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旅行するとわかる胆力の強さ〜サントリーニとドブロブニクへ新婚旅行日記5〜

9. 全自動パルテノン観覧マシーン

早朝の飛行機に乗るため、フロントの前で送迎車を待っていると、宿泊客らしき背の高い50年配の白人男性に声をかけられた。

「日本人かい」
「イエス」
「東京かい」
「イエス」
「そうか、俺の息子が実は2年前から東京に住んでいるんだ。家内と今度行こうと思ってな」
「おお、いいね、息子は学生なの」
「いや、勤めている。何でも生命保険会社で日本で二番目だか言ってたかな」
「第一生命かな」
「名前はちゃんと覚えていないが、たぶんそんなところ。息子は日本が大好きで、もっと長く住みたいと言っている。」
「ってことは日本人の義理の娘が出来るかもしれないね」
「あいつ彼女いないらしいからな。俺と違ってダメなやつだ。結婚は遠い話だ」

サントリーニからアテネに飛び、空港に荷物を預けて電車に乗る。
空港からの唯一の電車なのに、改札は10個もなくて、人も閑散としていて本当にこの電車は首都の中心街に行くのか不安になってしまった。

パルテノン神殿に向かう道はシンタグマ駅からずっとのびている。
シンタグマ駅は乗換駅で、非常に大きいようだ。
なんとなく、超観光地化されていそうで、そこに行きたくない。
次の駅からでも歩いてパルテノン神殿行けそう。妻に話して、一つ先の駅からパルテノン神殿の横に向かって歩こうと提案した。

それが間違いだった。パルテノンさんへの入り口は、シンタグマ駅側にひとつだけだったのだ。地図で言うと東側。俺達がいるのは南側。
地図上近く見えても、入口がなければ登れないではないか。
そういえば学生の頃一人旅したチェコで俺痛い目見てた。
地図を見てなーんだホテルへはここ降りていけばいいんじゃーんと直線で向かったところ、
等高線が隠れていたのか目指すホテルが眼下に見えたのである。
階段が近くにない。降り方がわからない。結果としてかなり遠回りしたのだ。あれはキツかったなー。今おんなじ状況だなー。俺アホだなー。

さて、パルテノンさんへの正しい入口にはおびただしい数の人がいた。
朝の丸の内でうごめくサラリーマンのようである。人々は足元に動く歩道があるんじゃないかと思うほど、綺麗に整列して進んでいた。
登る人はこちらから、降りる人はあちらから。みんなだいたいおとなしく進んでいたが、何処の世界にもショートカットしたい人は少数いるものだ。本当に朝のラッシュみたい。
曲がり角ごとにそろいのユニフォームを着た誘導員がいて、何処の観光地でも同じの押すな止まるな足元を見ろのアナウンス。
パルテノンさんがいらっしゃる頂上まではずっとこんな感じ。
我々は回転ずしのネタのごとく、ぞろぞろと運ばれていったのである。この全自動式名所観覧システムは、屋久島の縄文杉のようである。
縄文杉の前ではウッドデッキに係員が二人いて、はいじゃ撮りますよーはーいチーズ、はいもう一枚いきますよーと、次々に処理されていく。
うおお、この杉が太古の昔にも存在していたのか、すごいなあなどと感慨にふける暇などない。
パルテノンさんはその点、少し頂上が広いので余裕があり、じっくりと回れた。
このアクロポリスの丘は平地にいきなりぼこっと隆起しているような具合で、見晴らしが非常に良い。
2400年以上前に、ここに神殿を作るのもわかる気がする。写真をバシバシ撮っていると、大学生らしいグループがはしゃいでいるのが見えた。

パルテノンさんから降りると昼時だった。
すぐ近くにたくさんの飲食店が並び、看板の前で客引きが声をあげている。
今日こそギリシャ風の肉団子、スズカキャを食べるのだ。そう言って看板を見ていく。どの店もギロピタサンドあるよスブラキあるよの文字が躍る。
聞いた方が早いのでスズカキャがあるか客引きの男に聞くと「もちろんだ、さあ早く座れ」とのこと。
こういう風に即答されるときは無いことの方が多いが、案外あった。

いよいよ対面、これで食べ残しはない。
日本風や中華風の肉団子は、餡がまわりに絡み、中身は玉ねぎや刻みキャベツ、場合によってはレンコンなどがあって食感と肉汁を楽しむものであるが、
スズカキャはシシケバブのような肉肉しいもので、外側はカリッとなるまで焼いている。胡椒やハーブが効いている。
単体でも味はしっかりしていて、それにトマトソースがさっぱりと酸味を加えて肉の脂を上品なものにしている。
ほうほう、なかなかうまい。ライスが付いてきたが細長いパサパサしたアレだった。申し訳程度に小山にされて、こちらもトマトソースがかかっている。フライドポテトはもういいやと思っていたのでよかった。
ウェイターがオススメしてきたブドウの葉のちまきを食べる。

ドルマダキアという名前である。ガーリックマヨネーズソースとレモンが添えられて、葉っぱは固くて主張が強いがなかなかうまい。

もう一つくらい遺跡に行こうと言うことで、歩いて行けるゼウス神殿に行った。ここも2000年以上前の柱が残っている。
イタリアに行った時も驚いたが、街中にいきなり2000年クラスのものがあることにビビる。


ゼウス神殿は公園になっており、ベンチに座って遠くに見えるパルテノン神殿とゼウス神殿を交互に見ていたらなんと昼寝してしまった。

すっかり元気になった我々は中心市街地に戻って買い物である。TIGERという名前の雑貨屋、日本で言う東急ハンズのような店に入り買い物。妻はその後アイスを食べていた。

バスでアテネ空港に戻る途中、携帯に、不在着信が。海外の番号である。
嫌な予感がした。

「きっと飛行機が変更になったとか、そういう電話だよ。参ったな。」

この旅行ひとつくらい、思い通りにならないことがあるだろうなと思っていた。電光掲示板に向かって便を確認。

「ほら、行先がザグレブになっているじゃないか。ドブロブニク行きのはずなのに。」
「へー」
「ザグレブに行ったらどうしよう。そこから自分で手配だな、どうしようドブロブニク空港にピックアップ頼んでるのに」
「まあなんとかなるよ」

預けていた荷物を受け取って、チェックインカウンターに行く。

「ザグレブ行きになったの?」
「いいえ。ドブロブニク経由、ザグレブ行きです」

言ってよねー。30分ばかりぎゃーぎゃー騒いだのだが、要らぬ心配だったようである。結局あの着信はなんだったんだ。
妻は何も言わなかった。俺よりもよっぽど肝が据わっている。

10.ニシムーラ

ドブロブニク空港到着時、出口で宿の人が待っているので早く行こうとする俺に対し、荷物を受け取ってから「あ、トイレ行きたい」という妻。
人を待たせているが関係ない。荷物待つ間トイレ行く時間めっちゃあったじゃん。俺よりも本当に豪胆である。

ゲートから最後に出た我々に、オーナーのヤドランカはすたすたと寄ってきた。一応片手に名前の紙を持ってたようだがもうわかったのだろう。

「ヤドランカ、俺クロアチナクーナを全く持っていないからそこで両替したい」
「そこはレートがよくないからやめなさい。宿の近くにキャッシュマシーンがあるわ」

客の要望を一蹴。
まあいいか、カードあるしと思って車に乗せてもらう。
西日が強く、運転席の上の日よけを出しながら、

「夕焼けが綺麗だから、明日はきっと晴れね。明日は旧市街に行くんでしょう」
「うん」
「宿に地図があるからあげるわね」

世話やきのお母ちゃんである。
女性の、とりわけ外国人の年齢は見た目でわからないのだが、ヤドランカは40代半ば、くるっくるの赤茶髪を肩まで伸ばした150cmくらいのお母ちゃんである。
キャッシュマシーン、いわゆるATMが何時までかはわからないが、現在が夜8時なのでなるべく早く行きたい。しかしヤドランカはコーヒーとビスケットを持ってきて、テラスで飲めと言う。
テラスからは夕暮れに染まるツァブタットの町並みが見えた。町並みというか、家々である。木々の緑のほうが割合多く見えたので、家々と言いたくなる。


砂浜が見えないし入江で穏やかなので湖に見えるが、アドリア海である。眺めているうちに街灯が明るくなってきた。
虫の声が聞こえる。

「なんだかまだ旧市街に行っていないのに、どうでも良くなるくらいいいね」
「ねー、綺麗だね」
「向こうに行ったら行ったですごいはしゃぐんだろうけどさ、ここで正解だったなってなんとなく思う」

時間が過ぎたのでなるようになるさとクレジットカードとユーロだけ持って食事に行く。
カードが使えなかったらどうしようと心配したが、あっさりと、一店目でカードOKと言われた。まあ、観光地だし、そりゃそうか。
対応してくれた店員さんは金髪のショートカットで、エマ・ワトソンのように眼力のある美人だった。スモールフィッシュ、トマトリゾット、蛸サラダを頼む。全部うまいが全部多い。特にスモールフィッシュはイワシぐらいの魚が素揚げの後マリネされていて、確かに一匹はスモールだが量が全然スモールではない。小魚の大盛り。謎。


お腹一杯食べても一人2,000円しなかった。
ワールドカップのクロアチア対ブラジルが始まり、店内の雰囲気が盛り上がってきたところでそそくさと帰って寝る。

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