見出し画像

ディーラー経営と電気自動車のハナシ


儲からない、壊れない・ぶつからない車

筆者は10年ほど車両メーカーのサービス部門でサービス入庫の促進やCS活動などの統括していた。

最近の車は、かつてとは違い、品質管理が飛躍的に改善されて機械的には壊れにくくなっている。

それでも傾向的な不具合は出るし、たまにエンジンや車両制御のプログラムのバグなどで洒落にならない数のリコールが出るが、肌感覚としては20年前くらいからディーラーのサービス部門での収益はかなり圧縮されている。

リコールはメーカーがコストを丸抱えするので、ディーラーにとっては大切な資金源だったりするのだ。

また、各社が「サービスパッケージ」と呼ばれる点検と消耗部品を新車購入後3年ないし5年間お得な価格で提供している理由はそこにある。
少なくともその期間、お客様が消耗品交換の際、他のチャネル、例えばカーアクセサリーショップ等に流失することはないからだ。

タッチポイントを増やす意味でもサービスパッケージはよく効く施策で、ここで入庫顧客に対して一定以上の良いエクスペリエンスを提供できれば、継続的に入庫してくれる可能性は高まるし、将来的な車両の代替えも期待できる。

また、ディーラーには、「台あたり単価」というKPIがあるが、入庫一台あたりどれだけの売り上げをしたかと言うもので、これは年々減りつつある。

上述の通り車は壊れないし、ドライバーの不注意でも車は自動で止まるし、ESC(横滑り防止装置)の装着義務化で、カーブでスピンしにくくなったので、事故を起こしにくくなったからだ。
事故が激減したのは社会的には勿論良いことだ。それだけは間違いない。筆者が生まれた頃、交通戦争などと言われて年間1万人を軽くに越していた交通事故者数も、2021年度では2,636人まで減っている。

筆者も事故で死にたくはないし、誰も失いたくはない。

だが、ボディーパーツの販売は結構値段が高いため、ディーラーにとってはお客様の無事を喜びながらも、売り上げの予算まで組まれている必要悪となっているのは事実である。

そこへBEV(Battery Electric Vehicle)の登場だ。

泣きっ面に蜂のバッテリーEV車の興隆

単にEVと書かなかったのは、例えば日産のNOTEなどに搭載されているe-Powerは「電気自動車」に分類されているからだ。
e-Powerというパワートレーンを簡単に説明すると。エンジンを発電機として使っているハイブリット車に近い機構である。エンジンで発電されたとはいえ電気をバッテリーに蓄え、それによってモーターを動かして駆動力を得ているため電気自動車として分類するのは間違いではない。
その是非を問うつもりはここではないが、ディーラー経営におけるサービス部門の収益低下にはBEVとe-Powerでは多少意味合いが違ってくるのである。

閑話休題。横道にそれました

BEVはエンジンを使わない。(当たり前だが(笑))
これがサービス部門にとってどれだけのネガティブファクターになるか。

まず、車のメインテナンスの代表格であるエンジンオイルの交換が要らない。
車種にもよるが5000円から10000円くらいの台あたり単価が減る。そしてその利益率は言いづらいが結構なものだったりする。

まずそれが吹っ飛ぶ。

フットブレーキはほとんど使わなくなる。
「回生ブレーキ」と言って、減速時にモーターを逆回転させる事で抵抗を生み、減速する仕組みを使うからだ。
その際発電をし、バッテリーに還流して電力は再利用される。この機構は電車でも使われていて、回生された電力はパンタグラフを通じて架線に戻され、他の電車がその電力を使うことで負荷となり減速される。

筆者が初めて体験した時のBEVの回生ブレーキの制動力は想像以上で、パニックブレーキ以外はフットブレーキの必要性を感じない。もちろん停止する最後の段階ではフットブレーキを踏む必要がある。

それ故にブレーキパッドやブレーキディスクの摩耗は劇的に遅くなる。
その他、BEVには変速機は基本的にない。車検含む定期点検時の点検項目が少ない。

シンプルな構造、部品点数の少なさから故障やメインテナンス機会が減少し、ディーラー経営者達は大幅な収益減少を危惧しているし、ディーラーを支援する立場のメーカーも頭を抱えると言う、環境のため推進されているBEVではあるが、サービス部門にとっては自縄自縛となり得る顕在化したリスクなのだ。

しかしこの潮流は、化石燃料による発電の割合が多い我が国でも本当に環境改善に貢献できているか否かの検証は進んでいないものの最早止めることはできないだろう。

筆者も内燃機関のクルマをこよなく愛するものの、BEVを否定する立場にはない。

今後新車バイヤーが考えないといけないこと

ディーラーの売上比率では20%に留まるサービス部門だが、実は利益での貢献度は65%に達する。

誤解を恐れず書くと、サービス部門が生み出す利益によって新車の販売のプロモーションがかけられるともいえる。
このことに関して、アメリカではサービス収益による新車販売促進費のカバー率が重視されていて、最近では日本でも注目されている指標となった。

これからメーカーはサービス部門での収益確保のため、面倒臭いと言って外注に出していたありとあらゆる(タイヤや鈑金、車両のコーティングなど)ビジネスを取り戻しにかかろうとしているが、根本的な解決策になり得ていない。

それで新車の利益構造に手を出すのであろう事は容易に予想できる。

サブスクリプションによる車両提供(販売?)の黎明期である現在だが、これは間違いなくその布石である。

故に読者の皆様も新たな車両購入では車購入から手放すまでのトータルのコストをよくご検討をなさる事をお勧めする。現在のBEVの3年後の残存価値はバッテリーの消耗に基づいているのでものすごく低い事もお忘れなく。

参考:
EVの残価率なぜ低い? 電動化担う存在も数年後のリセールバリューに期待出来ないワケ くるまのニュース

もっとも、ハイブリッド車としてプリウスが初めて世に出た20年ほど前も同じような状況だったが、現在ではハイブリッド車のリセールバリューにネガティブな部分はないので似たような経過を辿るのではないだろうか。

例えば、3年間のキャッシュアウト(新車購入費用-メインテナンス費用-車両売却金額)で計算してみると良いかも。

3年乗って100万円以下のキャッシュアウトという車種なら優秀です。
その上で個人としては環境負荷にどう貢献できるかをプラスして考えると自ずと自分に合った結論が出るかもしれません。

筆者の選択は、今のところですが、内燃機関のエネルギー効率をなるべく高めてくれているダウンサイジングエンジンを積むTiguanです。車重1.5tを引っ張るハイブリッド機構なし1.4リッターで13.0km/ℓ(カタログ値ですが、実際にもほぼ同じ燃費が出ています)走るエンジンは結構立派ではないでしょうか。
走りも必要十分。スイスイ走れます。

仮に下取りに出したとしてもキャッシュアウトは正直良くないですが、デザインやパッケージングを気に入って乗ってるんですよね(笑)。筆者は合理的な考えだけで車って選べません。

否応なしに車の買い方は変わるでしょう。または車はWaymoのようなオンデマンドタクシーにそのうち変わっていくかもしれません。

将来的にはシェアカーやオンデマンドタクシーの需要がメインとなり、個人の所有が限定されるようになるかもしれません。

それに対応してカーディーラーは経営資源をより集中し、効率の良い形態に変わるので、街中からカーディーラーが消えるかもしれません。

その時代までまだ時間の猶予がありますが、必ずその時代はやってきます。

我々はそれを時間をかけて受け入れ、それまでに車を選ぶ楽しみを存分に享受することにしてはどうでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?