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ビヨンセの「The Lion King: The Gift」がアフリカにもたらすギフトとは?

2019年の夏にリリースされたビヨンセの「The Lion King: The Gift」は、映画「ライオンキング」からインスパイアされて誕生した、彼女いわく「Sonic Cinema」(聴く映画)というコンセプトの新しいタイプのアルバムです。

注目すべきは現代のアフリカンアーティストがビヨンセのキュレーションによってフィーチャーされていること。このアルバムに収録されている曲やゲストに対する解説は、こちらの「block fm」の記事に詳しく紹介されていますので、僕のような素人が説明するより何倍もよく理解して頂けるかと思います。


というわけで、まずはこのレビューに出てこなかった2名のアーティストについて、ちょっとだけ僕からご紹介させて頂きますね。


Tiwa Savage(ナイジェリア)

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The Gift」の中ではBeyoncéMr.EAZIと共に「Keys To The Kingdom」という曲にジョインしたTiwa Savage。すでに2017年にはWizkidをフィーチャリングした「Ma Lo」や、美しいビーチで際どい水着を身に着けたMVが印象的な「All Over」など、いくつもヒット曲を持つナイジェリアのポップシンガーです。


The Gift」参加後には、ベルリン発のYoutube人気音楽コンテンツ「A COLORS SHOW」で最新シングルの「Attention」を披露しています。
ナイジェリアらしいというか、僕の好きなメロウアフロポップですね。この辺を聴いているとUKのフューチャーソウル系なんかと結構相性が良さそうだな、なんて思ったりします。



Moonchild Sanelly(南アフリカ)

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Ghetto Funkのプリンセス、色々やらかしそうな雰囲気しか漂ってこないMoonchild Sanellyは、同じ南アフリカのBusiswaDJ LAGらと共に、南アの最新サウンドGQOMのビートがうねる「MY POWER」に参加してます。

初めてこの曲を聴いた時、曲の一番最後の短いVerseで僕は最も強烈な印象を受けました。それがまさにMoonchild Sanellyだったんですね。Nijaが繰り返すメインコーラスの「They feel a way~」の後ろで「ワォワォ♪」とか「エィ!」とか言ってるのも、おそらく彼女なんだと思います。そしてトラックを作ったDJ LAGGQOMシーンの有名プロデューサー。アメリカの音楽シーンにGQOMを持ち込むという、この辺りのキュレーションにもビヨンセのセンスが光ってますね。
ちなみにこの曲のバックに流れてる群衆の歓声、実は1974年にザイール(現コンゴ民)で行われたジョージ・フォアマンモハメド・アリの歴史に残る名勝負「キンシャサの奇跡」の歓声がサンプリングされているらしいです。


GQOM」繋がりでいくと、こちらもやはり南アフリカで人気の「DJ Maphorisa」にフィーチャーされた「iWalk Ye Phara」。
ちなみに曲とは全く関係ないですが、MVの冒頭に出てくる縦目のハイエース、めちゃくちゃ懐かしいです。




さて、今日はこのアルバムがアフリカにもたらすものについて、僕が今感じていることを少し書いてみようと思います。

2017年に出版された雑誌WIREDの「アフリカ特集」の中で、「他国の音楽に対する興味という観点からみると、アメリカという国の文化は基本的にはド保守」と述べられているように、現在のアフリカにおける音楽輸出の先進国ナイジェリア南アフリカの音楽やミュージシャン達をいち早く受け入れ発信していったのは、おそらくヨーロッパ、特にイギリスだったんだろうと思います。



特にイギリスは元々この二つの国の宗主国であったという歴史的な背景も関係していると思います。例えば「Sade」のヴォーカル・シャーデー・アデュキザイア・ジョーンズ(どちらもナイジェリア出身)などは、幼い頃家族と共にイギリスへと留学し、それぞれ80~90年代にロンドンで音楽的成功を収めた代表格です。

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また、2010年代に入ってからUKに限らずヨーロッパのクラブシーンでじわじわとアフリカンミュージックが熱を帯びてくるようになります。 P-SQUAREFuse ODGなどがその牽引役ですね。この当時の詳細な様子はDJ HOKUTOさんのブログで紹介されていますので、興味があればぜひご一読ください。


思うに、1960年前後に起こったアフリカ独立運動当時に力を持っていた有力者の子供たちが海外留学しその才能を開花させ始めたのが80~90年代。そうやってヨーロッパに移り住んだ世代の子供たちがクラブなどでコミュニティの一員として日常的に集い、オーディエンスとしてDJにアフリカンビートを求めるようになったのが2010年代。仮にそういった仮説を立ててみると、今のWizkidDavidoBurnaboy達のような世界的アフロポップスターが誕生する地盤は、少しずつ時間をかけながらも着実に築かれていったのかも知れないな、と感じます。


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そこに今回ビヨンセの「The Gift」という流れになってくる訳ですが、この「The Gift」以降に起こる変化を少しだけ想像してみます。

まず「あのビヨンセがキュレーションした超イケてるアフリカンアーティスト」というリコメンドが付くことで活躍の場を広げるアーティストが出てくるのは間違いないでしょう。そして、これをきっかけに他のアフリカ音楽やミュージシャン、あるいはダンサー達に新たなスポットが当たるようなトレンドが生まれることも予想されます。
特にこれまで他国からの進出についてはハードルの高かったアメリカ市場にビヨンセがあける風穴の大きさはかなりの影響力ではないでしょうか?
すでにDrakeNicki MinajCardi BなどのビッグネームともコラボしてるWizkidは別として、若いアーティストにとってのこの架け橋は渡りに船。

また、音楽に限らずファッション業界においてもアフリカンテイストがじわじわ主役を取りにきてるような流れも感じますので、これからアフリカンアーティストが有名ファッション誌の表紙を飾る回数が増えるかも知れません。特にナイジェリアのラゴスはファッションの分野も進んでいますので、それらのブランドも更に露出の機会が増えていくでしょう。

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また、アフリカンアーティストの世界的な活躍によって、アフリカで開催される音楽フェスがより大規模でワールドワイドなものになっていく可能性があります。例えば、モロッコのラバドで開催されている「MAWAZINE」などは250万人以上の集客を誇るビッグフェスに成長していますが、それ以外の国や地域でも大規模フェスがどんどん立ち上がったり、あるいは現在すでに開催されている一部のコアなファンのみに知られる「Nyege Nyege Festival」のような中小規模のフェスが成功して大きくなっていく可能性もあります。それに歩調を合わせるようにしてホテルなどの観光関連も伸びていくことでしょう。

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(MAWAZINEの会場の様子)

それとは逆にロンドンで開催されているWizkidの「Starboy Fest」のように、アフリカ以外の国々でアフリカンアーティストが勢ぞろいするようなフェスも十分考えられますね。


アフリカにおける音楽を含めた今後のエンタメ産業の可能性というものを見ていくと、ビヨンセが自身のルーツとしてのアフリカを最大級にリスペクトしながら、これからアフリカのアーティスト達が世界に認められやすくなる為に必要な河川を整備したという側面と、それとはまた別な側面として、これから世界の音楽市場に流れていくアフリカンミュージックという水を行き届かせる水道も張り巡らせていた、と見ることができます。
それは彼女が誰よりも音楽を愛する世界最高峰のエンタテイナーであると同時に、優秀なビジネスパーソンでもあるということの証明だと思います。
その辺の音楽ビジネスにおけるビヨンセのマーケティングセンスの妙については、コーチュラでの「HOMECOMING」に関する2つの記事で詳しく解説されていますので、もしよろしければどうぞ。


という訳で、今回はこの「The Gift」というアルバムが、今後アフリカのエンターテイメントシーンとアフリカの経済発展に対してもたらすGiftは大きな意義があるのではないかと感じたところから色々書き綴ってみましたが、最終的には、

「実はビヨンセ自身にもかなりのギフトがあるんじゃないの?」

という結果になりました(笑)
お読み頂きありがとうございました!!金属製蝶ネクタイ「Metal Butterfly」プロデューサーでアフリカ音楽キュレーターのアオキシゲユキでした。

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