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e-bikeにおける消費カロリーの推定法

初稿:2021.07.22

はじめに

この1-2年,Apple Watchを通じて消費カロリーをモニターしている.対外的にはダイエットのためといっているが,実際のところ,運動した分だけ食べたり飲んでも良いギリギリの線を探るためのデータとして使用するに至っており,実際に体重は恐ろしいほど減っていない.

さて,この消費カロリーの推定値に関して,ジョギングやウォーキングの場合,Apple Watchに表示される値はネットで拾える推定法(距離,時間,体重などから推定する方法)から出した値と誤差の範囲で一致していたので満足していた.しかし,最近,e-bike(ブリジストン Tb1e)を購入し,Apple Watchの自転車モードでカロリーを計測すると,どう考えてもe-bikeであることが考慮されていないような過大値が出ていた.特に上り坂が多いようなコースを走った場合,ガンガンアシストされているのに(なんなら平坦路より楽),その区間の消費カロリーが明らかに高い.これは間違いなく通常の自転車として消費カロリーが推定されている.実際,この消費カロリーを信じて飲み食いしたところ,体重がガンガン増えてきた.これはヤバい.至急,調査しなくてはならない.

Apple Watchのヘルスケア(というかワークアウト)がどうやって消費カロリーを推定しているかは調べる限り公開されていない.本来,消費カロリーは体重1kgあたりに身体に取り込まれる酸素の量から推定すべきであるが,その測定は容易でないため,走行距離と高度変化,心拍数などから推定しているのだろう.そして,上述の通り,通常の自転車,ウォーキング,ジョギングなどではそれなりの精度を出しているように感じる.しかし,残念ながらこの情報だけではApple Watchがe-bikeに対応しているかどうかすら分からないのである.

そうこうしているうちに,某筋(友人S氏)から「GarminのサイコンであるEdgeシリーズはe-bikeモードがある」という素晴らしい情報を手に入れた.天下のGarminはきっと電力によるアシストを何らかの方法で補正しているに違いないと短絡的に信じ,研究のため仕方が無く嫌々渋々手に入れた.しかし,実際のところ推定消費カロリーはApple Watchから出される値と差が無い.同時にStravaも使ってみたが,そこで推定される消費カロリーもやはり大差なかった.言い換えれば,3種類の異なるハード・ソフトで出された値が大体同じであるというのは素晴らしいことである.が,体重は引き続きガンガン増えている.すなわち,これらで表示される消費カロリーは真の消費カロリーではない.これはヤバい.

以上より,Apple Watchによる計測値がいったい何を測っていて,さらにe-bikeによる消費カロリーを(できるだけ)簡易かつ正しく推定するための方法を明らかにすることは健康と体重の維持のため非常に意義があると考えられる.そこで本稿では,この問題について取り組んだ途中経過について報告する.

なお,今後も情報を更新するつもりであるが,とりあえず現時点でわかったことを結論から言えば「**Garminのサイコンで取り込んだデータをiPhoneのヘルスケア経由でみるといくつかのデータが表示されるが,そのなかの「アクティブエネルギー」で示される値がどうもe-bikeでの消費カロリーを示しているようだ.ただし,どういう理屈でそれを算出しているかは分からない(今後の課題)また,Apple Watch単体ではe-bikeでの消費カロリーは推定できなさそうだ**」というものである.

検証1(ロードバイクとの比較と違和感)

まず以下のようなルートを時計回りで走ってみた.ざっくりと奈良公園付近からスタートし(詳細はプライバシー保護のため割愛),369に入った後,最初の10kmくらいはガンガン登り,その後,柳生あたりから平坦路が増え,少々のヒルクライムとダウンヒルを繰り返しながら布目ダムを通過し,最後,気持ちの良いダウンヒルで市内に戻ってくる.一周約50kmである.なお私はe-bike,友人は軽量ロードである.走行ペースはほとんど同じで,全体のグロス平均速度としては20km/h前後であった

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このコースを友人S氏と走り,二人の消費カロリー(二人ともガーミンのEdgeシリーズ)を比較した.二人とも体重は違うが,友人の体重が私と同じになるように補正して比較したものが以下のグラフである

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図1: ロードとe-bikeによる消費カロリーの比較

ここで前提として知っておいていただきたいのはe-bikeのアシストについてである.少なくとも日本の場合,法規制により24km/h以上はアシストは0になる.一方,速度が遅いほどアシストは強く,24km/hに近づくにつれてアシストは弱くなる.

これを踏まえると,上のグラフにおいて10-45kmくらいまでの消費カロリーの違いは割とうまく説明できる.グラフ中にコメントを入れているが,10-25kmくらいまでは平坦路が多かった.この区間の平均速度は高く,かなりの部分でアシストが効かない.言い換えれば,私は単に重たい自転車を漕いでいただけになる.したがって消費カロリーはロードの場合と比べて高くなる.2倍くらい差が出ることってあり得るか?とも思ったが,ロードとの走行抵抗,空気抵抗,車重の違いを考えると十分にあるかもしれない.それくらいTb1eは重く(22kgくらい),またモーターがあるせいか,走行抵抗も高い.次の30-40kmはダウンヒルが中心である.この区間は重力による恩恵があるため,2つの自転車の車重による差は小さくなる.それで消費カロリーの差も小さくなったのだろう.

一方で解せないのが,0-5km, 25-30km, 45-50kmのきつめの登りがある区間である.明らかにロードの友人の負荷が高く,こちらはアシストのおかげでむしろ楽で,必死にこぐ友人に延々と話し続け酸欠させかけるという状態であったにもかかわらず,e-bikeによる消費カロリーが高くなっている.0-5kmは確かにロードの負荷が高くなっているが,こちらは鼻息交じりで走れるほど楽だったことを考えると,この程度の差ではすまない.

ここから分かることは,サイコンをe-bikeモードにしても消費カロリーには反映されない,ということだ.どうもe-bikeモードがあるのは,コンペティションを行うときにe-bikeは違うカテゴリーにしておかないと不公平になるためという話もあるそうなので,消費カロリーまで考慮されないのは現時点では当然なのかもしれない

検証2(同じコースを走り,それぞれ別の方法で計測し比較)

ただ,ここで1つ面白い事に気づいた.それはGarminのアプリで表示された消費カロリーはiPhoneのヘルスケアで表示される「ムーブ」とほとんど同じく1323 kcalなのだが,同じくヘルスケア中のアクティブエネルギーは662kcalとだいぶ小さい値なのだ.

実はこの検証を行うだいぶ前に,「Apple Watchで過大に推定された消費エネルギーから,モーターがアシストしたエネルギーを差し引けば,実際の消費エネルギーになるんじゃないか?」と思っていた.今回の走行でバッテリーは65%減少していた.Tb1eに積まれているバッテリーの容量を考えると,10%の減少あたり約100kcalがアシストに使用されることになるので,これを考慮すると,今回は650kcalがアシストされており,1323-650 = 670 kcalとなり,上のアクティブエネルギーの数値とかなり近い.

つまり,Apple Watchのみだとe-bikeであることが考慮されずに消費エネルギーが推定されているが,Garmin+iPhoneだと(どういう理屈かは分からないが)e-bikeであることを考慮された消費エネルギーが推定されている可能性がある.また,iPhoneで表示される「ムーブ」と「アクティブエネルギー」はどうも違うもので,上の組み合わせでも「ムーブ」は過大評価しているが,後者の「アクティブエネルギー」はe-bikeであることを考慮した数値となっているっぽい.

これを検証するため次のような実験を行った.自宅を中心として起伏の激しい1周20kmのコースを

1. Garminのサイコンで計測
2. Apple Watchで計測

の2パターンで走り,それぞれの消費カロリーを比較した(両者とも気温・湿度はほぼ同等,完走タイムは1分以内で同じ(約1時間2分)であり,バッテリー消費も同じであった).その結果

 1. でGaminのサイコン上で表示されるカロリー消費:548 kcal
 1. でiPhoneのアクティブエネルギーで表示されるカロリー消費:344kcal
 2. でiPhoneのムーブに表示されるカロリー消費:574 kcal
 2. でiPhoneのアクティブエネルギーに表示されるカロリー表示:522kcal

となった.つまり,2.の計測と1.のGarmin上での計測結果はいずれも同じくらいの値(522-574 kcal)となっている一方,1.でiPhoneのアクティブエネルギーをみると344 kcalとなっている.しかもこのときのバッテリー消費は20%で,先と同じ方法で控除すると548-200 = 348 ≃ 344 kcalとなんとなくe-bikeの消費カロリーっぽくなっている.すばらしい.

そこで,もう何度か検証のために走りまくって,1.の条件でGarminに表示されるカロリー消費からバッテリー容量の減少から計算される値とiPhoneのアクティブエネルギーに表示される値を比較した結果が以下である

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図2: 異なる方法で推定した消費カロリーの比較

図から恐ろしいほどに良い一致を示している事が分かる.まだデータ点数は少ないものの,縦軸も横軸も全く別のアルゴリズムで計算しているため,この一致には意味があると思う.そして横軸の計算から,その意味するところは「真の消費カロリー」の可能性が高い.もちろん,現時点では十分条件だけかもしれないが,趣味の範囲では十分に信頼性は高いだろう.これで安心して飲み食いできる

 今後の課題

疑問点としては,iPhoneはいったいGarmin経由で得られるどのデータを使ってアクティブエネルギー(=真の消費カロリー)を推定しているのか?だ.心拍数などはApple Watch単体でも得られるため,Apple Watch単体でも似たような推定ができるはずだ.それがなされていないと言うことは,

そもそもe-bikeを考慮していない
心拍数以外のなんらかのデータを使ってアクティブエネルギーを推定している

のどちらかだが,その検証は今後の課題としたい.

また,真に精度の高いデータを得るためには,実際にロードを購入し,同一人物による比較も大事だろう.これはロードを買ういい理由にならないだろうか?いや,なる.

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