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[短編]明るい未来

太陽が傾き始め街は茜色に染まってきた。上を見ると雲一つない綺麗な空が私を2次元に連れて行く。

私は今、体育館裏に来ている。体育館を挟んだ奥では、パコンパコン、とテニス部が部活をしている。

体育館裏にいるということは、そう、男に呼び出されたのだ。何回目だろうか。私はこれまで何度も告られてきた。部活の先輩、クラス1のイケメン、仲のいい友達など様々な人に。そして、その度に断ってきた。

告られた事がない人にとっては、思わず拳が出てしまうだろう。しかし、私には理由があるのだ。

おっと、回想しようとしていたら、人が来たな。あれかな?

1人の男子が来て、おどおどしながら、

「こ、こんにちは…。あの…、芽衣さん!僕と、つ、つ、付き合ってくっださい!」

これまた、不思議な人が来たな。

緊張からか相手は声が裏返ってしまっている。これでは告る相手が私じゃなくても、振られているぞ。
もちろん私の答えは、はなから決まっているがな。

「ごめんなさい、あなたの気持ちには寄り添えない
 わ。」

そう言うと相手の顔は見る見るうちに緊張から絶望に変わっていった。そして、とぼとぼとした足取りで家なのか、教室なのか知らないが帰って行く。
この光景も何度目にしたものか。

よしっ、終わったし帰るか。

私は一回伸びをして、歩き出した。

そういえば、なぜ私はわざわざ告ってくれた人を振っているのかという話をしていたな。
それは、私に彼氏がいるとか、好きな人がいるとか、ましてはレズという訳ではない。

私は私のことがわからない、自分を愛していないのだ。

だから、私は人を好きになる、愛するという行為が出来ない。

ある日、私は自分が自分ではない「何か」だと錯覚してしまった。なぜ錯覚したかは今も不明なのだ。「何か」も分からない。
それからというもの、人を好きになるという事が出来なくなってしまった。私が私を知らないのに他人を愛するなど烏滸がましいのだ。

だからと言って悲しい訳ではない。むしろ、自分が自分でないと分かると生き生きできる。
ただの魂の入れ物にしか過ぎないのだ。そう思うと、自然と体から楽になる。

だけど、いつかは私にも恋ができるのかな?私を愛せるかな。

やっぱり私も1人の人間。恋はしたいものだ。

私は帰り道の土手を歩いている時、ふと音楽を聴こうとイヤホンを出した。
シャッフル再生をする。私はシャッフル再生派である。

あれ?これなんていう曲だったっけな。

スマホを見ると
never young beach「明るい未来」
と写っていた。

明るい未来かぁ。私の未来はどんなものだろうか。自分を愛する未来か、愛さない未来か。果たしてそれが私にとって明るい未来なのか。

ねぇ、あなたはどっちだと思う?

私は沈みゆく太陽に向けて問いかけたが、答えは返ってこない。