カセットテープを聴いています。
we are rewindというカセットテープレコーダーを購入しました。
元々クラウドファンディングで企画されたもののようですが、開発が想定以上に難航したそうで。
フランスでデザインされて中国生産というプロダクトで、クラファン自体は海外のサイトで行われていたのですが、生産が遅れに遅れ、痺れを切らしてキャンセルした日本人のブログエントリなんかが出てきました。気持ちは大変わかります。
本体自体は完全に「アルミニウムの箱」という感じです。率直に申し上げれば、可愛い色味である一方、ユーザビリティは一欠片もないあまりにもソリッドでスパルタンな筐体に仕上がっています。YoutubeやApple Music、Spotifyに慣れ切った我々現代人を殴り殺すためでしょうか、(指を切るほどではありませんが)アルミニウムの箱の角もちょっと鋭利です。ある種プリミティブな作りですが、公式サイトのトップには「再発明されたカセットプレーヤー/LE LECTEUR CASSETTE RÉINVENTÉ」というコンセプトがこれでもかと表出されています。たぶんライト兄弟が初めて飛ばした有人動力飛行機も、カール・ベンツが作った自動車の始祖であるパテント・モートルヴァーゲンも、現代の感覚から言えばまさに「ありえない」乗り心地だったんだろうと思うと、(再)発明を打ち出したこのプレーヤーのことも許せるような気がします。それにしたって角を丸めてくれればポケットにねじ込めたのに!とは思いますけど。
フランス語で再発明を意味する単語には「〜に新たな価値[意義]を見いだす.」というニュアンスも含まれているようです。日本語だとまず思い浮かぶのが「車輪の再開発/再発明」という言葉で、あくまでも個人的には、ですが、どちらかといえば否定的な文脈で使われることが多い印象があります。
そう思うと、フランス語の語義の方がいくらかポジティブでいいなと思います。再発明という視点に立ってみると、このあまりにもスパルタンな見た目も、ある種の哲学に基づいて設計されたのだろうと考えられるわけです。知らんけど。
実際にwe are rewindはプロダクトとしてどうなんだという話ですが、正直かなり荒削りです。Bluetooth 5.1らしいですが、そもそも接続自体けっこう怪しい。マルチポイント接続対応のイヤホンを繋いだ時の挙動も微妙どころかノイズが走るので、Bluetoothでスピーカーなどと繋ぐ際は「もうこいつとしか接続しない」ぐらいの気持ちを持っておいた方が安定します。
じゃあ有線接続はどうなんだという話なんですが、これも接触があまり良くない。3.5mmイヤホンジャックの取り付けが甘い?のか、少しでもプラグに負荷がかかることがあれば音が飛びます。そこらの音楽プレーヤーと同じ感覚では触れません。
正規代理店には「頼りにしてくれ」的なことが書いてありますが、そもそも不良品というレベルよりは、設計が詰めきれてないような印象です。あくまでも新興ブランドが最初に世に出した製品ですから、その辺りは甘く見てあげるぐらいの方が良いと思います。
文句しか言ってないし、実際に手にして最初の三日は文句しか出ません。しかし、こいつとの対話が進んで使い方が掴めてくれば不満も失せてきます。気分次第では即メルカリに出品してドナドナもありかなと思っていましたが、むしろ今では(持ちやすさのかけらもないので)自宅専用ではありますが、家にいる時は常に手元に置いています。
この子を買った後に存在を知ったのですが、世の中には往年のソニーやナショナル/パナソニックの旧いカセットテープレコーダーをオーバーホールして売る方がいて、メルカリなんかで一台一万円ちょっとぐらいで販売しているんですよね。流石にそちらの方で売られている筐体は、(保証などは期待できないものの)使いやすさにも配慮されていたり、モデルによってはベルトクリップが装着できるようなってたり、見た目がスケルトンになっていたり…と多種多様な変化が見えてきます。でもBluetoothなんか絶対にありませんので、有線で戦えるという方はそちらの方も検討してみて下さい。
実際のところ、「最新」のカセットテーププレーヤーは他にも東芝のAUREX Walkyだったり、FIIOという中国の音響機器メーカーが出していて、そちらの開発者も述べているのですが、実はカセットテープのプレーヤー/レコーダーの技術はロストしかけていたようで、まともな部品の確保に大変苦慮したようです。それはこのwe are rewindがクラファンのリターンを延期した遠因にもなっています。
東芝の方はBluetooth搭載されていて、値段もwe are rewindの半額以下です。どうも評判が微妙なようですが、基本的なユーザビリティは確保されてそうです。昔のものを掘り出した方がハマる、ということは全然あり得そうですから、是非一度吟味してもらえればと思います。
さて、何故今になってカセットテープを聴き始めたかについては、この直前に始めたレコードのついで、ではあります。
というのも、レコード(アナログ盤)人気は現在過熱していて、アメリカではレコードの売り上げがCDの売り上げを超えていたり、メタリカがレコード工場をまるっと買収してしまったりしておりまして。
日本国内で言えば、ソニーミュージックグループが廃止していたレコード工場を29年ぶりに復活させていたりもするわけです。廃止以降の技術が散逸していたので、わざわざアメリカから1970年代の機械を輸入し、OBや協力各社の応援を経て復活させるに至っています。
今となっては、日本でも宇多田ヒカルやVaundy、King gnuや最近放映されたアニメの主題歌の類も軒並みアナログ盤がリリース。そのほか毎月毎週新譜が出続けているし、街中のレコード屋さんは息を吹き返したどころか、何なら自前のレーベルを立ち上げて、新進気鋭のアーティストがまずアナログ盤をリリースしてデビュー、なんて現象さえ発生しています。
先述したソニーもレコード専門レーベルを出しているくらいです。この21世紀に!
一方で、レコード人気の高まりによる作用もあります。
たとえばKing GnuはアルバムをCDとアナログの両方でリリースしていますが、非常に希少なため、今彼らのアナログ盤は一枚数万円で取引されています。Vaundyのレコードももう定価では買えず、その他人気のものは当然ながら入手困難になりつつあります。需要が増えれば当然相場も上がる。既に聞く用途ではなく投機的に買う人も現れているぐらいで、自分にとってのオンリーワンは別にして、ある種分かりやすく人気のレコードは中々手に入りません。
しかし一方で、カセットテープのブームも来てるっちゃ来てるんですが、レコードのブームに比べると「密かなブーム」といった温度感です。レコード屋さんは増えましたが、カセットテープは専門店はまだ指折り数えるほどしかないというか、私が把握しているのはこことここだけです。
レコード屋さんでもテープは置いていますが、少なくとも私が今住んでいる福岡では、レジ横にちょこんと置かれている程度の扱いなんです。…たとえば、Vaundyのreplicaというアルバムをアナログ盤で買おうとすると、そもそも定価も4LPで1,6万円で、今から買おうとすると市場の相場は+1~2万です。が、一方でカセットだと5,500円で、市場に出回っているものを掴もうとしても+2000~3000円程度なんです。今のアーティストは新譜をアナログ盤/カセットテープの両方で出してくれますし、何よりプレーヤーを外に持ち出して聴きながら歩けるというのは、レコードでは考えられない利点です。
そしてこれは嬉しい誤算なんですが、オークションやフリマアプリを眺めるに、かつて衰退していくほかなかったカセットテープでギリギリまで新譜を出してくれていたアーティストの世代が1990~2000年代でして、今年30歳の私にとっては世代がドンピシャだったりするわけです。The OffspringやSUM41、GREENDAY、LINKIN PARK、歳を重ねてベスト盤を出した頃のEric ClaptonやBilly Joelもこの辺りの世代の人は耳にしていると思います。私自身、初めて買ったCDが確かChange the world聴きたさに買ったEric Claptonのベスト盤で、CD屋の人がClaptonの顔がデカデカと映されたベスト盤の販促ポスターをおまけでつけてくれた覚えがあります。中高生の頃はそれを部屋に貼って眺めていたんですよね。
そして、(まだ私はやっていないのですが)空のテープさえ用意すれば、自分のオリジナルのテープを作れます。何ならレコードプレーヤーとカセットレコーダーを繋げて曲を収録したりもするわけです。私も幼少期に母や兄がaiwaのCDラジカセで、レンタルビデオ屋から借りてきたCDをカセットテープに録音することをやっていたのを思い出します。当時は既にMDが出てきた頃でしたが、実家で乗っていた車が日産の旧いクロカンで、それにはラジカセしかついていませんでした。
と、ずっと話が脱線しっぱなしで、30歳という年齢がより重くのしかかってくるようです。今の世代の人たちの間でカセットテープが流行りはじめて、巡り巡ってかつて何の気なしに使っていた世代の人間にまで回ってくる、というのもちょっと数奇な気もします。アナログ盤全盛の頃に青春を謳歌していた諸先輩方も、今我々あたりの世代がアナログ盤を手に取っているのを見て、私がカセットテープに抱いた郷愁に近いものを感じてるんじゃないかと想像する次第です。
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