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小説・占い師の時代(4)第四章「占い師になってみて(田岡源太郎の独白)」


占い師になってみて(田岡源太郎の独白)

(1)ボイド占い

 1980年代後半のバブルの最中に、ボイド占いの大家であった石川源晃さんと知り合った。銀座の交詢社の近くの古いビルの中に事務所があった。その頃、世話になっていた新宿の三大地上げ屋の一つと言われていた小さな不動産会社の社長がボイド占いにはまって、土地取引の日程はすべてボイド占いで決めていた。それで、社長から、石川さんに会って「ボイド手帳」を作れと言われて、接触した。

 その頃は、今ほど「ボイド占い」の知名度はなく「知る人ぞ知る」ものだったので、石川さんも積極的に協力してくれた。社長は「ボイド手帳」や「ボイドカレンダー」を私的に作って、自分たちや、取引先に配ったりしていた。

 石川さんは、東工大出身で、海軍の技術研究所にいた技術者である。よく考えると、石川さんは同じく東工大出身で戦争中は技術院にいった林雄二郎さんの後輩なんだな。

 石川さんの話では、海軍の時代に、軍艦の大砲の弾道計算を専門にやっていて、的中率を高めるレーザー測定の技術開発をしていたと言っていた。その計算能力と素質で、星の運行計算を行い、星と星とが干渉して通常の星占いが混乱する時間を「ボイド時間」と言う。。

 欧米の星占術では、昔から「ボイド時間」は「星占いをしてはいけない時間」であり、星占術者にとって魔の時間であった。石川さんが言うには、欧米の政治指導者には、お抱えの星占術者がいて、政治的決断をする時は相談するのだそうだ。

 「ボイド時間」は未来を占う時に混乱するので、未来へ向けての決断する時は、その時間を避けると言う。石川さんは「だから、逆に、芸術家やクリエイターは、その時間に創作すると、思いもしなかった作品が生まれる可能性が高い」とも言っていた。

 そういう話から、当時の地上げ屋さんたちは、ボイドの時間には、契約の捺印を押すのを避ける人が多かった。自分の判断で大きな不動産を購入するわけだから、何かに頼りたかったのだろう。

 石川さんは技術屋である。科学とか法則を信奉する人ほど、不確定でオカルト的な考えにいかれてしまう人は多い。統一教会やオウム真理教の荒唐無稽な教えに多くの東大生や秀才たちがいかれていまうのは、科学や法則を追求すれば、必ず理解不能な領域にぶつかるからなのか。

 しかし、石川さんは、オカルト的な星占術には否定的であった。むしろ、数学や科学の信奉者であった。なんの根拠もなく、インスピレーションだけで他人の人生を占う人を、むしろ嫌っていたように思う。私は、石川さんの風貌に、大学の研究室でひたすら文献漁りと計算をしている老科学者の姿を見ていた。

 新宿の小さな不動産屋さんは、ボイド占いのかいもなく、バブル崩壊の大きな波に翻弄され、銀行からの貸し剥がしで1000億円の負債とともに崩壊した。

(2)占い師になってみて

 私はまだ占い師の初心者である。しかし、占い師のベテランとは何なのだろうか。たくさんの人の手相を観た人のことか。

 占いには様々な流儀がある。亀の甲を焼いたり人相・手相を観たり、トランプやサイコロみたいなものもあり、風水や星の運行によるものもある。現代の占いは、占い師が、その方式について書かれた本を熟読して、そのパターンを伝えるだけのものが多い。

 だから、何万人の手相を観ても、言うことは変わらない。これって、組織的な霊感商法とどこが違うのか。教える側のパターンや法則に、個人の考えを閉じ込めるだけではないのか。

 知り合いで「池袋の父」と呼ばれているインチキ占い師がいるのだが、そいつに言わせると、「占いなんか簡単だよ。女の客には、『あなたは本当の自分と、周りから見られている自分の姿とは違いますね』と言えばよい。男の客には『あなたには、人に言えない過去がありますね』と言えばよい。あとは、このバリエーション」と言っていた。ひでえ占い師だ。

 だから私は、そういうマニュアルのある占い師にはならないでおこうと思った。まず、お客と会ってみて、こちらもまったく準備もなく、無防備のまま対話に入る。そうすると不思議なことに、「次に何を言おうか」などと思うことなく、相手の質問に反応するように言葉が生まれてくる。ちょっと、これは、はじめてみて気がついた現象である。

 私は、これまでの「占い師」でも「カウンセラー」でもない。こいつらは、あらかじめ回答の方程式をもっていて、それに相手を当てはめるだけだ。どこまでやれるか分からないが、私は無になって、客と私だけの思考空間を発生させて、何かの方向性を探るような占いをしてみたい。それを占いと言ってよいのか分からないが。


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