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これから大きく変貌する広告の意味と役割。

橘川幸夫



(1)消費者の意外な反応

 もう10年以上前の話だが、ある大手飲料メーカーの子会社の新規事業に関する気分調査を行ったことがある。顧客対象が団塊世代だということで、その世代の男女を対象に、さまざまなテーマで調査を行った。団塊世代のトップランナーがそろそろ定年退職を迎える季節だったと思う。

 さまざまな調査テーマで「一言、言いたい」という団塊世代の特徴が出ていて面白かったのだが、事前の予測とは違う回答が集まった項目があった。それは「サントリー」「資生堂」と言う、ブランド戦略に評価の高い企業に「気分度が低い」という評価が現れたのだ。更に、回答を読み込んでいくと「宣伝は上手いけど価格が高い」「広告が綺麗すぎて裏がありそう」などという、調査対象者の発言が現れてきた。

(2)戦後広告文化

 戦後の日本の高度成長は、生産力の向上による「大量生産」によって成立した。大量生産モデルが実現すると、それを大量販売する必要が生まれ、広告産業が肥大化した。日本の高度成長の成功は、メーカーの生産力向上と、広告代理店の販促力や市場調査能力の結合にあったと思う。

 一般消費者にとっても、豊かな社会の実現で、商品への欲求は高まり、大量宣伝をする企業は、それ自体が、商品の品質保証の意識につながった。「これだけ大量に宣伝する力のある企業であれば、弱小企業の作る商品より、品質も価格も勝っているはずだ」という認識が定着した。そうした消費者の購入欲求に合わせて、広告代理店は、巨額の制作費を使って、超一流のクリエイターと制作費を使ってテレビCMを放送してきた。1970年代は、日本における広告文化が花開いた時代だと思う。

 一般に、総売上の広告費が占める割合は、「化粧品業界で10%」「飲料業界で5%」「不動産業界で4%」「教育業界で3%」「自動車業界で2%」と言われてきた。企業が右肩上がりで成長していく過程においては、広告業界も、そのまま成長出来た。また、業界には、時代のトレンドによって成長する業界と衰退していく業界があるが、広告業界は、常に、その時代の成長企業だけが広告出費を増やしていくので、衰退ということはありえなかったのである。だから、広告業界の人と付き合っていると、「今は、どの業界が上り調子だ」ということが分かった。

 日本の「豊かな社会」は、「大量生産・大量流通・大量破棄」という構造で成立した。もうすこし正確に言うと「大量生産・大量広告・大量流通・大量破棄」という構造になる。その結果、不必要な商品が大量に生産され、破棄出来ない廃棄物が世界を覆ってしまった現実に私たちは生きている。「大量広告」が成立する方程式は終焉を迎えているのである。

 やがて、大ヒット商品やベストセラーを素直に喜べない時代が来るだろう。


(3)20世紀型広告モデルの終焉

 10数年前の団塊世代気分調査の時に、外資系の広告会社の人間にヒアリングしてみた。アメリカではどうなっているのか、と。アメリカでも同じ現象が起きていて、「大量宣伝をする企業は、その広告コストが商品価格に反映しているのではないかという消費者の意識が高まっている」ということだ。

 これは、インターネットの普及による、人々の意識変革が大きな要因だと思う。テレビやマスメディアの一方通行状況による企業情報の選択の時代は、与えられた情報を、個人がそれぞれ判断するしかなかった。「賢い消費者」と言っても、企業が与えた情報を吟味するぐらいで、それすらも、イメージや雰囲気に流されていた。商品の価格決定における広告の意味みたいな構造までは、誰も気にしなかっただろう。

 それがインターネットの時代になり、より多様な情報を個人が判断したり、ネット上で企業が望まない情報を入手したりして、一方通行メディアの時代のように、大量宣伝によるイメージ戦略がきかなくなってきたのではないか。

 20世紀型の、組織中心の社会から、個人と個人を結ぶ、1対1(P2P)の社会に世界は移行しつつある。企業組織もまた、ひとつの「個人」として、消費者個人と、関係を結ぶ時代に移行しつつあるのだ。

 東京オリンピックは、20世紀型広告モデルの最後の巨大な万里の長城として、遺跡化するだろう。

トヨタ「五輪CM取りやめ」で明らかになった、広告業界の「大きな変化」


(4)紙飛行機作戦

 そして、私たちが模索を開始しているのが、より1対1の関係性を根底においた、広告戦略である。

 何かを創ったり、何かを始める時に、それを多くの人に知らしめることは重要である。広告は時代とともにあらねばならぬ。それは、外国の成功モデルをそのまま移植する方法では、中身がついてこない。私たちは、自分たちの思いと願いで、自分たちの手法を育てていかなければならないのだ。

 完成したモデルはない。一緒に作っていきたい人との出会いを求めている。広告の可能性を追求する人を、ずっと、求めている。

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