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「音楽の話」

最近になって音楽の聴き方というか、聴こえ方が変わってきたと実感している。

子供のころから音楽は好きだったのだが、それはあくまでも歌が好きだったのだと思う。
歌そのものや歌詞の内容が好きだったのであり、伴奏のピアノやドラムの音にはほとんど意識がいっていなかった。

Bob Marleyに出会って、本格的に音楽を聴き始めた頃もやはり私の耳はボーカルを追っていたし、頭でも歌詞の内容を映像化しながら音楽というものを楽しんでいた。
20代でジャズを聴き始めて、いわゆるインストゥルメンタルの音楽も聴くようになった。
だから、最近になってジャンルの違う音楽を聴き始めたわけではない。

でも今はあきらかに音楽の聴こえ方が違う。
音楽理論を少し理解したというのも理由の一部かもしれないが、やはり自分で楽器を演奏するようになったのが原因だと思う。

まず、自分が演奏する楽器、私の場合はギターなのだが音楽を聴いていてもその音ばかりが耳に入ってくるようになった。
やがてそれは弦楽器全般に広がっていくようになり、バイオリンやチェロだけではなくて、ピアノの音も以前より細かく頭の中で響くようになった。

弦の振動している音がボディである木材を震わせている音、いわゆる箱鳴りを感じると肌がゾワゾワするくらい気持ちがいい。
また、ギターを演奏するなかでリズムを意識するようになったせいか、ドラムなどの打楽器の音もよく聴こえるようになった。
何が言いたいのかというと、昔よりも今のほうが音楽を楽しめるようになったということだ。

もちろん好きな歌を自分で歌えるようになるまで聴き込んで、歌詞も丸暗記してしまうような楽しみ方もよかったし、若い頃はそれが楽しかった。
でもあの頃はインストゥルメンタルの曲をじっと集中して聴いていても正直なところはすぐに退屈していたりもした。

今は逆にボーカルが入っている大衆的な音楽を聴いているほうが退屈してしまうことが多い。
それからこれは私の好みだが、音楽を聴くときは楽器の鳴る音が聴きたい。
空気の中で揺らぐ音、演者の力加減で大きくなったり小さくなったりする音が聴きたい。
また、ボーカルは歌い手の身体の中で響いているのがわかるようなボーカルを聴きたい。

先日。

早朝練習でクラッシックギターの練習曲を弾いていた。
それは16小節だけの短い曲で、技術的にもまったく難しい曲ではなかった。
まだ6時前だったので家の中は涼しくてとても静かだった。
私はふと、あまり技術的なことは考えず、情感を込めて弾いてみようと思いついた。

譜面に記載されている音の強弱だけに気を付けて、あとは何も考えずに自分の出す音だけを聴きながらその曲を弾いた。

ギターのボディを震わせて、揺らいだ音が部屋に響いた。
ギターを始めてもうすぐ6年になるのだが、そのとき、私は初めて音楽を自分で奏でることができたと思った。

いずれたどり着くことができるであろう場所からの景色を少しだけ垣間見ることができたわけだが、それはそれは実に素晴らしい景色であった。
まだまだ遠いことはわかっているのだが、まぐれにせよ体験できたということは自分が思っている以上に貴重なことだったと思うのである。


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