Suzu Toyama『16 Sixteen』

 だるい日曜日、トムウェイツの声が聴きたくてSpotifyで聞いていた。
そうなんだ、僕は音楽というアートを聴きたかったのではなく、ヒトの声を聴きたかったんだ。リズムやメロディは、声を聴くための方便。正しい声は、正しいリズムとメロディを引き連れてくるのさ。

 思えば、いろんな声を繰り返して自分の日常に流していたことがある。浅川マキ、ジャニス、ボウイ。たくさん聴いたけど、その時、その時に、女性の声を繰り返し聴いた記憶がある。ケイトブッシュ、矢野顕子、大貫妙子、森高千里、チャラ、小島麻由美、青葉市子、宇宙まお。平手友梨奈。今は、中国の名前も読めない女性歌手の音楽が部屋に流れていることが多い。

 オーディオ装置から聞こえてくる女性の声は部屋の空気を包む。テキストやロジックで一杯の頭やわらげてくれる。

 先週は、たまたま聴いたsuzuという16歳の女の子のアルバムをずっと聞いていた。Bandcampで提供されているアルバムは、大半が英語の曲だ。尾道のあまりに普通の女の子の声が、中老の男の部屋に流れ、不覚にもこみあげるものがあり泣いてしまう。気色悪いね(笑)。でもなんなのだろう。

 平手友梨奈が14歳でデビューした時に、「私はアイドルではなくアーティストを目指します」と言ったら、猛烈なパッシングにあった。「生意気だ」「何を勘違いしてるんだ」などひどいものだった。平手は、別に偉そうにかっこつけて言ったのではない。ただ、自分の感情や想いを素直に表現したかっただけなのだと思う。

 suzuの曲を聴いていると、自分の中からこみあげてくる感情を言葉や音にしなければいられない、切羽詰まった表現の衝動を感じる。その衝動は、僕と同じものだ、と思って、こみあげてしまう。無名のまだ一度しかライブをやってことのない、若いミュージジャンの声が聞こえる。

 表現されたものが大事なのではない。表現せざるを得ない衝動だけがロックというものなのだと、長い人生の中で、何度も確かめたことを、尾道の女の子が再び確かめてくれた。

 Lets go 誰かを扇動するのでも威嚇するのでもなく、静かに自分自身に対する合図のように確かめている。彼女がこれからどのようなルートを巡るのか分からないが、さあ、進もう。

Lets go (remix)


人はなぜ他人の声を必要とするのだろうか。



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