サントリーニとドブロブニクへ新婚旅行日記1
Googleフォトが五年前のこの日ってことで新婚旅行の写真を見せてくれた。過去に日記を28,000字書いたのを思い出し、せっかくだから公開したいなあと思い立った。五年前の記録なので現在の旅行のスタイルとは少し異なるけど、参考までに。
1. ゼロからのギリシャ
新婚旅行の行先ってもう決まっているものだと思っていた。
妻はずっと前にシンガポールのマリーナベイサンズに泊まりたいと言っていたし、
ハネムーンはリゾートだ!と鼻息荒くふんふん語っていたのだ。
俺はただシンガポールへの航空券とマリーナベイサンズの手配と、何して遊ぶか下調べすればよいかなと思っていた。
「シンガポールは新婚旅行っぽくない」
関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。特にシンガポールに新婚旅行した方。
さよならマリーナベイサンズ。おたくのプールで泳ぐのはまだまだ先になりそうだ。
ラッフルズホテルのランチブッフェ、食べたかったなあ。
「シンガポールじゃないとしたら、何処にするのさ」
「サントリーニがいいなあ」
「どこそこ」
まったく聞いたことのない地名である。
俺は自分を旅行好きだと思っていたし、紀行文もそれなりに読み、テレビの旅番組も見ていた。
仕事柄、外国人や日本人旅行者とも話す機会が多いはずなのに、サントリーニはまったく聞いたことがないのだ。
「ギリシャのね、小さい島なんだけど」
ぴらりと机の上に載ったのは旅行会社の企画パンフレット「憧れのヨーロッパきらきら」である。タイトルは適当である。
文字も写真もうるさいし、AランクからKランクぐらいまである細かい値段設定のうち、どれに該当するか探すのも面倒だし、
結局いくらかかるのか見積もりとっても何が含まれて何が含まれてないのかわからないし、総予算が組みづらいので俺は好きではないのである。
そんなことはおくびにも出さず、へーっとパンフレットをめくる。表紙をめくったところに例のサントリーニはででん、と載っているのである。
吸い込まれそうなブルーの海をバックに、マットな白色の教会がつやっとした青い屋根を乗せて写っている。
「あー、アルベロベッロみたいなやつね。白で統一されてるんだね」
「でしょ。真っ白で綺麗なんだよねー」
でしょとは言うが妻はアルベロベッロを完全にスルーしている。
エーゲ海に浮かぶ三日月形の小さな島。島内の建物は白い外壁のものがほとんどで、夕日に照らされた様子は息をのむ美しさ、だそうだ。
おおっと、全然興味がわかないぞ。
「そうか」
「興味なさそう」
「興味はない」
「じゃああなたはどこ行きたいの?」
「ペトラ、とか」
なぜだかその時の俺は、遺跡や古い町に行きたくてヨルダンのペトラだとか、カッパドキア、アンコールワット、ボロブドゥールだとかチチェン・イツァだとか。そういうところにやたらと行きたかった。
「うーん、新婚旅行ってリゾート!って感じなんだよねー」
新婚旅行っぽさ、リゾートっぽさって何よ。
物差しは妻の頭の中。何がヒットするかわからん。
いよいよ暗礁に乗り上げてきた。
これが四月の中旬の話。妻が入籍に伴う諸手続きを会社で終え、六月の休暇を申請したころの話である。俺の予定もあり、六月の日曜の深夜から七日間の日程を組んだ。
アメリカやヨーロッパであれば行き帰りは機内泊なので五泊七日となる。
早く場所を決めなきゃ、と焦るのにはわけがあって、
新婚旅行をするにあたり、格安航空券を使いたかったためである。
何をそんなケチ臭いことを、と言われるかもしれないが、
自分の行くところは自分で決めたかったので、パックのツアーに参加する気は毛頭なかった。航空券を安く抑えて、食事や宿泊を豪華にしたいなと思ったのである。
そこでskyscannerという格安航空券比較サイトを使って見始めたのだが、
格安航空券の格安たるところで、90日前ぐらいからどんどんと高くなってってしまう。
一週間予約が遅れれば一万円値段が違うかもしれない。
場所が決まらないと航空券の取りようがない。
どうにかしてこちらになびいてくれないかあ。
ほらほら、ペトラってラクダで行くんだよ、圧倒されるような存在感なんだよ、と
Youtubeの映像を何本か見せてみると、
「なんだかペトラもいいかなって思ってきちゃった」
意外にもあっさり傾いてしまった。
こうなってくると良心が痛む。
ギリシャに行きたがっているのに、ペトラで押し通していいものなんだろうか。
でもギリシャへはどうも行きたい気持ちがわいてこないんだよなあ。
明日決めよう、明日決めようを毎日やっているうちに、兄と会ったのでなんとなく新婚旅行の場所を決めかねている話をした。
「割り勘のくせにお前何偉そうなことを言ってんだ。普通は女性が100%行き先を決めて、俺が100%手配して100%お金を出すんだ」
今までどんな人と旅行してきたのかがよくわかる一文である。
その後に友人や人生の先輩方に話しても「奥さんの希望を叶えないと一生言われる」「行ってあげたらいいじゃん」など、完全に味方はゼロ。
家に帰ると、増殖を続けるギリシャのパンフレット。
「サントリーニに行こうか」
「行きたくないんだったらいいよ」
いったいどうしたらいいというのか。
非常にまずい。すねている。
「いや、奥さんの行きたいところに行こう。うん、飛行機調べるからさ。でもギリシャだけ、ってのは嫌だ。もう一か所どこか行きたい」
ギリシャからそれほど遠くなくて、一日程度で楽しめて、俺がいきたいところってどこだろう。
トルコのイスタンブール、クロアチアのドブロブニク、イタリアのシエナぐらいかなあ。
その中でドブロブニクが妻にヒットし、ギリシャ3泊、クロアチア2泊とあいなったのである。
日程が決まれば次は航空券とホテルである。
羽田空港発、エミレーツの深夜便を使うと決めていた。
帰りはなんとなく迷ったが、ドブロブニクから1回のトランジットで考えるとモスクワの選択肢が魅力的だった。
アエロフロートというと設備やサービス面でみんなあまり良い顔をしないが、最近はもうそんなことはないよなんていう声も聞いたので、
ドブロブニク発、モスクワトランジット、成田着を手配。
ホテルは、サントリーニ初日と三日日は空港からのアクセスで決めた。二日目の滞在で一番贅沢をすることにして、その他は抑えめ。
まさか新婚旅行で男女混合大部屋に滞在するわけにもいかないので、そこそこに値段がはる。
トリップアドバイザーで地図表示させると位置関係を見ながら価格と評価である程度比較出来て良い。
いくつかに絞ってそれぞれのホテルのウェブサイトを見てから予約。
ドブロブニクについては同じく空港からのアクセスが重要だった。
旧市街にはSobeと呼ばれる民泊のようなものや安宿もあるようだが、ダーティーでバッドサービスでスモールルームなんて口コミを多く見たので、
旧市街の中ではなくて外側で探してみると良さそうなところを発見。
Hotels.comに飛んでいざ予約しようとしてみるとトリップアドバイザーのときと地図上の場所が全然違う。
え、これってまさか、旧市街で表示させるためにわざと住所こっちにしてるの。そんなことできるの。
宿の本当の場所はツァブタット(Cavtat)。ドブロブニク旧市街から離れているものの空港からかなり近い町で、迷ってもタクシーなどですぐ行けそうな場所だった。
観光PRの動画を見るとなかなか落ち着いたビーチリゾートのようである。
ドブロブニク旧市街から車で30分、ラブリースモールタウンなんて口コミも見たので、きっかけはどうあれ、これも縁だと思って予約。
これでいわゆるアゴアシマクラのアシとマクラを確保したのである。
ハネムーンで一年くらいかけて世界一周、なんて本やブログを見かけるが、本当のところ多くの人は一週間でこれぐらいだよなあ。その後パックツアーでサントリーニとドブロブニクというまさに同じものを見たが、金額が一人当たり10万円くらい高かった。なんとなく、にやっとする。自分で全部手配すると自分達の旅行、という実感や達成感もある。
2. 旅気分を上々にするために
旅するときに何を楽しみにしているか。
お酒の飲めない俺にとって、それは食べ物である。次に景色、自然でも建造物でも。
そして人。歴史。言語などの違いを見るのが楽しい。
事前に色々勉強していこうと思ったのだが、ギリシャ語はもう文字からしてかなりキツイ。
アルファ、ベータ、シータあたりは数学で、ガンマとオメガは理科で出てきたなー、とかそんなもの。
あとゼータとニューはガンダムで知ったよね。
読めても意味がわからないので、文字を勉強するのはあきらめて、
おとなしくカタカナで勉強しようと決める。
もちろん基本の挨拶から。
カリメーラ、カリスペーラ。ふむ。発音はどうだろう。
YouTubeで「Greek language lesson」とかで検索するとぼろぼろでてくる。
レッスンの動画は退屈で、そこまで面白くなかったので、サントリーニの動画を見ることに。
リポーターがワイナリーや観光名所を訪れるあれである。
顔のうるさい美人がスイーツを前にして、オーバーリアクション気味に「マイフェイバリッッッ!」とかやってた。
そこでカリメーラとカリスペーラの発音を確認。
ありがとうはエフハリスト。よく覚えられるねと妻が言うので、「いや、Fを貼る人って覚えている。ギタリストのような感じ」「それどんな職業なの」「Fをひたすら貼ってく仕事」
俺の覚え方は小学校のころから語呂合わせである。
妻は定番中の定番、地球の歩き方その他小さめのガイドブックをいくつか買っていた。俺もサントリーニやドブロブニクの旅日記をネットで見ながら、どの辺に気をつけたらいいか調べていた。
俺一人だと別に何が起きても気にしないが、妻と一緒に一週間も海外旅行するのだ。しかもそれが人生で一度の新婚旅行。
ものすごいプレッシャーである。なぜだろう。失敗したくなかった。
「旅行は何が起きるかわからないから、予定通りにいかなくても機嫌悪くならないでね」
これも一種の根回しである。実際、予定通りに行かずにたびたび機嫌悪くなったのは俺の方であった。
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