わくわくが止まらない2

　2020年という年は、これから長い間、人類が語り継いでいくだろう。一体、人々は何を語り継ぐのだろうか。混乱と疲弊した社会構造の中で、コロナ以前の豊かさを懐かしむのだろうか。それとも、2020年を契機にして、人類が新しい次元の目標に向かって大きく前進したことを語るのだろうか。

　コロナ状況の中で、大学の講義はオンラインになった。クライアントとの打ち合わせもZoomになり、事務所にも週一度くらいしか行かなくなった。そうした状況の中で、Zoomでのイベントや会合が増えた。自著「参加型社会宣言」が6月に発行になり、田原真人くんが、Zoom読書会を仕掛けてくれて、一ヶ月で40回近くのZoom読書会が開かれた。そこで、新しい人たちと出会った。8月に、江丹別の熱中小学校があり、僕は講師だったのだが、年齢と昨年、片目を失明したり、他にもいくつか疾患を持っていたので、オンラインにしてもらった。そのオンライン雑談会で平野友康くんと出会った。平野くんの仲間たちとも、続々と出会った。

　そうこうしているうちに、田原・平野くんは橘川の「弟子」になった。言っておくが、弟子というのは本気ではない(笑)。僕は、生きているうちは、師弟関係を作らない。僕の師にあたる故・林雄二郎とは30年以上付き合ったが、生前は、友だちであった。林さんが亡くなってからは、僕は、林さんのことを師匠と呼んだ。生きているうちは、お互いに影響与えている友人だが、相手が亡くなったら、彼に何も与えられなくて、受け取るばかりだから、師弟関係になる。師弟関係とは、師が一方的に弟子に情報を与えることだと思っている。

　しかし、50歳を超えた時に、自分の人生は、もう終わりで、これまでの経験を若い世代に伝えていくだけだと思ったから、師弟制度を認めて、登録システムまで作った。もう自分の前向きな人生は終わったと思った(笑)。

　田原・平野くんは、師弟関係ではなく、生涯の友だちである。これも言っておくが、僕には、生涯の友たちがたくさんいる。というより、友だちとはそういうものだと思っている。仕事やプロジェクトが終わったら雲散霧消する関係に興味はない。僕にとって、ロッキング・オンの仲間は、生涯の友であり、家族みたいなものだ。

　さて、それでも、田原・平野くんに対して「君たちは僕の弟子だ」と伝えたのは、意味がある。伝えたいものがあるからだ。

　僕は、20代で雑誌を創刊し、参加型メディアのプロトタイプ開発に没頭した。30代になって、そうした経験を踏まえて、書籍という個人的執筆作業で、参加型社会の理論的構築を行ってきた。僕の人生は、現実的なシステム構築のプロジェクトに没頭する時と、その経験を反芻して、文章としてまとめる作業に没頭することの繰り返しであった。

　60歳を超え、70歳になった時、僕の人生では、僕が理想としてきた本当の「参加型社会」は、端緒にも届かないな、と感じていた。しかし、コロナ状況になり、古い社会秩序が機能停止になり、オンラインによるP2Pコミュニケーションが、多くの人の利用することとなり、自分の内部の何かが一気に走り出す気配を感じた。その時に出会ったのが、田原・平野くんである。

　ああ、そうか、と思った。僕の目指した世界を、彼らにバトンタッチしていけばよいのだ、と。理論的なことは、田原くんに委ね、参加型メディアなどの実践的なノウハウは平野くんに委ねればよいのだと思った。いわば、体験と実感の、生前贈与である。

　田原くんには、1ヶ月で単行本を書いて、と無理な注文をした。2ヶ月になったが見事に仕上げてくれた。これは、まだ田原くんの新しいスタートラインに過ぎない。これから、もっと、独自の世界を築いていくに違いない。平野くんには、次から次へと、参加型メディアのテーマを投げつけている(笑)。その中で、どうやって最初のセルモーターを回すのか、編集者と著者の関係をこれまでと変えるのはなぜか、みたいな投げかけをしている。あわせて、なるべくたくさんの友人を彼に紹介していきたい。僕の財産は人脈だけなので、これは、墓場に持っていけない。

　さて、これまでの経験は、二人に全部渡してしまいたい。その上で、ああ、安心して、全く新しいことを始められそうだ。わくわくが止まらない(笑)