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コロナ情況の中で起きていること。



1.最寄り駅


 私の事務所は東急線の学芸大学にある。来客とのランチや夕食は駅周辺になることが多い。もう30年以上、このエリアで生活しているので、だいたいの飲食店は知っているが、感染が広がり在宅ワークがメインになったので、事務所に行くことも少なくなった。
 先日、久しぶりに来客があったので、なじみのカレー屋さんにランチで行った。この店は、味は素晴らしいのだが、分かりにくい立地なので、ランチタイムに行っても、だいたいすいている。しかし、久しぶりに行ったら、結構、来客がいる。
 店のオーナーに「コロナで大変でしょう」と聞いたら、「いや、かえって、客は増えてますよ」と。

 なるほど、企業のサラリーマンの7割をリモートワークにしろと号令が出たので、大手企業や優良企業は、在宅ワークになっている人が多い。学芸大学周辺は、独身者や若いカップルが多く、これまでなら、都心部へ出勤していた人が在宅になる。自炊もするだろうが、外食もするだろう。コロナ以前は、平日の日中は不在だった地元客が、こういう地域の店を利用するのだろう。飲食店で厳しいのは、都心部の店舗であって、最寄り駅の周辺は、平日でも土日の賑わいがある。

 
2.モノヅクリからコトヅクリヘ。そして、次へ。


アパレル大手「ワールド」450店舗閉店へ 早期退職募集も
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210203/k10012847701000.html

聖地・銀座に大異変「化粧品」の厳しすぎる事情
https://toyokeizai.net/articles/-/408150

「アパレル」や「化粧品」の苦境が伝えられている。不要不急の商品の最たるものだろう。都心部に出かけることが減ったり、人と会うことが減れば、服装にお金をかける気持ちも薄れるだろう。そもそも、ウインド・ショッピングをして、衝動買いする機会もなくなってしまった。

アパレルも化粧品も、高付加価値商品である。高級レストランも同じ。原価に一般的な手数料以上の利益を乗せて、その分、ブランド維持のための広告や戦略コストを使う。そうしたものを楽しむ余裕と機会を私たちは失った。

 「モノヅクリからコトヅクリヘ」という概念は、20003年に、私の著書「暇つぶしの時代」(平凡社)に書いたのが最初だと思う。


モノヅクリからコトヅクリヘ

モノヅクリ大国・日本の時代は終わったのだろう。これだけ多様な商品が溢れている社会の中で生まれ育った世代にとっては、新しく「モノを作ろう」という意欲が戦後初期の世代に比べて希薄になるのは当然だ。金融の清算が終わったら、戦後社会の方法論と思想は終了する。そして、その上で、新しい日本の方向性がきっちりと定められるのである。もはや迷う余地はない。モノヅクリは文明の産業であり、来るべきコトヅクリは文化の産業になる。「モノヅクリの構造を築く」ことから、「モノヅクリそのものを楽しむ」という次元に進むのである。文明は多忙な生活の蓄積の上に成立するが、文化は内面的な「暇」の意識の上で成立するのである。文化の時代を始めるために、戦後社会が築いてきた方法論や方程式を大きく突き崩す必要があると思う。154頁

暇つぶしの時代
出版社 : 平凡社 (2003/6/19)
発売日 : 2003/6/19

 日本は、物質的な豊かさを求める戦後社会を経て、「モノ」から「コト」に社会のテーマがシフトすることを書いたものである。

 しかし、今、最大の存亡の危機に襲われているのは「コトヅクリ産業」である。生活必需品としてのモノから、生活を楽しむコト(ソフト)ーの移行は確かな流れとしてあったと思うが、コロナ・パンデミックによって、その流れは遮断されてしまった。


3.欲しているもの。

 パンデミックが終了したとして、もうかつての都心部の賑わいは期待出来ないだろう。高付加価値商品に対して、当然のように支払うことはなくなるだろう。私たちは、この情況の中で、本当に必要なものは何か、ということを考えている。ラーメンの食べ歩きや、一度しかいかないミシュラン店の予約取りも、かつてのようなバブルにはならないだろう。人は、今、落ち着いて考えている。

 この情況の中で、唯一、広がりを見せているのは、コミュニケーション領域である。しかし、これは、お金のかからないものに限る。人々のコミュニケーション欲求をマネタイズの道具にしていいると、必要以上に叩かれるだろう。それは、人が、今、一番欲しているのは、打算のない人間関係だからではないだろうか。

 世界は、近代の生産システム、金融システムの次の世界を垣間見ようとしているのだろう。「ハード」(モノ)から「ソフト」(コト)へ、そして「コミュニケーション」(関係)へ。

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