大きな問題となる。信頼関係に関わる問題だ。
ある者はその意味不明さに「もう付いて行けねーよ」とリタイアする。
またある者は無言でその理不尽さに“考える”という人類が動物界で唯一勝ち取った権利を放棄してしまう。
そしてまたある者はその理不尽さに感情的いらつきを噛みしめながらも急激に変化した環境変化に対し、生き延びる方法を考え適応していく。
そうだ、まるで恐竜が滅びたあの時代のようなものだ。
そして経験上言えることは真面目で正直な人ほどリタイヤ(多くがドクターストップ)するのだ。
つづく
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