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1991年のアフリカンなJ-POP ~久保田利伸&Sing Like Talkingからみるアフリカへの憧憬~

皆さん、ご機嫌いかがでしょうか?
アフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキです。

私ごとで大変恐縮ですが、歳をとるごとに視力が悪くなりましてですね、こうして文章を綴るのもなかなか労力のいる作業になってきました。皆さん、眼精疲労には気をつけてください。ホントつらいんです。私はメガネを新調することで無事に痛みが収まりました。

さて、今回は久しぶりの投稿となりますが、いつもとは視点を変えて90年代の日本の音楽シーンからアフリカを拾ってこようと思います。


久保田利伸 ~MAMA UDONGO~ 

リリースは1991年10月。シングル「Be wanabee」のカップリング曲として発売された「MAMA UDONGO」ですが、「UDONGO」はスワヒリ語で「」「大地」を意味しており、「母なる大地」という意味合いになるかと思います。

幼い頃に聴いたスティービーワンダーをはじめとするブラックミュージックに多大な影響を受けて音楽の道を目指し、ドラマ主題歌としても有名な「You Were Mine」「LA・LA・LA LOVE SONG」など多数のヒット曲を持つ久保田利伸さんですが、実は本格的R&Bスタイルを日本に根付かせた張本人でもあります。1998年に彗星の如く現れた宇多田ヒカルMISIAなどのR&Bシンガーたちが日本の音楽シーンで大成功を納めることが出来たのは、久保田さんの存在があったからと言っても決して過言ではないはずです。

ブラックミュージックのルーツを探った久保田さんが辿り着いたのはアフリカ音楽。実は高校生の時にはじめて作ったオリジナル曲は、TV番組で観たアフリカの風景や野生動物からインスピレーションを受けたアフリカンなリズムとボブマーレーのレゲエを合わせた曲だったそうです。

そんな久保田さん、実はこの「MAMA UDONGO」をリリースする前年の1990年10月にテレビのドキュメンタリー番組として、日本を代表するジャズサックス奏者の渡辺貞夫さんとコンビを組み、アメリカを出発してブラジルを経由しアフリカへと向かうブラックミュージックのルーツを辿る音楽旅行をしていました(放送は翌1991年3月)。

この番組、渡辺貞夫さんと久保田さんが一緒に旅をしてるだけでも相当凄いんですけど、ブラジルのバイーア州サルバドールでオロドゥン(バイーアで主にサンバを中心に活動する音楽団体)の取材中に、あのジルベルト・ジルが普通に出てきたりするんです。ジルベルト・ジルは、カエターノ・ヴェローゾと共に「トロピカリア」というムーブメントを起こしたMPBの最重要人物。さすが世界のナベサダ人脈!
また、ハーレムにあるアフリカ音楽専門レコ屋でお薦めされたレコードについて、久保田さんが「これは誰のレコード?」と尋ねた際に店員が「コンゴだよ。」と答えてるシーンがあるんですが、正しくはSyran Mbenzaの「Sauce bloquée」という曲です。映像をよく観ると、パーカッショニストでプロデューサーのラルフ・マクドナルドが棚からレコードを取る時に「Syran Mbenzaっていうんだ」と呟いてるんですが。一応参考までに。


更に久保田さん、1991年の11月30日~12月1日にナイジェリアのラゴスで開催された「The Children Of Africa Concert」に出演しています。

この時「MAMA UDONGO」ともう1曲、ジミー・クリフの名曲「Many Revers To Cross」のカバーを熱唱。その時の模様がこの動画なんですが、いやぁ圧巻ですね。メジャーデビュー5年目にして世界の舞台で堂々としたステージパフォーマンス。余裕すら伺えます。

せっかくなので本家ジミー・クリフのオリジナルもご視聴あれ。

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ところで渡辺貞夫さんですが、遡ること18年前の1972年にもTVのドキュメンタリー番組のリポーターとしてアフリカを訪れています。後に「アフリカが僕の音楽の柱の一つになったのは間違いない」とまで語った貞夫さん。ここから渡辺貞夫の5年に及ぶ「アフリカ時代」が始まります。詳細についてはこちらの記事でとても詳しくまとめてられていましたのでご紹介します。

記事の中で紹介されていた「アフリカ時代」を代表する名盤についてはサブスク音源がないので、渡辺貞夫さんオフィシャルサイトのリンクを貼らせて頂きました。

記事によると、貞夫さんは1974年にもアフリカを訪れており、この時はタンザニアで活動する海外青年協力隊員を描いた「アサンテサーナ/わが愛しのタンザニア」という映画の撮影に同行し音楽監修も務めています。ちなみにこの「アサンテサーナ」はYoutubeでも観ることが出来ます。



Sing Like Talking ~LA LA LA~ 

続いてご紹介するのは佐藤竹善さんを擁する「Sing Like Talking」です。
1985年に結成、87年に現在の3人組(佐藤竹善、藤田 千章、西村 智彦)となり、現在も第一線で活動を続ける大変長いキャリアを持つバンドです。

竹善さんといえばその声!というわけでまず最初はこのお話から。
10年以上昔のことですが、ラジオ番組(誰の番組かは忘れました)で「日本3大アカペラと言ったら山下達郎小田和正佐藤竹善だ」という話を聞いた記憶があります。実際、デビュー初期の頃に竹善さんは山下達郎さんそして小田和正さんのバックコーラスとしても活動していた時期があり、そのお二人から逸材認定を受けていたという話が残っているほど。

久保田さんと同様に、Sing Like Talkingもブラックミュージックのグルーヴをポップスの中で色濃く体現するバンド。これも有名な話ですが、以前竹善さんがレギュラーを担当していたTOKYO FMの番組企画で、ドリカムの中村正人さんと「どっちがシェリル・リンの『Got to be real』を元ネタにしてカッコイイ曲を作れるか?」という勝負をし、その時に生まれたのがSing Like Talkingが「Rise」でドリカムが「決戦は金曜日」でした。その為よく聴くと(よく聴かなくても分かると思いますが)「Got to be real」らしいフレージングが伝わってくると思います。

https://www.youtube.com/embed/kLKZ47xbQ-8?rel=0


さて、そろそろ話をアフリカに戻しましょう。
ご紹介する「LA LA LA」は1991年4月にリリースされた7枚目のシングルで「世界ふしぎ発見」のエンディング曲でもありました。当時は世界中で環境破壊が深刻化し、また湾岸戦争の勃発によって国際社会が不安定な状態を迎えていました。そんな時代背景を写し出すように「大切な命と美しい自然を守り続けていきたい」という強いメッセージを、アフリカの大地を感じさせるリズムに乗せて歌ったこの曲「LA LA LA」は、Sing Like Talkingファンの中でもとりわけ人気の高い曲となりました。

この他にもSing Like Talking的アフリカンテイストが感じられる曲として、例えば「今日の行方」は先程の「LA LA LA」にも通じるサウンドですね。他にも「Vox Humana」(ボックスフマーナ)というアフリカンパーカッションとエレクトロがかけ合う曲があります。

【今日の行方】
https://open.spotify.com/embed/track/0GKICc74YbFwa29j2MWkJv?utm_source=oembed

【Vox Humana】
https://open.spotify.com/embed/track/1PzZjUqIndcV7FUKd3q7ux?utm_source=oembed

ちなみにタイトルの「Vox Humana」はケニー・ロギンスの同名曲から来てるそうです。


さて、ここまでは「久保田利伸」「Sing Like Talking」という二組のアーティストの作品から、アフリカを色濃く感じられる楽曲をいくつかピックアップしてみました。なぜこの二組だったかというと、これらの曲を僕がリアルタイムで聴いていて強く印象に残っていたからです。

当時中学生~高校生だった僕が、他の日本のアーティストよりも「オシャレでカッコいい」と思った彼らの音楽は、ソウルやファンク・R&Bといったブラックミュージックがもつ独特の「何か」を漂わせていて、とにかくスタイリッシュでかつソウルフル。今まで聴いていたロックにはないその「何か」は、身体の動きでいえば縦ではなく横にスウィングする感じ。そしてそんな彼らの背後から姿を現したアフリカの音色は、新しい「何か」に触れたばかりの僕にはあまりに刺激的で印象的だったんだと思います。

ちなみにこの後に知る「Earth,wind & Fire」によって僕は更に鮮烈なアフリカ感を覚えることになります。アースもとにかくカッコ良くてオシャレでした。そう、僕が好きになるアフリカ音楽はいつも「クールさ」と「オシャレさ」があるんですよね。

ブラックミュージックにハマった多くの人は、久保田さんと貞夫さんと同じようにその源流を遡ってみたくなるのではないでしょうか。特にHip Hopが顕著なように、例えば「この曲のブレイクは〇〇の△△という曲をサンプリングしてる」といった引用も非常に多いですし、それらを掘り進めていくこと自体がまるで宝探しだったりします。
今私達が聴いているブラックミュージックとは、アフリカの人々が経てきた長い旅の上に築き上げられた壮大な作品であり、ブラックミュージックの歴史的背景を知ることは「近代以降の人類が何をしてきたのか」を学ぶことでもあると僕は思います。差別や偏見や争いのない世界を望むからこそ僕たちは、アフリカの大地に畏敬の念を頂くのかも知れません。
音楽旅行の中で久保田さんが何度も口にしていた「ママ・アフリカ」という言葉が僕は今回とても印象に残っています。この動画を見つけられて本当に良かったと思ってます。

ところで番外編ですが、今日ピックアップした以外で最初に思いついた曲は、なんとプリプリの「ジャングルプリンセス」でした(笑)。これをアフリカと言っていいのかは微妙ですが。


もちろん、日本の音楽の中で感じられるアフリカのエッセンスはまだまだ他にもあります。ただそれは次回のお話。もっとアフリカ色が濃くなると思いますので、是非次回も読んで頂けたら嬉しいです。

以上、ここまでのお相手はアフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキでした。良いGWをお過ごしください!

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