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「女子高生いま」が発売になります。


「女子高生いま」バジリコ (2023/8/4)



1.マーケティングの世界

 マーケティングの世界を教えてもらったのは、子ども調査研究所の高山英男さん(故人)からである。10代の終わりの頃、書評新聞の読者欄に投稿した私の原稿を読んだ高山さんが、新聞社に連絡をして私の家の電話番号を知り、連絡してくれた。メディアの海の中で、私の言葉を拾ってくれた最初の人が高山さんである。

 高山さんは、もともと編集者であり、横浜の小学校の先生であった阿部進(カバゴン)を発掘して書籍デビューさせたり、映像作家の松本俊夫の「映像の発見」を編集したり、編集者として戦後社会に影響を与えていた。その後「子ども調査研究所」を設立し、60年代以後の高度成長の中で、さまざまな子ども向け商品の開発にマーケッターとして関与してきた。

 編集者とは実務的な編集作業をする人であると同時に、何もないところから才能を見出し、背中を押して世の中に登場させる役割がある。高山英男さんは、そういう意味でも戦後の名編集者であった。更に、それまでの大人目線での子どもの捉え方ではなく、子どももまた現代を生きる同時代人である、という認識で、たくさんの子どもたちに上からの目線ではなく接し、インタビューをし、グルインをし、アンケート調査をして分析していた。

2.同時代人としての若者

 高山さんには、たくさんお世話になった、「グリコのおまけ」の開発は40年近く、子ども調査研究所が関わっていた。グリコで現代子ども研究会を実施し、最近の子どもたちが何に関心があるのかを、さまざまな視点で集め、定期的に高山さんたちは、大阪のグリコ本社で研究会を実施していた。時々、ゲストも呼ばれて、私も何度か連れていかれたことがある。ロッキング・オンをやっていた時代だ。

 子ども調査研究所の仕事で、グルインに同席したり、アンケート分析会議に参加したり、いろいろな研究会のメンバーに呼ばれたりした。81年に、「ロッキング・オン」と「ポンプ」「たちばな写植」を同時に辞めた時に、高山さんは心配してくれて、いろんな企業の仕事を紹介してくれた。「商品全力疾走」(東洋経済新報社)という本を一緒に作ったこともある。

 子ども調査研究所の調査対象は「子ども」(小学生)「若者」(中・高・大学生)だったので、私の担当は、「若者」の方であった。自分が独立してからも、トヨタ自動車、ホンダ技術研究所、松下電器産業(パナソニック)、バンダイ、ベネッセなど、多様な企業からの若者意識調査を頼まれた。

 若い世代に対する私の向かい方は、高山さん直伝である。すなわち、大人や先行者の視点ではなく、同じタイムラインを凝視めている同時代人として、彼らがどのように現在を見ているのか、という視点である。

3.「女子高生いま」出来ました。

「女子高生いま」(令和JK子どもの引き出し)は、多くの女子高生たちにヒアリングやインタビューを重ねて、14のクラスターを分類して、整理した。

◇目次

1|自立型表現者
こだわるJK。自分で小遣いを稼ぐオタク系絵師|蔵田菜々
2|ポジティブなマイノリティ
やりたいことを自己責任でやる。壁のない社会をつくりたい|佐々木冴
3|学外活動派女子|
せっせとバイト。年上の友だちと推し活に邁進中|脇田咲桜
4|生来のリーダー気質
リーダーは面白い! 勉強そっちのけで部活の日々|加藤知恵
5|メタJK
ネット高校で広がった世界|末次佑子
6|青春謳歌系女子
小さなことにも幸せを感じる日々|長谷川晶
7|デジタルネイティブ・ガール
生まれた時からデジタル・ライフ、ゴーグルつけて毎日VR|舟木恵奈(
8|家族最優先のヤングケアラー
兄は障害者。でも家族だから愛してる|木島春奈
9|天然マイペース少女
イモから抜け出せ!|千野恵
10|都会派クール
自分がイチバン、メンタル強め。縛られるのは好きじゃない|鮫島青子
11|ピカピカ自分磨き
校則をかいくぐってスクールメイク|大角麗
12|SDGsガール
不平等や不公正をなくすため起業を目指す|高坂八重
13|漂流する病み+界隈系女子
居場所は家でも学校でもなく、歌舞伎町|竹野りな
14|人生刹那系JK
パパから、ホストから可愛いと言われる毎日|石川綾

令和に生きる女子高生たちの心象風景|橘川幸夫×淵上周平

4.メタ世代の登場

 現在の16歳は、2007年(平成19年)生まれになる。その時代に何が起きたかというと「初代iPhone」が発表・発売された年である。

 これまでにも「生まれた時からテレビがあった世代」「生まれた時からインターネットがあった世代」という呼ばれ方はあったと思うが「生まれた時からiPhoneがあった世代」というのは、メディア世代の新しい段階だと思う。スマホは、メディアが自分の外側にあるのではなく、むしろ内部にあるとも言えるのだろう。これから「生まれた時からChatGPTがあった世代」になっていくのだろう。

 2007年無前後生まれの世代を、生まれた時からiPhoneがあった「メタ世代」と呼びたい。

 私はもう若者のカルチャーからは遠いところにいるので、若者たちの生活実態に触れることはない。しかし、同時代人として、高校生、特に女子高生の世代には何故か惹かれるものがあった。

 15歳から20歳までの平手友梨奈を追いかけ、首都圏のライブはだいたい行った。昨年は、女子高生のSuzuちゃんに、はまり、20人くらいのライブにも行ってきた。

欅坂を散歩して

Suzu Toyama『16 Sixteen』

なぜか、女子高生の持つ、感性と未来に期待を持ってしまうのだ。そういえば、一時、聞きまくっていた椎名林檎の好きな楽曲も、ほとんど女子高生の時に作った曲だった。

椎名林檎 17


5.新しい時代のマーケティングへ

 90年代にインターネットがはじまり、それと平行してマーケティング調査というものが定量的な数量解析が中心になり、POSデータの解析など、システムで実施されるようになった。またABテストみたいな単純な右か左かの分かりやすい判断が求められた。

 80年代バブル以前のように、メーカーの開発担当と、マーケティング調査会社のスタッフがグルインやアンケート調査の定性分析を、喧々諤々とやって、新しい商品開発の議論をするというようなことは、時代遅れになってしまった。21世紀になると、電通もマーケティングのセクションそのものを廃止してした。商品の質よりも、量や売り方の仕掛けの方が重要視されたのだ。

 その結果、70年代までの開発者の匂いのする新商品が日本からなくなってしまったような気がする。

 2023年、ChatGPTの流れが社会を大きく揺らしている。私は、これからは、データ処理のマーケティングや、単なる知識の二番煎じのような書籍は衰退していくと思う。

 代わりに、そうしたデータをフルに活用した上の構造で、生活者の匂いや気配のするアナログなマーケティングが復活すると思うし、著者が人生を賭けた少数の書籍が新しい市場を作りだすと思っている。

 本書の発行を契機にして、私たちは、新しい「世代論」を調査研究するプロジェクトをはじめる。「団塊の世代」「団塊Jr(70年生まれ)」そして「高校生」たちの生活と意識をチームを組んで調べていく。

 企業の関係者の方、ご注目ください。

 私としては、「女子高生だけで作る女子高生ポンプ」の創刊をサポートしていきたいと思っている。未来が覗けるはずである。

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