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消していく教育


生きるとは、ねじ曲げられたものを、ねじり返して、真っ直ぐにすること。


(1)講演から講義へ

 教育の仕事に携わって30年近くなる。最初は、専門学校や大学で非常勤の講師として教える立場になった。80年のはじめに「企画書」という本を出して、マーケティング調査やコンサルの仕事をやる中で、企業やセミナー会社の講演会をやってきたので、教壇で話すことに不安はなかった。僕の場合「講演はライブ」と思っているので、若い人たち相手の授業は楽しかった。

 80年代の講演会の資料はないが、90年代のがたまたまあった。実にテーマは、バラバラ(笑)。さまざまな場所で、さまざまな相手に向けて語った経験は、僕にとって、とても貴重な体験であった。

1990 青年部講習会 調布市
1990 子どもニーズ研究会 バンダイ本社
1990 高崎高校2部学園祭 高崎高校
1990 街の達人会議 朝日広告社大阪本社
1990 住友不動産大阪
1991 清和会(水道橋)
1991 ルーキットクラブ(飯田橋)
1991 羽村商工会議所
1991 エコビジネスについて スプリット・オブ・プレイス仙台(カタツムリ社)
1991 92年度の予測 日経消費フォーラム
1992 佐賀銀行支店長研修会(3日間研修)佐賀銀行/金融財政事情研究会
1992 会員制組織の研究 大成建設(新宿)
1992 就職研究会 フォワード
1993 21世紀ビジョンプロジェクト 博報堂
1993 商品開発研究会 販売実務協会
1993 若者とメディア 毎日新聞社
1993 女性マーケッターの会
1993 勉強会 藤岡和賀夫事務所
1993 きものの未来 京都中小企業家同友会きもの関連産業部会/繊研新聞社
1994 勉強会 ロイター
1994 ジャクマクラブ勉強会 ジャクマ
1994 ニューメディア祭マルチメディア入門 郵政省/静岡県/浜松市
1994 広告の未来 電通
1994 帯広マルチメディアシンポジウム 帯広市
1994 カラオケについて ぴあ総研/マルチメディア・フォーラム
1995 生意気の構造 知的生産の技術研究会
1995 EPC定例勉強会 EPCタウン情報全国ネットワーク
1996 マルチメディア時代のサービス 博報堂・NTT
1996 インターネット時代 帯広青年会議所
1996 マルチメディア時代のビジネス 武蔵野研究所/NTTラーニング
1996 多様化時代の若者たち 三井不動産
1996 デジタル社会の潮流 横浜政経勉強会
1996 参加型メディアとマーケティング革新 ネットシティビジネススクール
1996 ネットワークの本質 リクルート電子メディア事業部
1996 21世紀の消費者と社会 日経消費産業研究所
1996 切手と手紙研究会 郵政省/電通総研
1998 デジタル時代の考察 苫小牧商工会議所
1998 情報化の進展と生活意識の変化 日経産業消費研究所
1998 情報メディアシンポジウム98/インターネット商品開発 社団法人情報処理学会
1999  第15回コミュニケーションフォーラム運営委員会


(2)講演と教育の違い

 単発の講演から、半年単位で15コマの授業を引き受けるようになって、最初は戸惑った。講演会に参加する人は、少なくとも私の話に関心のある人が集まるから、それなりに一所懸命に聞いてくれる。仕事につながる話だから、眠ったりする人はほとんどいない。

 しかし、学校の授業を受ける子で、僕自身に興味のある学生はいない。だいたい、先生が何者なのかを学生は知らない。彼らは、授業に出て単位が欲しいだけなので、言われたことを覚えようとするが、自分なりに考えるということはしない。

 僕は、客観的な知識をただ説明するようなことはしたくないので、自分なりの切り口で講義するのだが、彼らにとって、必要なのは、切り口ではなくて、知識や事実関係だけである。「ああ、学校というのは、そういうところだよな」と、思い出した。

 講演会をやると、そのあとに質問が来たり、連絡があったり、実際、いくつもの仕事に結びつくこともあった。学校では、ほとんど、そういう反応はなかった。

 ただ、講演と学校教育の違いは、講演は単発なので、その時に出会うしか縁がなくなるが、学校だと半年や一年の付き合いになるので、その時間と、同じ場所を共有した中で、関係性を築けた学生もいる。卒業後に僕の事務所でバイトした子も何人かいるし、いまだに、パーティがあれば参加してくれる昔の学生もいる。

(3)深呼吸学部

 そして2020年。外出もままならないコロナ・パンデミックの中、「深呼吸学部」を開始した。毎週土曜日、20時に開始して、日をまたぐことが当たり前の密度の濃いい時間である。現在、48週目。

 参加してくれた人は、ほとんど、初対面の人ばかり。橘川の本や発言を聞いて関心を持ってくれた人たちだ。

 つまり講演会のように「私のことに関心がある人」が集まって、なおかつ学校のように「定期的な時間と場を共有」することも出来たわけである。

 48回も講義を続けるためには、僕自身は、これまで10代から最近まで、考えたことや体験したことを、洗いざらいぶちまけて、なおかつ整理して話す必要があった。これは、僕にとっても、とても実りのある体験であった。


(4)プラマイゼロ

 そして、僕がやりたかった「教育」というものが、ようやく分かったような気がした。これまで、学校の教壇に立って教えることに、何か居心地の悪さを感じていた正体が分かった。

 僕は、10代から「参加型社会」を目指して生きてきた。それは、何かの権威によって、一方的に知識を植え付けさせられるのではなく、一人ひとりの自発性によって、それぞれが新しい可能性が広がっていくのが、僕にとっての「教育」だったはずだ。

 僕は、塾生たちに「新しい思想」「新しい考え方」「新しい情報」を与えることが教育だとは思っていない。むしろ、そうやって、社会から刷り込みされて外部の知識をはぎとって、「プラマイゼロ」にすることが、この時代の教育の意味だということを、48回の講義をやることによって、理解することが出来た。

 教育を、知的武装することだと思っている人は、勝手に知的戦士になって戦場に向かえば良い。参加型社会は、新しいネタではない。そうした外部からの知識を消去して、一人ひとりがゼロからスタートすることだ。

 塾生諸君の、これからのスタートを楽しみにしている。それは、もう僕の指導の範囲を超えていくものだ。

▼プラマイゼロの講義

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