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追悼・大林宣彦さん


大林宣彦さんが亡くなった。享年82歳。


映画監督の大林宣彦さん 肺がんで死去 82歳


 私は、大映画監督になった大林さんに、ほとんど興味がなかった。
学生時代に新宿アートシアター(ATG)の地下にあった蠍座で観た、大林さんの初期の実験映画とコマーシャルフィルムの数々に圧倒された印象にこだわりたかったからである。

「Complexe=微熱の玻璃あるいは悲しい饒舌ワルツに乗って 葬列の散歩道」(1964年)
「遥かなるあこがれギロチン・恋の旅」(1968年)
「EMOTION=伝説の午後=いつか見たドラキュラ」(1966年)

 これらの実験映画は「現代詩」であった。映像の現代詩。それは詩=言葉に恐るべき力を感じた時代の産物であった。詩に力があったのではない。詩に力があると思い込めた時代に力があったのだ。それはAIに進む今の時代に一番不足している力だと思う。

 1960年代の末期、「狂った17歳」「危険な19歳」と呼ばれた世代が社会に登場するようになった時、新宿で、大林さんの現代詩映画を観れたことは僥倖である。そして、蠍座での、大林さんの映像フェスで、同時に観れたのが、大林さんと電通が組んで作った、コマーシャル映画の数々である。トヨタ自動車の美しいCMは、今でも映像の中の、風の肌触りを覚えている。それは映像による抒情詩であった。

 身銭を切って商売抜きで作り上げた実験映画と、電通が潤沢な資金で世界中のスターのブッキングを行い、CMという、ものすごく短い時間に、時代の生命を結晶化して見せた。

 60年代の大林さんの行為を見て、多くの内発的エネルギーをもらったクリエイターは無数にいると思う。その後の本人の映画監督としてのブレイクが、余技と感じられるだけの時代の出来事だったと思う。

 映像の機器やフィルム代が激安になり、CMのビジネスモデルも完成している現在、必要なのは、「60年代の大林宣彦」なのではないかと改めて思う。YouTuberも電通も頑張れ。必要なのは「詩心」である。

 謹んで、お悔やみ申し上げます。合掌。


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