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アソビバ|めとてスタディシリーズ:佐沢静枝さんとCL表現を実践してみよう!


「めとてラボ」は2022年4月より東京アートポイント計画のアートプロジェクトのひとつとしてスタートしました。視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親を持つ聴者)が主体となり、一人ひとりの感覚や言語を起点とした創発の場(ホーム)をつくることを目指したラボラトリーです。コンセプトは、「わたしを起点に、新たな関わりの回路と表現を生み出す」こと。素朴な疑問を持ち寄り、目と手で語らいながら、わたしの表現を探り、異なる身体感覚、思考を持つ人と人、人と表現が出会う機会やそうした場の在り方を模索しています。

この記事では、今年7月7日、7月15日に開催した「めとてスタディシリーズ:佐沢静枝さんとCL表現を実践してみよう!」の様子を、めとてラボメンバーの南雲麻衣がお届けします。

南雲麻衣は、現在、東京在住。大学まで手話を知らずに音声言語のみで育ち、大学で日本手話に出会う。ダンサーとして数々の舞台に出演。その経験を活かして、主に美術館などで視覚身体言語ワークショップを実施する。「めとてラボ」でも、美術館などをはじめアートやアートプロジェクトに関する団体との連携プログラムなどを模索している。ダンスする身体をメディアにしながら他者との間で生まれる言語以前の表現に興味がある。

めとてスタディシリーズの第1弾は「CL表現」

講師の佐沢静枝さん

手話や視覚的な行動から自然にうまれた遊びや創造的な「ひらめき」を集め、研究やワークショップなどを通して、視覚言語の遊び方を探求するプロジェクト「アソビバ」。視覚言語の遊びを探るために、手話の魅力に触れる「めとてスタディシリーズ」の第1弾として開催した今回は「CL表現」に焦点を当てました。

※CLとは?
CLはClassifier(類別詞)とも言われる手話独特の表現。代名詞の役割を果たしながら、ものそのもののイメージを伝えます。

<参考文献>
木村・市田(2014: 26)は、CLを「ものの動きや位置、形や大きさなどを、手の動きや位置に置き換え」るものと定義しています。
(松岡和美著『日本手話で学ぶ 手話言語学の基礎(2015)p.95 より)

手話には、CLと呼ばれる視覚的な文法が存在することは広く知られています。ではなぜ、今回CL表現をテーマにしたかというと、昨年に実施した「佐沢静枝さんのCL勉強会」である事情を知ったからです。ある事情とは?それは、ろうコミュニティや手話を第一言語とする人々の中でも「CLとは何か?」を共有する機会がこれまで少なかったということです。
こうした現状を知り、ろうコミュニティでは当たり前のように見られるCL表現について、改めて、ろう者・難聴者と共に考え、共有していく場を持ちたいと思い、本スタディをスタートしました。

今回、ろう児のために手話での絵本読み語りを長年行ってきた佐沢静枝さんを講師に迎え、参加者は佐沢さんと共にCL表現を深め、豊かで創造的なCL表現の魅力を堪能した2日間を過ごしました。さて、その2日間ではどのようなことを体験したのでしょうか?ここからは、その体験の一端をご紹介いたします。

CL表現の基礎知識を学ぶ

7月7日、1日目は、CLに関する基礎的な知識と文法的なルールやジェスチャーの違いなどの説明があり、「何が違うと思う?」と佐沢さんから参加者に問いかけがありました。
CL表現には、実はほぼ決まった表現というものがあります。例えば、車、自転車、本、人そして鳥など、さまざまです。お気づきの人もいると思いますが、CLとは、「Classifire」とも言われる手話言語での文法表現で、日本語では「類別詞」と訳されたりします。では、どのようなルールが生み出されていくのか?
手話において新しい日本語やものが登場した場合、最初は統一された手話表現がないことがよくあります。そのため、手話コミュニティの中では、いろいろな形や動きを基にCL表現が生まれます。このCL表現が日常的に使用され、コミュニティ内で共通認識ができるようになると、ある特定のCL表現が定着し、最終的に固定語彙として認識されるようになる傾向があります。
なかなか言葉で説明するのは難しいのですが、日本手話では、こうしたCLという文法があり、そのCLの発生や認知されていくプロセスがとても奥深く、魅力のひとつだと思います。
他には、一人ひとりの表現が異なることにも面白さを感じています。例えば「スイカ」を見て(CLで表現する場合)「丸い形/緑と黒のぎざぎざ模様」を表現する人もいれば、「円を切る/赤のところにある黒い点々」と西瓜を切った状態を表現するかもしれません。頭の中にある「西瓜」のイメージが一人ひとり違うので、それぞれのイメージに応じて多種多様な表現が生まれるというところがCL表現の魅力だと思います。
そして、CL表現は手話と同様に、各国の表現方法やルールがあるのだということも、今回知ることができました。

丸い形、緑と黒のぎざぎざ模様の「スイカ」
円を切る、赤のところにある黒い点々の「スイカ」

自ら思考を深め、意見を交わし合いながらCL表現をアップデートする

7月15日の2日目は、7月7日からの連続参加者の方に出されていた課題の発表からスタートしました。その課題は「戦争」と「平和」の絵をCL表現で表すというもの。まずは発表者とこの日から初めて参加する人でグループを作り、発表者が考えてきたCL表現を見てもらいました。例えば、たくさん積み重なっている石袋の絵があります。石袋の大きさや重さを表すときに、握り拳を重ねていく表現をする人がいますが、絵に描かれた石袋の大きさや形、質感をみると、握り拳での表現では少し違和感を感じます。その場合、もっと良い表し方があるのでは?と考え、両手で一つの石袋を描き、連続していくつか重なっている表現にしてはどうか?と提案し、試してみる。そのようにして、より良い表現を探していきました。そして最後に、課題発表をしていただきました。自分の表現が他者からどう見えるかを俯瞰して見ることも表現を磨くための重要な一歩です。また、コツとしてどこから順番に表現していくのかというのも、一番大きなポイントになります。絵を見た瞬間、まず表現するべきところはどこでしょうか?それは、全体の背景から始まり、点在する情報と順番に組み立てていくとイメージが広がっていきやすいのです。

上記は発表者が「戦争」の絵をもとにCL表現を発表しています。

花火のCL表現を議論する場面がありました。自分を基点に花火を表現するのか、海側からの観客に向けて表現するのかで意見が二つに分かれたところは、面白いディスカッションとなりました。参加者が自らの思考を深め、意見を交わし合いながら表現を考えていくプロセスを実感したひとときでした。
また今回、特に印象的だったのは、年代やバックグラウンドが多様な参加者が集まったことです。異なる視点を持つ参加者同士がCL表現を見せ合い、より多くの人に伝わるよう表現を高め合いながらCL表現をさらにアップデートする場を実現できて良かったです。今回の2日間の中で、参加者に思考を促しながら表現を一緒に高め合う場をつくっていただいた講師の佐沢さんに、心より感謝いたします!
めとてラボスタディシリーズは、今後も続いていく予定です。今回は、ご都合が合わず参加できなかった方もぜひ次回を楽しみにしてください!

【「めとてラボ」noteについて】
このnoteでは、「めとてラボ」の活動について、実際に訪れたリサーチ先での経験やそこでの気づきなどを絵や動画、写真なども織り交ぜながらレポートしていきます。執筆は、「めとてラボ」のメンバーが行います。このnoteは、手話と日本語、異なる言語話者のメンバー同士が、ともに考え、「伝え方」の方法も実験しながら綴っていくレポートです。各回、レポートの書き方や表現もさまざまになるはず。次回もお楽しみに!