「自分だけのスニーカーで、ストリート文化を表現 」Blanksoles CEO・Stead氏、CTO・Huh氏【Web3の顔】
世界的なスニーカーブームの最中、NFTにも、Nikeや adidasなどの超有名ブランドが相次いで参入している。これに対し、「Blanksoles」(無地の靴底という意味)は、Web 3 スニーカープロジェクトとして始まった最初のスタートアップの一つだ。純粋なストリートフットウエア文化から誕生し、スポーツ選手らと提携するなど大きな反響を得ている。スニーカーを愛するストリート文化に密着している利点を生かした挑戦を続けるCEOのAnthony Stead(アンソニー・ステッド)氏とCTOのSteve Huh(スティーブ・ハー)氏に話を聞いた。
――Blanksolesは、初のWeb 3スニーカープロジェクトの一つで、スポーツとの関わりも深いですね。
Anthony Stead(以下A.S.):僕は、自分のハイエンド・ストリートウエア・ブランドをニューヨークで展開していたほか、(米ラッパーの)カニエ・ウェストとadidasが立ち上げたフットウエアブランド「YEEZY」で、カニエのシューズに関わるようになりました。YouTuberでプロボクサーのジェイク・ポールとも協力し、彼が暗号資産に対する投資をしていたので、影響を受けました。つまり僕は、ファッション、カニエとやった限定シューズのマーケティング、暗号資産について経験の蓄積があったんです。
そんな時、米プロバスケットボールNBAのサクラメント・キングス共同オーナー兼会長でソフトウエア企業の創設者だったVivek Ranadivé(ヴィヴェク・ラナディヴェ)がインキュベートしていたBlanksolesのことを知りました。限定品フットウエアのマーケティングや暗号資産への投資に通じていた僕は、Web3プロジェクトに関わりたくて、2021年12月にBlanksolesに加わりました。
――なぜ今、スニーカーなのでしょう。
A.S. :最大の理由は、スニーカーはストリート文化で、個人がアイデンティティーや文化へのこだわりを表現できるナンバーワンのアイテムだからです。スポーツやアート、D Jの文化なども含め、僕らが今進めていることは、スニーカーに対する情熱の表現です。
また、スニーカーは、Web 3テクノロジーをカスタマーとの関係に生かす、クールな製品です。NFTにすると、ブロックチェーンの助けで、とても優れた製品の価値を提供することができます。異なるユーザーに異なるNFTを、さらにユーザーのロイヤルティーによって異なる経験をも提供できるのです。
――NBAとの強力な関係から、数々のドロップを手がけているのはユニークですね。
A.S. : 21年12月に初のドロップを出して、1200足を売り切りました。次に、サクラメント・キングスの「Laidback Lions NFT」を手掛けました。これはスニーカーではない限定NFTで、しかもNBAはチームが出せるNFTの数を制限しています。それで、貴重な体験をしました。次に、元NBAチャンピオン選手のメッタ・ワールド・ピースと500足を手掛けて売り切れました。
Blanksolesは、メッタなどのパートナーに白い無地のスニーカーの型を提供し、デザインしてもらいます。メッタは、10年のNBAチャンピオンでしたが引退してから、自分が選手のためにデザインしたスニーカーを手掛けたいと思っていたそうで、話はすぐに決まりました。
――今年夏にニューヨークに開店したSolana(ソラナ)ブロックチェーンをテーマにした実店舗「Solana Spaces」で、唯一のスニーカーパートナーとなりました。
A.S. :ユーザーが、実店舗でリアルなスニーカーを見て買うことで、NFTも得ることができるというのはBlanksolesとして初の試みです。NFTを使い、イベントチケットをゲットしたりできます。パートナーであるSolanaのカラー、ライトグリーンと紫を蛍光色であしらい、カバーはイタリア製の白い本染め革です。
――リアルな製品からデジタル製品という流れで、何か変化したことはありますか。
A.S. :以前のようにすぐに売り切れるということはありませんが、実店舗でリアルな製品を見るというのは、NFTファンにとってはワクワクするちょっと非現実的な体験で、Twitterで反響がありました。大きなメリットです。Solanaが実店舗というコンセプトを実現したというインパクトははかり知れません。
Steve Huh(以下S.H.):Nikeは世界で何千、何万足ものスニーカーを出すことができます。でもBlanksolesは今回300足です。つまり、ユーザーにとってはBlanksolesクラブのメンバーになって、いろいろな特典を得られるし、その体験が生活の一部になっていきます。リアルな製品を買って、NFTを得ることは、クラブの入会資格を得るようなものなのです。Nikeのショップに行って、「エアフォース1」を買っても、クラブの会員になった気分にはなれません。
――9月には、新しいプロジェクトを発表しました。
S.H.:僕らは、メッタと組んでデジタルからリアル、Solanaと組んでリアルからデジタルというプロジェクトを手掛けました。今度は、デジタルでカスタマイズして、リアルなスニーカーを得るという試みです。デジタルでかかとや靴底(sole)、カバーなどパーツを好きにデザインして、それをリアルで手に入れることができます。「デジタルシェルフ(棚)」を設けるので、そこに「こんなスニーカーを持っているよ」と展示して、他のユーザーに見せることもできます。スマートフォンで、自分だけのスニーカーが指一本でクリエートできる体験って、ワクワクしないですか?
――スニーカーというと、Nikeやadidasなど世界的ブランドがNFTに進出しています。
A.S. :その質問を待っていました。リアルのスニーカー業界では、Nikeやadidasがものすごいシェアを世界市場で保持しています。一方、Web 3のスペースは全く新しいので、彼らが私たちより優勢というわけではありません。Nikeは、とても強力なWeb 3ブランドである「RTFKT」を買収しました。それはちょっと残念でした。Nikeによる買収というのは、価値を分散化するというWeb 3の精神に反するからです。Web 3にほとんど実績がない巨大な複合企業が、ナンバーワンのブランドを買ったわけですから。
逆に、私たちはWeb 3プロジェクトとして誕生し、Web 3の精神をスニーカーの世界にもたらすことができます。Blanksolesの所有者たちが、その精神の恩恵を受けることができるように、と努力しています。ブロックチェーンを使う若い世代、デモグラフィーは、ほぼ新しいマーケットと考えていいと思います。高付加価値のある、トップの品質のスニーカーをWeb 3の世界にもたらす旗手になり、初のWeb 3 スニーカーブランドとしての「物語」を形作っていくことができるのです。
――今年に入ってから“暗号資産の冬”があり、また来年以降も景気停滞の懸念が浮上しています。
A.S. :僕が唯一、Web 3をめぐって今まさに起きている、そしてそれが続くと信じているのは、ピークは過ぎたとはいえ、ものすごい興奮が渦巻いているということです。ベンチャーキャピタルの資金も積極的に流れ込んでいます。ただ、成功はしないのに多くのプロジェクトが夢を売り物にしていて、乗り遅れまいというベンチャーキャピタルが資金を投じるため、弱気相場が生まれたのだと思います。一方で、弱気相場となったことで、真の価値を生むことができないプロジェクトは、生き残れないということも証明されました。
2~3年のうちに、Web 3のブロックチェーン技術の価値というのは、流れとして否めないものになると思います。
僕は実は、香港のブロックチェーン企業Animoca Brands(アニモカブランズ)のファッションチームの一員でもあるんです。そこで、世界的な複合企業である多くのファッションブランドがWeb 3に参入する支援をしています。巨大な企業がWeb 3事業に対し、巨額の予算を割り当てています。スローダウンするとしても、この傾向は続くと思います。
また、世界で50億人がインターネットにつながっているのに、ウォレットの所有者はまだ、ごくわずかです。でも興奮の度合いは本当に大きくて、はかり知れない伸びしろがあります。
津山 恵子(つやま・けいこ)プロフィール
ニューヨーク在住ジャーナリスト。
東京外国語大学卒、1988年共同通信社入社。福岡支社、長崎支局、東京経済部、ニューヨーク経済担当特派員を経て2007年に独立。Facebook(現Meta)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)、Instagram 創業者ケビン・シストロム氏、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイ氏、YouTube共同創業者スティーブ・チェン氏、作曲家の坂本龍一氏、ジョン・ボルトン元米大統領補佐官、ジャシュ・ジェームズ米DOMO創業者などの著名経営者を単独インタビューしてきた。著書に「モバイルシフト」(アスキーメディアワークス)、「よくわかる通信業界」(日本実業出版社)など。日本外国人特派員協会(FCCJ)正会員。