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礒山雅『J・S・バッハ』【基礎教養部】

書評は以下になります。是非ご覧ください。

私はバッハが好きだ。
この気持ちは、バッハが多くの傑作を遺したという点のみから生まれていない。その大部分はバッハという人間の指向性、生き様への好感・共感から来るものである。当然だが、このバッハへの想いは一朝一夕にして生じたものでは無く、紆余曲折(という程でもないが)を経て抱いたものである。
そこで今回は、私とバッハの出会いから現在に至るまでの経緯を述べ、自身のバッハ観を示す試みを図ろうと思う。また、最後には自分自身のバッハのオススメの作品の紹介を行う。

幼少期〜中学時代

この頃は、能動的にバッハの音楽を聴くという行為は全く行なっていなかった。ただ、様々な場面でバッハの曲は用いられる事がある為、バッハと意識しなくともバッハの曲は頻繁に耳にしていたように思う。この時のバッハに対する印象は「他の音楽家と同じように昔の偉大な作曲家の一人」ぐらいのものであった。
中学に入学してからは、特設の部活動として合唱に勤しむようになった。中学時代は直接バッハの曲を合唱するという経験こそ無かったが、顧問の先生が非常に音楽を深く学んでいる人であった為、合唱にどハマりすることになる(余談ではあるが、この先生は今でも自分の師と思っている)。この合唱部での活動がのちにバッハと出会うきっかけへと繋がっていく。

高校時代

高校生になると、部活動として参加した合唱部とは別に、バッハの教会カンタータを歌う事を目的としたアマチュアの合唱団に参加することになった(この中学時代の恩師に誘って頂いた)。当時、この合唱団では「マタイ受難曲」という作品を練習していたのだが、その音色・解釈に心底心を揺さぶられた。自分よりも技術的優れているのは当然として、音楽の流れの中に明確な意思を感じることができ、新鮮な感動を味わえた。同時に、これまで自分の音楽への取り組みの不十分さを悟ることになった。
そこからは、バッハの宗教声楽曲とその演奏に強く惹かれ名演と言われる演奏を調べる事となった。その中で最も感銘を受けたものは、1958年に録音されたカール・リヒター指揮の「マタイ受難曲」だった。この演奏はもはや歴史的名盤として定着しつつあるが、いまだに色褪せていないように感じる(詳細については後ほど語る事とする)。
以上、高校時代はバッハと私の出会いにおいて最重要な位置を占めている。高校時代にバッハの曲を合唱する経験が出来たことは、私の人生に極めて大きな影響を及ぼし、音楽に接する心持ちの核を作ったと言って良い。

大学生〜現在

大学生となった今もバッハへの興味は全く失われていない。ただ、高校時代にはバッハの声楽曲について聞く事が多かったが、現在はバッハの器楽にも大きな関心がある。バッハは声楽、ピアノ(厳密にはチェンバロ)をはじめとしてチェロ、バイオリン、フルートなど当時存在したあらゆる分野で作品を遺しており、その響きはどれも一級品である。やはり、バッハをより深く知る為には器楽演奏も聴くべきだろうとの思いもあり、器楽演奏に対するモチベーションが湧いてきた。
また、合唱団には引き続き参加しており、現在はバッハの教会カンタータを練習している。教会カンタータはバッハの音楽の中でも最も核となる部分であると考えている為、バッハの音楽を楽しみながらの活動ができている。

私のバッハ観

バッハは非常に多作な人物であったが、作品の細部まで一切手を抜かなかった。これは、バッハが倹約家であった事と決して切り離して考えることはできないように思う。バッハの作品にはバッハの思想や当時の時代背景が大きな影響を及ぼしている。つまり、バッハの音楽を知りたければバッハ自身やバッハの周辺環境を知るべきなのだ。ただ、それだけでは不十分である。バッハ自身のことを知った後に、バッハの音楽を聞き直すまでが大切なのである。

バッハのオススメの作品

ここからは、私なりのバッハのオススメの作品を紹介して行こうと思う。

マタイ受難曲
これは、自分とバッハの出会いを象徴する思い出の曲である。マタイ受難曲はイエス・キリストの受難を描いた曲になるが、登場する人物や聴衆の感情が豊かに表現されている。特に、「神よ憐れみたまえ」のアルトのアリア、「我が心よ、おのれを清めよ」のバスのアリアは絶品である。
演奏は先に述べた通り、1958年録音リヒター指揮のものがバッハの精神を最もよく反映していると思う。また、特筆すべき点はこの演奏に参加しているミュンヘン・バッハ合唱団はアマチュアの合唱団であるという事である。この録音では、ミュンヘン・バッハ合唱団のひたむきかつ躍動感のある合唱を味わうことができる。バッハの音楽においてリズムは特に大切な要素であるが、この演奏ではソリスト、合唱団、オーケストラのいずれからも生きたリズムを感じ取れる。これら精鋭を一つの演奏として纏められたのは、リヒターのバッハへの深い理解があってこそだと思う。
マタイ受難曲は合計3時間半程の大曲であるが、じっくりと腰を据え味わって頂きたい名曲である。


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以上、私のバッハへの想いを思い出と共に語ってきたが、ここまで読んでくださった方々には是非バッハの音楽を実際に聴いて頂きたい。バッハの音楽が読者の方々の心の中に何か実りをもたらす事を願ってやまない。

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