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アソビの世界を覗く撮影へ


めとてラボ」は、視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親を持つ聴者)が主体となり、一人ひとりの感覚や言語を起点とした創発の場(ホーム)をつくることを目指したラボラトリーです。
コンセプトは、「わたしを起点に、新たな関わりの回路と表現を生み出す」こと。素朴な疑問を持ち寄り、目と手で語らいながら、わたしの表現を探り、異なる身体感覚、思考を持つ人と人、人と表現が出会う機会やそうした場の在り方を模索しています。

今回は、今年から新たに始動した「めとてアソビバ研究チーム」の取り組みについて、めとてラボメンバー 勝野崇介 と 加藤友香 がお届けします。
「めとてアソビバ研究チーム」は、こどもたちの自由な発想から創り出されるアソビを持ち寄り、目と手で語らいながら、わたしの表現を探り、異なる身体感覚、思考を持つ人と人、人と表現が出会う機会やそうした場の在り方を模索しています。


めとてアソビバ研究チームとは?


こどもから生まれる「アソビ」はどのように生まれていくのでしょうか。同じ場所、同じおもちゃでも、こどもによって遊び方は異なります。では、なぜその違いが生まれるのか?家庭や生活文化によってこどもたちのアソビがどのように展開されていくのか?そこにはどんな違いや変化があるのか?こうした問いを探ってみたいと思い「めとてアソビバ研究チーム」が発足しました。
活動のスタートとして、まずは各家庭で繰り広げられるこどものアソビの様子を撮影し、その家庭ならではのアソビや手話らしきもの等を記録映像として蓄積していくことにしました。
わたしたちは、家庭と生活文化の異なるこどもたちが出会った時、そこから新たに生まれてくるアソビがあると考えています。その新たなアソビが生まれるきっかけや背景を記録映像や実際のアソビを通して見つけながら、こどもが作り出すコミュニティ(アソビバ)を育むことを目指しています。

こどもたちのアソビの世界を覗いてみようと思ったきっかけ


めとてアソビバ研究チームの勝野は0歳児と3歳児の2児の父であり、加藤は3歳児の双子の母で、それぞれ学校の先生というまた別の顔があります。
両者ともに子育て真っ最中で、こども達が作り出してくれるアソビの世界に触れる日々を過ごしています。そのアソビ方も実に多様で、アソビを見ていると、こどもが何が一番面白いと思っているのかがなんとなく見えてきます。

勝野の娘はプリンセスごっこが最近は好きで、白雪姫の主要シーン(魔女が白雪姫に毒リンゴを渡す場面等)をやったり、物語そのものの世界観は壊さずに、自分なりのストーリーを作り出していくアソビをしています。
普段の生活を振り返ってみると、娘が「これなあに?」と聞いてきた際、勝野はオリジナルのストーリーを交えて話をしながら説明をしていることと通ずる部分があるなと気づきました。
例えば、ある日、保育園の帰り道で「あの黒い雲(雨雲のこと)はなんで黒いの?」といった質問に対して、勝野は「あの黒い雲の中にたくさんの鬼が住んでて、パーティーしているんだよね。鬼さんは暗い方が好きだから黒いんだと思うよ。雨はもしかしたら鬼さんのおしっこかもね」といった作り話をよくしています。
そういった様子をみると、普段の親の姿がこどものアソビに影響を与えるような気もしました。

そんな毎日の中で、ふと学校で目にするこども達の姿やアソビの内容が家の中でのこどものアソビと何かが違うな、違うのはどうしてなんだろう?と意識し始めたことが「アソビ」そのものに興味を持つようになったきっかけでした。
そもそも、家の中や公園では、こどもたちが置かれた環境の中で遊びを見つけながら、その遊びに夢中になっているのをよく見かけます。
それに対して、幼稚園や保育園といった就学前施設は、こどもの発達課題に応じたアソビの環境を設定していることと、ねらいをもったアソビを実施していることが大きな違いとして挙げられます。
「こども主導」と「大人主導」のどちらであるかによって、生まれるアソビやその広がり方も違うのではないでしょうか。
わたしたちは、こども主導によるアソビから見えてくる世界にこそ、誰もが過ごしやすいコミュニティのあり方が隠されているのではと思い、それをしっかり言語化して皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

こどものアソビの世界をこっそり覗いてみる


7月23日(日)と8月5日(月)にアソビの撮影を行いました。ここからは、その撮影の様子をご紹介します。

7月23日の撮影風景
8月5日の撮影風景

今回の撮影は、ろうのこどもを育てていらっしゃる2つの家庭に協力いただき、アソビの撮影をしてきました。撮影を通して、こどもたちが示してくれたことは、「こどもたちはどこでもなんでもアソビに変える力がある」ということです。やはり、こどもたちから生まれてくるアソビは遊ぶ環境(=アソビバ)の影響を強く受けたり、大好きなパパやママと一緒に関わり合いながら出てきたりするものがあると改めて実感しました。

垣間見れたアソビの世界

  • Tさん家のMちゃん

パパとやりとりしながらゼリーを食べるMちゃん

最初は緊張していたものの、ご両親とのやりとりそのものを楽しみながら、絵本の世界に夢中になっていました。

この写真は、ママの動きに合わせてぬいぐるみを動かしている様子です。ママが手を広げるとMちゃんはぬいぐるみの手を広げ、「足もできるよ」というママの言葉に対し、ぬいぐるみの足を動かしていました。

次に、丸状のネット(本来はボールをのせて遊ぶもの)にMちゃんが顔を押し付けると、ママが笑顔で反応しました。その反応から、Mちゃんは繰り返しこのアソビをママと一緒に繰り広げました。最後にママと一緒に遊ぶMちゃんの笑顔は見ている私たちも笑顔にしてくれました。

  • Kさん家のNちゃん、Mちゃん

複合遊具で一緒に遊ぶNちゃん、Mちゃん

姉妹でさまざまなおもちゃやアソビに興味を持ち、各々で遊んだり、2人で遊んだり、喧嘩したり…。ご両親とやりとりしながらアソビもどんどん変化し、それぞれのアソビに没頭しながらも2人で交わるタイミングもあり、という姉妹のアソビの様子を見せてくれました。

積み木を重ねて遊んでいるMちゃん(奥)とママ(左)の様子を見て、Nちゃん(右)が奥の部屋からトング(おままごと用)で積み木をつまんで持ってきて重ねていきました。

ペットボトルで遊ぶNちゃんを見ているママとMちゃん

ペットボトルをひっくり返したり、転がしてみたり、中身のあわあわを眺めて遊んだり、おもちゃ以外のものでもアソビを展開していました。

撮影を終えて・・・


今回の撮影では、大人から見ると本来の遊び方ではない方法でおもちゃを使ったり、おもちゃではないもの(ペットボトル等)も使ってアソビを作ったりと、こどもたちは「大人の常識」にとらわれず自由な発想で遊び方が無限にあると感じさせてくれる姿を見せてくれました。
そして、もう一つ興味深い出来事がありました。
定型手話(辞典に載っているもの)は指を細かく使い分けたり、位置や動きが決まっています。しかし、低年齢のこどもの場合は、特にそれを模倣することが難しい場合があります。その際、家庭の中でアソビを通してやり取りを重ねることで、その家庭でのみ伝わる「手話のようなもの」が生まれています。
今回の撮影の中でも、こどもたちがそれぞれ、好きな人・物について、本人なりの表現で親に伝えている場面がありました。

【手話のようなもの:団子】
ママ(左)の表現を見てNちゃん(右)なりに「団子」を伝える

こどもたちが何かを伝えようと表現するその姿、そしてそれを汲み取り、理解してやり取りする両親の姿を見て、「わかってくれた!」「通じた!」という実感とともに、言葉はこうしたアソビを通して育まれていくものなのだと再確認しました。
また、こどものアソビに関するご両親からのお話もとても興味深いものでした。
(このお話にについてはまたどこかで対談企画でもできるといいな〜…)

今後も、さまざまな場所や関係性のなかで撮影を行い、たくさんの「アソビ」を蓄積していきます。また、宮城教育大学の松﨑丈先生と一緒に、こどものアソビや、こどもの行動の捉え方の勉強会(めとてスタディシリーズ)や、親との対談(ミニトーク)を通してアソビの世界をより深く迫る対談会を計画中です。
また詳しく決まり次第お知らせいたします。

【「めとてラボ」noteについて】
このnoteでは、「めとてラボ」の活動について、実際に訪れたリサーチ先での経験やそこでの気づきなどを絵や動画、写真なども織り交ぜながらレポートしていきます。執筆は、「めとてラボ」のメンバーが行います。このnoteは、手話と日本語、異なる言語話者のメンバー同士が、ともに考え、「伝え方」の方法も実験しながら綴っていくレポートです。各回、レポートの書き方や表現もさまざまになるはず。次回もお楽しみに!