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一冊!取引所について

 橘川の関係している出版社「メタ・ブレーン」で一冊!取引所の口座を開設しました。

メタ・ブレーン(一冊!取引所)

一冊!取引所

 私は1972年の学生時代に、ミニコミで知り合った渋谷陽一たちと音楽雑誌「ロッキング・オン」を創刊しました。最初は、個別書店ヤロック喫茶を回って委託販売していたのですが、あまりに効率が悪いので、いろいろ探したら、出版界には「取次」というシステムがあって、普通の出版社は取次経由で全国の書店に本を配本していることを知りました。とにかく何にも知らない素人が雑誌を創刊してしまったのです。

 取次との交渉は、渋谷と私が担当し、今から考えると不思議なくらい簡単に、雑誌コードがとれてしまいました。創刊して4号目から取次経由の全国販売になったのです。しかし、それからが大変。素人のミニコミ雑誌の頃は、隔月刊と言ってましたが、適当でした。しかし取次と契約すると、指定した搬入日にきちんいれる必要がありました、資金のこともあり、私は大学を中退して、日暮里の写植屋さんに弟子入りをして、写植屋を開業し、私の事務所がロッキング・オンの編集部になりました。

 その辺の話は、「ロッキング・オンの時代」(晶文社)に詳しく書きましたので、関心のある方は、ご覧ください。

 それで私は取次との連絡担当になったので、部数交渉や搬入日の確認のため、御茶ノ水の日販、飯田橋のトーハンへ通うことになります。あの頃の日販は、古い校舎みたいな木造の建物で、窓口の社員も声のでかいガラの悪い人ばかりでした(笑)。当時の出版業界の営業担当者も、一癖も二癖もありそうな脂ぎった人が多いように見えました。ていうか、70年代前半に社会の一線にいたのは、戦争体験者や戦後の悲惨な時代に子ども時代を過ごした人ばかりで、生きるエネルギーが半端なかった。私は団塊のはしくれですが、戦後の第一世代から、組織的な人間が増えて、いわゆる「洗練」されたのだと思いますが、それ以前は、野盗的な社会の雰囲気でした。

 日販の部数交渉の窓口も、担当者へのお土産が目の前で盛んに行われていた。ウイスキーや日本酒を、そのまま渡してる(笑)。何しろ、コンピュータデータもない時代で、窓口の担当者の一存で引受部数が決まるのだから、出版社の営業はあの手この手で籠絡接待をしてたんでしょう。

 その点、トーハンの方がサラリーマン然としていました(笑)。騒然とした日販に比べて、静かな雰囲気を覚えています。長年、窓口で担当してくれた、名前は忘れてしまいしたが、丁寧に出版流通のことを、素人の私たちに教えてもらいました。

 おっと、思い出話にのめりこみそうになった(笑)止め。

 当時、日販の地下に直売店があって新刊が並んでいた。書店の人がその本を卸値で購入出来る。出版社の人間も買えるというので、何度か買ったことがある。特に身分証明を求められることもなかったので、作家とかも買いに来てた。神保町の神田村も賑わっていた時代で、地方の書店の人がリュックを背負って、こういう店で本を仕入れていたのだ。

 それも、80年代以後に出版点数が爆発し、POSの導入で配本がシステム化されはじめた頃になくなったようだ。

 当時は、小さな地方の書店店長が、自分で売りたい本を卸しに探しに来て店頭に並べたのである。その時代の雰囲気が、インターネット環境の中で復活したのが「一冊!取引所」である。

▼概要は以下である。

◇誰でも「書店」ができる。(審査はある)

◇出版社は有料で登録して、販売したい書籍データを登録。卸価格を設定する。

◇書店は無料で登録出来て、出版社が提示する書籍を卸値で購入できる。

 まだ開発段階のソリューションだと思うが、この機能が広がると「誰でも書店」が経営出来るのだ。書店の開業は大変で、本というのは委託配本だが開店当初の本の陳列のために、書店側は全部の本を購入するか保証金をあてなければならない。取次にしても、取り込み詐欺みたいなリスクは背負えない。売れなければ返本ありの委託配本のシステムは経営を安定させるが、スタートで先行費用がかかるのが、新規参入が少ない理由だろう。「一冊!取引所」を使えば「売りたい本だけを売る書店」が可能になる。書店単体の経営では大変だろうが、同じテーマやセンスを共有する客が集まる店では効果的だろう。まだ登録出版社が少ないので、これからが楽しみだ。

「一冊!取引所」は、取次経由で配本も可能だが、買い取りの直取引が出来る。本の決済は「一冊!取引所」で行い、版元は書店に本を郵送する。

 つまり、橘川の本を登録しておいて、それを販売してくれる個人や喫茶店などの人が「一冊!取引所」で取引すれば、6ガケで卸すことが出来る。既存の取次とかは無関係である。橘川の新刊は、最初、取次を経由しないでおこうと思ったが、現在、取次対応の本を増刷しているので、それが出来たら登録します。

 橘川の新刊は初版300部で、以後、読者とのトークライブを重ねてフィードバックを反映させて300部ずつ増刷する「生成型書籍」を追求しています。

 このソリューションが現在、活発化している「シェア図書館」「シェア書店」の動きと結合すると、面白いと思う。

 インターネットが新しい私たちのインフラ大地になってくると、これまでのインフラ装置の無駄が多く、パターンに限定されてしまうシステムだったことが分かってくる。

 これからの出版流通は、こういう構造になっていくと思う。

▼詳しくは、本日、6月2日の深呼吸寄席で少し解説するので、関心ある方はどうぞ。

深呼吸寄席(橘川幸夫+平野友康)

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